MONTHLY WEB MAGAZINE Dec.2011


■■■■■ 足尾再訪 田中康平

足尾地域に最初に訪れたのは凡そ40年前のことだった。会社に入って初めて買ったスバル360に乗ってあちこち走り回るのが楽しくて、山道も面白かろうと鹿沼から未舗装の柏尾峠越えの山道を足尾へ向かった。

やっとの思いで峠を越えて始めて現れてきた足尾の赤茶けた禿山の連なる景観の不気味さは忘れられない。

少しばかり傾きかけた日差しに木が一本も無い三角形の山が幾つも赤く谷を囲んで異様に居座っている、見たこともない隔絶された様な世界にたじろいだ感じを覚えている。

話には聞いていた足尾の鉱毒事件のすさまじさを目の当たりにした思いだった。

その後何度か足尾を訪れている。次第に植林が進み山の緑が戻ってきているがまだその不気味さは覆われきっていない。

11月の終わり、ひさしぶりに野鳥を見に足尾の久蔵沢を訪れてみた。日光から足尾トンネルを抜けて暫く下ると間藤の駅へ向かう十字路がある。

ここを右へ折れて狭いガード下を抜けると足尾の旧鉱山町に出る。近代遺跡として発電所跡や古河橋には案内板が置かれているが、それよりも朽ちて行く精錬所を含む鉱山の町の景観全体が日本の近代化を支えた足尾銅山の必死さを未だにどこか漂わせていて感じるところがある。

三川合流ダムから久蔵沢へ入る。サルの集団が道横の岩の上に陣取り鳴き声をあげている。サルを支えるほどに山の緑が戻ってきたともいえるがまだまだだ。

人間のしわざも自然の中の一つのコマに過ぎない。鉱毒で緑が全て失われた景観も自然の一つの相でそれが人間と言う生物の努力でまた緑を戻しつつあるのもまた別の自然の一相なのだろう。

足尾には人を含む大きな自然の転がり行く様を眼前に見せてくれる奥深さがあるようだ。

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