JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine June 2021

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■ アサギマダラを追って宗像へ 田中康平

5-6月という春の終わり頃のこの季節は生物の移動が面白い。

タカの渡りは秋はよく知られているが東南アジアから次々に渡ってくる春の渡りもなかなかだ。福岡の地を通過するタカではハチクマがいい。

ハチを食べるクマタカのようなタカ、からその名がついたといわれる。

渡り中もハチを食べたいばかりに春は中国大陸から朝鮮半島を経由してここでは北の方から渡ってくる。

今年は福岡市南の油山で5月14日に1日で1000羽を超えるハチクマが観測された。

チョウもこの時期渡るものがいる。

世界ではいくつかの渡りをする蝶の名前が知られているが日本ではアサギマダラだ。

この蝶も福岡を通る。鳥のように発信機を付けて衛星経由で飛行ルートを追跡するわけにもいかず、羽に文字をマジックで書き込んで渡った先で確認するという手法がとられて移動の状況が少しは解ってきたようではある。

しかし具体的にどんなルートで渡っていくのかは推測する他ない。

油山のハチクマ観測の記録を読むと今年はアサギマダラも三々五々油山を通過していったようだ。 鳥と同じようなルートも使っているのかもしれない。

とにかく見たくなる。見たいと思ってたやすくはみれない蝶だが確実に見るにはアサギマダラの好む花の咲いている場所に行ってみるのが一番だ。

福岡近郊では宗像の海岸にアサギマダラの好むスナビキソウが多数自生していてこの花を目指して多くのアサギマダラが飛んでくるといわれている。

宗像の海岸にある織幡神社のあたりがいいらしいとの情報がネットやテレビで流れる、

数年前に訪れた記憶があり、やはりあそこかとまた出かけた。

神社に着くと直ぐ近くの森のへりにアサギマダラが数頭見える。

日陰になったところにこれも好物といわれるスイゼンジナが植えられこの花に集まっているようだ。

海岸では昼間は気温が上がり過ぎ涼しさを好むアサギマダラは出てこないらしく、昼間でも森の陰となり涼しいところにスイゼンジナが植えられたようだ。

宗像で春期に捕獲されたアサギマダラには宮崎でマーキングされたものが見つかっているという。

色んなルートを使いながらここを通って北上しているようだ。

ただ成虫の寿命は4-5か月と言われ、北上した蝶は中部・関東・東北の目的地に到着後卵を産んで寿命は尽き、卵から1か月くらいで成蝶になる子が帰りの秋の渡りを沖縄近辺に向けて行っていると思われる。

秋はフジバカマの花を伝って行くようだが、DNAにその行程が刻まれているのだろうか。

戻り切れなければキジョラン等の食草をみつけ卵を産み付け幼虫で冬を越すのもいるようだ。

宗像の山でも冬季に幼虫が見つかっており、綱渡りの様な生涯を続けている様が感じられる。

この沖には海の正倉院といわれる沖ノ島があって古代より大陸・半島との往来のキーポイントとされ、一方で鳥や蝶にとっても渡りのルートが交差する大事な土地でもあるようで興味は尽きない。

写真は順に 1.配置図、2.渡るハチクマ 3.ハチクマの渡り-鷹柱 4-9.アサギマダラ 10.織幡神社、11.織幡神社背後の沖ノ島遥拝所から沖ノ島を望むもこの日は見えず

          


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