JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Mar. 2022


■ ASMR  瀧山幸伸

ASMRは流行語になっているらしい。詳しくはWikipedia等で調べていただきたいが、人によって解釈が違い、感じ方も千差万別のようだ。

肯定的な人は「脳が震えるような快感の音」、否定的な人は「音のカルト」などと比喩している。音のカルトを平たく言うと「音のパワースポット」だが「パワースポット」という言葉もいかがわしい。

「日本の音百選」というのがあるが、選定当時の音環境と現在の音環境に落差があるものが多く、さらに文化的要素と自然要素が評価指標なく混在しているためわかりずらい。

Japan GeographicにもASMR音源の提供依頼があった。

 「あの有名な観光地XXの水音の録音はありますか?」

 「えっ? 観光客や車の騒音が激しいあそこをASMRとして使うんですか?」

 「インスタばえと同じでネットで話題になっていない所は拡散されませんからね。リバーブを効かせるなど音を加工すればそれらしく聞こえますから大丈夫ですよ」

残念ながらこれがASMRの実態なのだろう。

Japan Geographicは好ましい音の宝庫だ。騒音とは無縁の滝の音、山中の清流の音、浜辺の波の音、その波で浜の小石が揺られて出る音、秋の虫の声、鳥のさえずり、山奥の鹿や猿などの鳴き声、松籟や竹藪の音、静寂な寺院での鐘の音、洞窟内の音、水琴窟の音などなど。だが「好ましい音」とはその人にとって好ましい音であって、万人に好まれるわけではない。温泉宿の水音がうるさくて眠れなかったという宿泊予約サイトのクチコミは意外と多い。

自分は映像よりも録音に気を遣う。対象に応じて5個のフィールドレコーダーと10個のマイクの中から適当なものを選んで録音しているが、納得できる結果は10に1つも得られていない。

だが朗報もある。最近のレコーダーは32ビットフロート録音ができるようになっている。音量が大きすぎてひずんでいた鐘の音や、微弱すぎてノイズが多かった音が簡単に録音できるようになったことは画期的で、今後の録音が楽しみだ。

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