JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Oct. 2018

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■  月下美人  田中康平

自宅の玄関先には月下美人とクジャクサボテンの鉢が幾つかあって毎日水遣りをしたり時には雑草を抜いたりと最小限の世話をしている。

元は母親が育てていてそれを捨てる訳にもいかずなんとなく引き継いだものだけに、育て始める動機が今一つクリアでなくどちらかというとほったらかしだった。

3年ほど前の冬に雪が何回か降った時があって、大丈夫だろうと鉢を外に出したままにしておいたら朝にはたっぷり雪が積もっていた、これはまずい。

慌てて振り払ったが結局半分以上の鉢は死に絶え残った鉢も春にやっと脇から芽が伸びてきて命がつながっているのを確認するという事態となった。

こんなことがあって、今残っているのは相当に痛めつけられても生き永らえた鉢ということになる、少しは大事にしようとの気になってきた。

しかしながらそれ以来全く花が咲かなくなっていて熱意もいまいちになっていた。

尤も花を見たのはクジャクサボテンばかりで月下美人の方は以前から一向に花が出てこないので咲きにくい品種なのだろうと思っていた。

今年は暑い日が続いて熱帯起源の生き物はみな元気で植木もよく伸びた。

月下美人もあちこちから葉が出てきて以前にもまして勢いが出てきた。

そんなある日月下美人の葉から赤っぽく垂れ下がる蕾のようなものが伸びているのに気付いた。

初めて見る蕾だ、どうやら今年は花が咲くかもしれない、と色々ネットで記事を探していくと同じような状態になった写真が幾つか出てきた。

詳しく書いてある記事によればこれから7-10日位で花が開くらしい。それにしても何でもネットで解る便利な時代になった。

この時には五島に旅しようと五島行の船の予約や宿の予約やレンタカー手配などもすっかり済みガイドブックも幾つか買い込んで五島旅行の準備に盛り上がりつつある時だった。

開花予想日はこの日程に引っかかりそうだが最早どうにもできない。

花は夜の8時頃咲いて翌朝には萎んでしまう、その時に居なければ見ることはできない。

その後暑い日が何日も続いてこれなら出発前に咲くこともあるかもしれないと思い始めた。

蕾は咲く前に上に180度曲がり更にこれを90度近く戻した夜に咲くとある。

出発2日前には180度くらい上を向いている。出発は23時45分出航なので22時頃までは家に居られる。

この日に咲けばぴったりだと思っていたがまた少し涼しくなり蕾の変化もまだまだの雰囲気になって後ろ髪を引かれる思いで五島旅行に出発した。多分出発の翌日の晩に咲きそうだ。

五島旅行は想像以上に感じるところがあり、いい思い出を抱いて帰ってきて、そうだ月下美人は、とみると案の定開いた後の蕾が閉じて垂れ下がり地面についている。

ネットでも改めて調べるがもう花開くことはない状態だ。

株はまだまだ元気だからそのうちまた咲くだろう、今度見ればいいやと思うが残念だ。

なんとかならないかと調べていると、閉じた蕾を分解してみた人の話が出ていたのを見つけて、そうだ、水につけてゆっくり蕾をほぐしていけば水中花のようになるかもしれないと、やってみる。

たらいに水を満たしてゆっくり蕾を手で開いていく。次第に香りがしてくる、これが有名な月下美人の香りか、やってみるものだ、と思ってしまう。

なんとか花のように開いたところでガラスの容器に移して玄関わきに飾っておく。水中花の感じにはなった。

写真で見る月下美人の華やかさには遠く及ばないもののちょっといい感じもする。

1週間くらいこの状態で眺めていた。次はなんとかきちんと開いた時に見たいものだ、そんなことばかり思っているが次はいつ来るのだろうか、来るだろうか、そんな思いも頭をかすめる。呑気に待つ他ないようだ。

写真は順に 1.蕾に気づいた日、2.その3日後、3.旅行前日、4.旅行帰着翌朝、5.水につけて開かせる、6.水中花状態

     

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