Monthly Web Magazine Dec. 2016

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■  蘇鉄の実 柚原君子

所在地:岐阜県各務原市蘇原三柿野町922。竹林寺境内

   

看板考を1回お休みして、死にそうになった話を。

20代の未来の希望に燃えていた頃、『新宿の母』という占い師に手相をみてもらった。「協調性はあまりない。20代のはじめに結婚をする。子どもは2人。よく働く。40代の頃に大きなものがやってくるが無事にくぐり抜ければ、その後は長生きとなる。」と言われた。

協調性があまり見られないのは小学校の通信簿の所見欄にすでに書いてあったので、当たりである!結婚の時期も当たり!子どもの数は3人目が欲しいと言ったが夫が渋って2人の子持ちで終わり、これも当たりとなった。

40代に大事(おおごと)が起こるという占いなので、交通事故には気をつけるようにした。車の運転も必要以外はしなかった。しかし、大変なことは体の中からやってきた。42歳の時に悪性リンパ腫を発症。膵臓付近と乳房にすでに転移していたので化学療法でもきついといわれるCHOP療法を受けた。毒を飲まされて吐き続ける状態の一年間だった。当時はもう助からない人が行く最終病院と言われた駒込病院に入院していたが、かなり厳しい状況の中、ヨレヨレではあったがともかく生還した。ヨレヨレながら働いた。占いによる「よく働く」も当たりぃ!となった。

さて、さて、大きなものをくぐり抜けた私の老齢期は長く幸せに、と『新宿の母』によって保障をされているので、今では好きなことをしてのんきに暮らしているが、先日、もしかしたら死にそうになったかもしれない出来事を通過した。

前置きが長いが、蘇鉄という名前の木があることは知っている。根元に鉄を入れることによってしっかりと成長するから蘇鉄ということも知っている。島唄の蘇鉄も知っている。犬がその実を拾って食べて死んでしまうというニュースも時折耳にして知っている。しかし、肝心の蘇鉄は見たことがなかった。

農家育ちもあって、昔から実のなる木が好きで、グミ、桑の実、びわ、アケビ、木イチゴ、山モモ、キンカンなどを取って食べるのが好き。癌以後は自然のものを体内に入れることを優先にしていた時期もあり、季節のものを素材のままにいただくのは、死にそうになった経験から体のためには良いと決めつけている。野原でそれらがあると、ちょっと口に入れてみることもたびたびある。

そんな背景を持つ私が、先日の中山道歩き『加納宿の竹林寺』の境内で、見たこともないものを見つけたのだ。木の実にしてはとてつもなく大きくて美しい。そしてうまそう!シュロの木?シュロの実?ふ〜んなんだろう。指で引っかけたらコロッと実が落ちてきそうだ。かじってみたい…と思ったがまずは写真に納めた。好奇心押さえられず、コロッと一粒いただいた。もちろん本堂に向かっておじぎをした。しばらくポケットでコロコロしていたが、カメラのキャップや予定表を出したり入れたりしている間に、どこかに落としたようだ。惜しかったなぁと思った。

帰宅して写真整理をした。やはりきれいな実。しかし調べて驚いた。蘇鉄の実ではないか。そのまま食べれば猛毒で拾って食べた犬が死んだというあの実だ。体内で分解されるとホルムアルデヒドに変化する「サイカシン」という有毒物質を含んでいる。食すれば運動失調や麻痺などの中毒症状を引き起こす可能性がある。ポケットからコロッと転げ出てくれたおかげで、旅先で行き倒れて投げ込み寺に放り込まれるのだけは回避できた。

彼岸花が球根の毒性を利用して田畑の畝に植えてあるのは理にかなっている。トリカブトは誰かを殺す目的に利用される。街路樹になっているキョウチクトウも花を口に含めば、即座に出血性下痢、嘔吐、流涎、視力低下、悪心、失神、不整脈、そして死に至るという。動くことのできない植物は種を守るために毒を放つものが多いそうだ。

蘇鉄の実がポケットからコロッ!と落ちてくれたおかげで、『新宿の母』が言ってくれた老齢期を長く平和に過ごすよ、という今に戻ることができた。

蘇鉄は10年か15年に一度しか花は咲かないそうだ。雄花と雌花があり、雌花の所にこのような実がなるという。それにしてもダイナミックで美しいと撮ってきた写真に見とれている。そして旅先で看取られないで良かったとも思っている。