Japan Geographic

看板考 柚原君子


 

 

「トンデレラ シンデレラ」 

 

ミイラが発見されても古代化石が遺跡から出現しても大ニュースなのに、三億年前からある生きた化石といわれているのに見向きもされないどころか嫌われ者の「ゴキブリ」。最近の研究では三億年ではなく二億六千万年前、カマキリから枝分かれしてものというのが通説になっています。
古来の名前はゴミをあさるということで「阿久多牟之(アクタムシ)」。

ゴキブリの語源はさだかではないものの「御器かぶり」が変化したもので、つまりは器にある食べ物に寄ってくるということなのでしょうか……ともあれ、可愛がられた過去はどうやら無いようです。

奇妙な黒光りは気持ちが悪く、またゴキブリはばい菌を運ぶかたまりとみられ下水の中からでも顔を出してきて食べ物の上を走り回ることが、衛生上とても悪い害虫とされています。

またゴキブリの目はどこにあるのか解かりませんが、捕まえようと身構えると敵もジーとして様子をうかがい、最悪の場合、羽をばたつかせて向かっくることもあり、気持ちが悪い上に怖い虫のイメージもあります。

私は実家が食堂でしたので、ゴキブリを退治する煙を焚いても二三日もすると調理場に出没します。近所で一斉に退治しなければ、いやそのようにしても二億六千万年前から生き続けている生きた化石を絶滅させる対処はないので、だから生き延びていると言えるのでしょうね。

当該看板は浅草で見つけたもの。ゴキブリに見えない絵や、強力のツヨイという字が旧字で相当古い看板かと思われます。

キンチョールはゴキブリを初めとする害虫を殺す液体ですが、殺すとダイレクトに言えないので「トンデレラ!シンデレラ」「ゴキブリホイホイ」など、テレビコマーシャルも笑いの方面に意識を向けるようにして気を遣っているようです。

キンチョールは金とオイルを組み合わせたネーミングで、金鳥のマークは鳥の頭の部分だけです。それには理由があって中国の歴史書「史記」の一節の「鶏口と為るも牛後と為る無かれ」が創始者の信条。業界の先駆者として「鶏口」となる気概を、「金の鳥の口のある顔の部分で表し、そしてその下に創始者である自分の名字「上山」をいれています。

冬眠もせず一年中動き回り、せめて玉虫色であれば良いのに、憎たらしいくらいの黒光りで腹にとてもたくさんの子供を持つゴキブリ。自宅台所をいくらきれいに保っても、ベランダから飛んで入ってくるのでどうにもならない。テントウムシや蜘蛛が居室に入ってくると、丁寧に手で柔らかく囲みベランダの樹木の上に乗せてやる我が家だが、ゴキブリだけは、やっぱりどうにもならない。が、一匹を逃すと大変な事になるので、キンチョールで追いかけて、噴霧した場所をきれいに拭き、近辺に食器が有れば洗い直し、ザルも鍋もゆすぎ治すことになる。ほんとうに憎っきゴキブリである。

 


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