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坂学 事始め
Academic view of slope

坂学とは
Introduction

瀧山幸伸

Apr.2011

「坂学」は学問としてまだまだ未開の分野であるので、将来の研究者のために拙論を記しておきたい。
なお、「坂学」は自分がライフワークとしている「街並学」の研究から派生したものであり、定義や評価手法などは「街並学」をあえてデッドコピーし、両方の研究において方法論が妥当であるかを検証することに力点を置いているので、「坂学」をメインに研究しているわけではない。


■■■■■ 「坂」の用語の定義


「坂」は景観を認識する一概念であり、「自然が人の手で影響を受けた傾斜のある道路景観」と定義する。従って自然だけの傾斜は「坂」とは呼ばない。「けものみち」や山の裾野は坂としては扱わないこととする。
「坂」は土地利用の一形態として「文化的景観」という概念で扱われる景観のうち、「道路景観」に限定される。具体的には、文化庁が「重要文化的景観」を選定する場合の下記基準のうち、定義一の(7)「道・広場などの流通・往来に関する景観地」のみを対象とする。この点は「街並」が下記基準を全て対象とすることと大きく異なる。


(1)水田・畑地などの農耕に関する景観地
(2)茅野・牧野などの採草・放牧に関する景観地
(3)用材林・防災林などの森林の利用に関する景観地
(4)養殖いかだ・海苔ひびなどの漁ろうに関する景観地
(5)ため池・水路・港などの水の利用に関する景観地
(6)鉱山・採石場・工場群などの採掘・製造に関する景観地
(7)道・広場などの流通・往来に関する景観地
(8)垣根・屋敷林などの居住に関する景観地


前項各号に掲げるものが複合した景観地


■■■■■ 「美しい坂」とは 〜表象としての「坂」

「坂」を認識するには、道路が傾斜していることが認識されれば足りるが、「美しい坂」の定義は難しい。

■道路景観の美しさ

道路自身の美しさを考えてみよう。例えば湾曲している坂は美しい場合が多い。湾曲には二つある。
一つは道路の進行方向に見て水平方向(左右)に湾曲している場合、いわゆるS字カーブの坂。
もう一つは進行方向は直線だが垂直方向(傾斜)が湾曲している場合。断面図で見ると富士山の裾野が描くシルエットのような「サイクロイド曲線」の傾斜を持つ坂は美しい。城の石垣や寺社の屋根も同様にサイクロイド曲線であり美しい。
水平垂直両方向の湾曲を持つ坂はさらに美しい。
「坂」の定義で、自然だけの傾斜は扱わないとしたが、ほとんどの坂は自然の傾斜地の上に成立しており、美しいサイクロイド曲線を持つ傾斜地には美しい坂が多い。富士宮にある富士山本宮浅間神社所蔵の「富士曼荼羅図」に描かれた坂は美しいが、今日我々が利用する富士山登山道はまるで外科手術の縫い目のようであり美しくない。


■道路に付随する景観の美しさ

道路自体は美しくなくとも、道路に付随する構造物や道路に面する建築物が美しければ坂は美しい。坂を構成する景観要素の、塀、生垣、石段、石塔、ガードレール、標識等が美しければ美しい坂景観が演出される。京都参寧坂のように建物と坂が調和すると美しい。


■「心象景観」の美しさ

「坂」が文化や心理と関連していればなお美しい。文学や映画に登場する坂は、それが自分の好むものであれば心象風景として同定される。過去に訪問した時の美しい思い出がある坂もまた美しいし、視覚以外の五感に訴える坂も美しい。 





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