JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Feb. 2020

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■  恐怖の滝と恐怖のクレバス 瀧山幸伸

恐ろしい場所と言っても、現地でお化けが出るとかではなく、身の危険を感じる経験をした場所について二つほど。

最近は通常の撮影では物足りなくなって、修験者のように転落や遭難などの危険な場所に行くことが多い。冬の撮影では冬山用の本格的な準備をしていないので、事故があっても自己責任だ。

一つ目は龍王の滝

滝で滑って転落、その霊がさまよっているとかの話はよくある。他人事ではなく自分がそうなる確率はかなり高い。四国の山は中央構造線沿いが特に険しいし岩石が滑りやすい。祖谷の端に位置するこの滝は標高1000m近くあり、麓は温かかったものの現地の駐車場に到着したら積雪だった。そこから氷結した遊歩道を歩き、滝に着いたら一年のふき景色だった。滝の撮影ではただでさえ滑るが、雪と氷が相手では危険度が高い。通常は滝壺の周囲の岩をポンポン跳ねてベストアングルを狙うのだが、今回はかなり用心した。しかし現地の光景と音は素晴らしかった。滝の音はピンクノイズとホワイトノイズが混ざっているので心理学的にも癒し効果があるそうだが、この滝の音は特に気持ちがいい。周波数スペクトルを調べると、他の有名な滝よりも低音成分(ピンクノイズ系)が少ない。滝壺から出ている岩に水が落ちるからだろう。ドウドウ、ゴーッという激しい音ではなく、念仏や子守唄の音に近いので、個人差はあろうが自分は癒された。

二つ目は大引割小引割

こちらも高知県で、四万十川源流の不入山の裏側にある天然記念物の地形で、周囲は四国カルストだ。前回2012年の訪問は12月だった。現地に着いてみると積雪と濃霧で、撮影に悩まされた。加えて現地の足場は滝とは格段に違う悪さで、撮影のためには崖の先端に踏み込まなければならないのだが、一歩踏み外せば狭いクレバスに転落してしまう。さらに悪いことにみぞれまじりの雨が降ってきたので、静止画も動画も臨場感というか恐怖感あふれるものとはなったのだが、ほうほうの体で退散した。 今回リベンジということで再訪した。天気は良かったものの現地はまたしても積雪。これではクレバスの底に入るのが躊躇される。やむなく再び崖上からのおっかなびっくり撮影で終わってしまった。三度目のチャンスを待つしかない。

 

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