Japan Geographic

看板考 柚原君子


「お口の恋人 ロッテ」 

埼玉県蕨市で見つけた。

ロッテは日本国内最大級のお菓子会社。韓国の企業であることは有名。

キャッチコピーは「お口の恋人 ロッテ」。

何とも上品なこのコピーは一般公募で選ばれたのだが、ドリフターズ仲本工事の実母というウワサもあった。

韓国はとても行きやすい国で私も数回の旅をした。

南大門の怪しげなカバン屋さんで奥の奥に連れて行かれて30分限定で有名カバンをサッと買って成田でヒヤヒヤしたこと。

ロッテワールドのアウトレットに行くために一時間もタクシーに乗ったのにわずか1000円だったこと。

中でもエステに行ったことは本当に面白かった。

……「ジェンブ(全部)裸ニナッテクダサイ」と言われて、渡された短いガウンを来て待っていると、采配係りがやってきて早口の日本語で言った。

「基本コースハ垢スリト全身マッサージ80,000 ウォン、足ツボマッサージ50,000 ウォン、蓬ヲオ尻ニ入レテ蒸スハ40,000 ウォン、顔パック30,000 ウォン、ドシマスカ?」

蓬をお尻に入れて蒸されるのは嫌なので基本コース+足ツボマッサージにした。

チップは10,000 ウォンと明るく言われて14,000円を払った。

薬草が天井からつるされた薄暗くて温かい部屋に通されて、何となくウトウトとなった頃に呼ばれた。

コッチ、と手招きされて銭湯のようなドアを開けると中を誘導してくれる人にバドンタッチされた。

サウナが3つ並んでいた。一つ目のドアを開けて私たちを押し入れながら「気分悪クナッタラ自分デ出ルネ」と言われた。

息もできぬほどの熱気。気絶しそうで1分もいられず這うようにして出た。

「コノ水デ顔ヲ洗ウネ」と指示があった。

次はハッカサウナ。

「気分悪クナッタラ自分デ出ルネ」と再度押し入れられる。

ハッカ刺激でタオルを目に当ててうずくまる。

熱い!たまらずに出る。

最後のサウナは薬草がごろごろ転がしてある中にムシロをかぶせられてお乞食さんのように座らされた。

常套句、「気分悪クナッタラ自分デ出ルネ」。

次に朝鮮人参の浮いている湯に沈むように言われた。

手招きされて湯から出た所でガウンをはがされた。

落ちそうな細いベッドに寝かされた。

ビキニ姿に無理のある年配の婦人が両手に手袋をはめて垢すりをしてくれる、ひっくり返してごしごし。

油塗りマッサージ。

その合間にシャンプー。

乱暴この上ない!終わって足ツボマッサージ。

これは気持ちが良い。仕上げはペディキュア。赤い色にラメを乗せてもらった。

体はスベスベ、顔はピカピカ、足の爪はキラキラ!美しくなった!とは身の程わきまえて言わないが、気分は良好だった。

帰国時の仁川空港に行く高速道で「お天気がよければあちらに北朝鮮の山々が見えます」とガイドさんがその方向を指差されたが、白い雲がかかっていて何も見えなかった。拉致されている人々を想った。

それにしても、このロッテチューインガムの看板は、なんとおおらかな看板だろうと見入ってしまった。

今は何でも畳み込むような言葉数で四方八方から情報が押し付けられてくる時代である。

TVのCMなど言葉がかぶって聞き取れないことも多い。

その反面では、ラインとやらで短く省略された感情が誤解されやすい言葉で、さらに早急さを求められてやり取りをしなければならない事象もある。

子どもの成長に害はないのだろうかと憂う。

「お口の恋人 ロッテ」。さわやかなミントの味がする。良い日本語である。

そして何か違うものに命を変えて貰えていたらステキなのにね、と思います。

 


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