持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究

サステイナブルシティ「J-town2010」の導入可能性検討 (日本国内編)

瀧山幸伸

Ver. Jan.29, 2013 

初稿 Feb.27 2012

■■■■■国内でサステイナブルシティ導入が急がれる地域の特性

将来像が見えない日本をいかに変革するか。サステイナブルシティの理念の章に示すとおり、サステイナブルシティJ-town2010のミッションは、全世界に「1世帯5人家族が、住居費、水道光熱費、食費、教育費などを合わせて1カ月100ドル以内で永続的に生活する社会」を実現することである。J-town2010は国際標準の仕様なので、開発途上国でも日本国内でも実現できる。日本国内でサステイナブルシティを開発する場合、どのような場所が適しているのだろうか。

J-town2010はセルフコンテインド型なので、5000人1200世帯に最低限必要な用地、すなわち半径約800m程度のコアゾーン(サステイナブルハウスと市街部用途)と、その周囲のバッファゾーン(環境保持と資源循環用途)があれば、国内ではどこでも適用可能である。だが、現在最も導入が急がれる地域は、世界規模での導入における優先順位と同様に、サステイナビリティの脅威に晒されている「過疎の農村地域」と「高密度な大都市」である。

国内でJ-town2010を普及させるミッションは、全国各地の低利用地をサステイナブルシティに変え、過疎の農村地域の崩壊には集約で対処し、高密度な大都市の崩壊には移住で対処して、全国民をサステイナブルシティに収容することだ。言い換えれば、低コストで安全な国土改変手術を行うということだ。

■■■過疎の農村地域 

サステイナブルシティJ-town2010は、セルフコンテインドの理念に従い食料の自家生産を原則とする。食料の生産性を高めるため、米作ではなく水耕栽培を行う。

国内にはJ-town2010のようなセルフコンテインドの自律型コミュニティは無く、高齢化、耕作放棄等の過疎問題その他が顕在化している。その根本的原因は、農業(米作)だけでは生活できていない現状である。もちろん中近世から戦前にかけても米作だけでは生活が成り立たず、特産物や養蚕などの副収入を得ることによってサステイナビリティが担保されてきたのであり、「日本は米作の国」というのは文化的にはその要素もあるが、経済的には正しくない。米作とは別に高付加価値の産品を加えるか、その他の手段で収入を増やすかしかグローバルに生き延びる方策は無い。かつて農地を開拓したり養蚕や牧畜を行ったが、今日ではそれらも経済的に成り立たず、農村地域は過疎と耕作放棄に悩む。無住のゴーストタウンになる前にサステイナブルシティJ-town2010に生まれ変わるとともに、サステイナブルシティに適した産業を創生することが必要である。

だが、サステイナブルシティは過疎の集落をあまねく救うことが目的ではない。J-town2010は食料生産と居住がコンパクトに両立し、米作が必須ではないので、災害に弱い弥生型の集落を維持する必要もないし、祖谷などに見られる山村の問題を解決するソリューションでもない。狭隘な山村や漁村に住み続けることは自由だが、J-town2010では対応できない。J-town2010には最低限半径800mの平らな土地が必要だ。

徳島県三好市 祖谷落合の集落

 

■■■高密度な大都市 

一方、国内の「高密度な大都市」も大問題である。かつてハワードの「田園都市」のコンセプトを無視して「名ばかりの田園都市」、実態は産業ゼロのベッドタウンを増産してきたから、高密度な大都市は周辺のベッドタウンとともにサステイナブルではなく、見直されなければならない。高密度な大都市を同じ場所で「改造」することは、コスト等の問題で容易ではなく、高密度な大都市から他所のJ-town2010へ「移住」することが現実的である。

リゾート地、リゾートライフのありかたも見直されるだろう。従来は高密度な大都市の居住者の息抜きの場としてリゾートが存在していたが、リゾート適地にJ-town2010を開発し、そこに移住してサステイナブルな生活をすることもありうるだろう。

多摩ニュータウン

名ばかりの田園都市で、実態は産業ゼロの典型的ベッドタウン

 

長野県富士見町 井戸尻遺跡

縄文のまほろばであり、リゾート適地でもある。

 

■■■■■国内での候補地の例示

サステイナブルシティの導入が急がれる地域の特性を考慮し、国内各地から候補地を例示し検証してみたい。比較しやすいように縮尺を揃えるとともに、詳細地図にはJ-town2010の標準となるコアゾーンを半径800mの円で表示している。

■■■過疎の島の例 (長崎県佐世保市黒島)

島はおのずからセルフコンテインドにならざるをえず、サステイナブル指向である。サステイナビリティの危機を迎えている島の例として、長崎県の黒島を取り上げよう。

黒島は面積約5.3km2、人口650人の、「隠れキリシタン」の島としても知られ、現在も人口の約8割がカトリック信徒であり、コミュニティのつながりは濃く、住民が資材を背負って造った島のシンボルの黒島天主堂は重要文化財で、世界遺産候補となっている。

島の周囲は険しいものの、内部は比較的平坦な台状の地形で、土は赤土のため根菜類が非常に美味しく人気があった。だが、農業従事者が減ったため出荷は極端に減っている。

かつては御影石の生産が盛んで、黒島天主堂にも島内で切り出された石が使われている。この島での留意事項は防災、すなわち台風の暴風対策である。南西日本の普遍的な問題であり、暴風目的の石の家や石垣は長崎県の西海岸に特徴的だ。この島ではJ-town2010標準の木の家ではなく、地元産出の石を利用した石の家がふさわしい。

当地は冬は暖かい。夏の暑さと湿気は課題であるが、電力源として風力も利用できるので、夜間の冷房などには好適である。

    

黒島の風景 

黒島天主堂

  

島内の耕作放棄地

 

長崎県西彼杵半島の石の家(長崎市出津

石を積んで間にアマカワ(砂、しっくい、赤土)を埋めている。

 

■■■ 農村地域における低収益な土地利用の例

放牧地など、低収益な土地利用を行っている地域、あるいは耕作放棄地や農村部の工場跡地は、J-town2010への好適地だ。そのような地域を例示してみよう。

■熊本県産山村(放牧地)

産山村は熊本県と大分県の県境にあり、阿蘇外輪山から九重高原の標高500mから1000mに拡がる村である。村全体でも60Km2、2005年の人口1708人、世帯数566と小さく、人口の4割が65歳以上の高齢者だ。高原には牧場が拡がっており、疎放的な農業が営まれている。高原なので夏が過ごしやすく、景観が良くなだらかな土地は、リゾートの適地でもあるが、永住型のJ-town2010にはさらに適している。

この地での留意事項も防災、すなわち阿蘇噴火に伴う火山弾、火山灰だ。火山弾被害の確率は低いが、万が一に備えて避難対策が必要だ。火山灰は最近では1979年に1mmの堆積があったが、水耕栽培なので影響は軽微である。当地では風力もエネルギー源として利用できる。

    

産山村の風景

 

■青森県六ケ所村(放牧地)

六ケ所村を含む青森県むつ地方は、日本海流による夏の寒冷な気流、いわゆる「やませ」の影響で米作に不適な土地であった。

それゆえに、かつては新産業都市構想の延長である新全総(1969年)に「むつ小河原開発」として盛り込まれたが頓挫し、その後も核燃料関連施設などの土地利用の試みがなされたが、不調に終わったと言わざるを得ず、現在も疎放的な牧場を主とする土地利用がなされている。

北海道の原野も同様だが、米作を考慮しなくても良いJ-town2010にはこのような土地は適している。気候区分としては西岸海洋性気候なので夏が涼しく過ごしやすく、冬の積雪も多くない。当地では風力もエネルギー源として利用できる。

    

六ケ所村周辺の風景

  

■静岡県牧の原市(茶園)

牧の原台地は水が得にくく米作には適していない。それゆえ開発が遅れたが、明治以降には茶が輸出商品となり、武士の入植先としても好都合だったので茶園の開発が行われた。今日ではスズキ自動車をはじめ工場の進出もあり、農業と工業のまだら模様の土地利用となっている。茶園は今のところ産業として成り立っているが、将来性は疑問だ。大規模生産指向の工業も本質的にコストに敏感で、グローバル競争に巻き込まれて海外移転もありうるので、サステイナビリティが低い。茶園や工場の経済性が怪しくなった時には、その跡地をJ-town2010に転換することがありうるだろう。

    

牧の原の風景

 

■福島県郡山市 布引山(開拓畑作地)

原発被害からの脱却を目指し、今最も注目されている福島県でサステイナブルシティを創造することは、国内では最も厳しい課題の一つだ。

例として、郡山市と会津若松市にまたがる布引高原開拓地を取り上げてみよう。ここは標高1000mで、竹やぶが広がる原野だったが、戦後の食糧不足時代に開拓農地となった。紆余曲折を経て、布引大根の畑地が60haほど拡がっているが、現在では耕作放棄地も見られ、畑に33基の風力発電機が林立している状況である。もし風力発電が行われなかったとしても、猪苗代湖と磐梯山を望む風光明媚なリゾート適地である。

風力もエネルギー源として利用できることはメリットだが、当地での問題点は冬の大量降雪だ。温室での水耕栽培を行えば雪の問題は軽減されるが、タウン内の除雪は課題として残る。

    

布引山の風景

  

■■■■■福島県鮫川村での可能性

同じ福島県内でも、福島第一原発に近く、多大な被害を被った地域でサステイナブルシティJ-town2010は可能なのだろうか。

積雪が無い、あるいは少ない地域は、福島県内では中通りと浜通りである。その地域で適当な候補地として鮫川村を取り上げる。

■鮫川村の地理

 

   

鮫川村は中通りと浜通りの中間に横たわるなだらかな阿武隈高原、福島県の南端に位置する。典型的な農村地域で、そもそも過疎化に直面していたが、原発事故による土壌汚染や風評被害が追い打ちをかけ、牧場やゴルフ場はもちろん、コミュニティ全体が危機に瀕している。

阿武隈高原は浸食が進んだなだらかなカルスト地形で、村の大部分は400mから650mの範囲にある。耕地は山峡に開け、丘陵部の緩傾斜地の多くは採草放牧地に利用されている。総面積は131km2で、林野が約4分の3を占め、残りが農用地などとなっている。気候はおおむね表日本型気候で、標高が高いため夏は過ごしやすいが、年によっては夏の異常低温による農作物への影響がみられる。

広域交通は、車で白河市へ約45分、郡山市・いわき市へそれぞれ約1時間、福島市へ約2時間の距離にある。東北道、常磐道、東北新幹線、福島空港へのアクセスは車に頼るしかないが、逆にいえば無駄な公共交通機関の維持費が不要である。

鮫川村に人が住みついたのは縄文時代前期と推定され、縄文中期から弥生後期におよぶ数々の遺跡も発掘されている。要するに縄文からのまほろばであった。鮫川がどのような風土であるかは、村が実施しているフォトコンテストで知ることができる。

 

■コミュニティ

2008年の人口は4078人、世帯数は1132である。原発事故以降はこれを下回っているだろう。65歳以上の高齢者人口比率は約30%と、過疎化高齢化が深刻な農村地域に典型的な構造だ。

 

■ 産業

鮫川村の基幹産業は農業と中小規模の製造業と建設業であり、1次産業の比率が年々低下している。過疎化が深刻な農村地域に典型的な産業構成だ。

 

■教育

村内には2つの小学校と1つの中学校しかなく、高等教育機関は無い。遠距離通学のうえ、2007度の児童生徒数は、小学校218、中学校162と少なく、教育環境としては厳しい現実がある。

■財政

平成19年度の一般会計は29億円、社会保健、上下水道などの特別会計が16億円であるのに対し、税収は28億円であり、財政面でもサステイナブルではない。

 

■鮫川村の特徴 

サステイナブルシティJ-town2010を開発するにあたり、鮫川村の特徴をまとめると以下のとおりである。

・過疎の農村地域の典型

鮫川村は交通不便な1次産業型の過疎の農村地域の典型だが、コミュニティには古き良き日本が残っている。J-town2010はセルフコンテインド型なので地域間交通は重要ではない。

・有利な自然条件

自然豊かで、地形的にもカルスト地形特有のなだらかな丘陵地である。積雪が多くないこと、夏が冷涼であることは居住環境としては利点と言える。

・原発事故からの脱却モデル

2011年の原発事故の影響は大きく、当地も土壌汚染や風評被害など、サステイナビリティの大問題を抱えている。J-town2010は天水を上水利用後に水耕栽培として循環利用するシステムであり、土壌汚染や水質汚染の影響を受けないので、この問題を解決するモデルとして適当である。

■ 鮫川村内のJ-town2010候補地

鮫川村のどの地域をJ-town2010の候補地として検討するか。J-town2010が即座に実現可能な対象地の例として、鹿角(かのつの)観光牧場を取り上げる。鹿角観光牧場は村自ら観光振興などを目的に事業化したものだが、成功していたとは言えず、原発事故が追い打ちをかけて壊滅的な状況である。牧場は標高650mほどのなだらから高原に拡がり、周囲は森林、放牧地、耕作放棄地となっている。

この場所の、中心部半径800mをコアゾーン(赤円で表示した部分)とし、周囲の半径2kmをバッファゾーン(緑円で表示した部分)と仮定しよう。

広域の位置は以下のとおりであり、既に検討した全国各地の事例と同じ縮尺である。

  

コアゾーンの詳細は以下のとおりである。

  

■■■ 鹿角観光牧場がJ-town2010の仕様に適合するかどうかの検証

当地でJ-town2010が成立可能かどうか、J-town2010の標準仕様に従い検証してみよう。

■■セルフコンテインド

■A 自給自足

以下に示すように、J-town2010の標準システムがそのまま採用可能である。

aエネルギー

サステイナブルシティのエネルギーの章で検討したとおり、電力に関しては、標準仕様の各住宅の敷地内に地上設置する太陽光発電で問題ない。風力も補完的なエネルギー源として利用可能である。皮肉にも当地の北西を福島原発から首都圏への送電線が通っているが、それには頼らない電力システムである。電力をプールし相互に融通するために、J-town2010で標準仕様としている「小規模クラスター仕様(低コスト仕様)」の電力システムを導入する。30世帯程度を1グループとして低電圧(100/200V)の電力ネットワークを自力で設置する方式なのでコストが安い。

熱エネルギーに関しては太陽熱を主とし、補助にバイオ熱源として周辺バッファゾーンで生産される雑木やバイオ由来の廃棄物を利用する。

b水(生活用水、水耕栽培用水)

サステイナブルシティの水と食料の章で検討したとおり、水はJ-town2010標準の雨水利用方式を採用する。当地の降水量はそれを賄うに十二分である。降雨なので放射能汚染の問題は無い。また周囲のバッファゾーンで得られる安全な地下水も補完的に利用することが可能であり、水の問題は無い。

c食糧(地産地消、自家生産)

サステイナブルシティの水と食料の章で検討したとおり、当地ではJ-town2010標準の各世帯別の下水処理水を利用した水耕栽培方式を採用する。水耕栽培用の水はふんだんに得られるため、トマト栽培であれば各世帯の敷地面積はJ-town2010標準の800m2程度で良く、それで一家5人が必要とするカロリーは生産可能である。下水処理水に含まれた有機肥料を利用するので化学肥料は激減する。土壌栽培ではないので土壌の放射能汚染の影響は無い。当地は冷涼な気候なので、冬期間はビニルハウスまたはガラスで覆った水耕栽培となる。覆われた空間なので無農薬栽培も可能である。要するに、最新技術による「自作農」の創設であり、当然ながら各世帯の敷地は「農地」扱いである。

トマトの自家水耕栽培方式について補足しておく。各世帯が毎日の食材として生のトマトを食することではない。トマトに含まれている糖分を基本カロリーに利用し、リコピンなどのビタミン類を健康維持に利用するという目的である。従って、各世帯で収穫されたトマトはタウン内の農産物共同加工場で液化、濃縮、乾燥などを行い、生成される炭水化物、酒、調味料、健康食品などの製品に仕上げることが現実的だ。余剰な生産物は備蓄したり外部に販売することも可能である。

もちろん、全ての世帯が同じ品目を生産する必要はなく、タウン内での多様な水耕農産物を相互に融通したり共同栽培するなどが現実的である。また、バッファゾーンでは従来型の農業も行う。当地に適したソバ、麦、雑穀、いも類は有機無農薬栽培も可能である。

動物たんぱく源としては、鶏、豚、ヤギ、牛の放牧も可能である。淡水魚はタウン内の修景兼養殖池あるいは各世帯の処理水プールで養殖される。果実は当地に適しているリンゴなどを栽培する。長野県飯田市のように修景と街路樹を兼ねたリンゴ栽培も可能である。

飯田市のリンゴ街路樹

 

地産地消の理念を実現し、食育として食文化を豊かにするとともに健康志向の食事を目指すという観点でも水耕栽培と従来型の農業が共存するシステムが現実的であり、山形県庄内地方で「在来作物」とそのタネを守り続ける人々を追ったドキュメンタリー映画『よみがえりのレシピ』のような食文化がより身近に実践可能となる。

映画 『よみがえりのレシピ』HPより

---在来作物は何十年、何百年という世代を超え、味、香り、手触り、さらに栽培方法、調理方法を現代にありありと伝える「生きた文化財」である。しかし高度経済成長の時代、大量生産、大量消費に適応できず、忘れ去られてしまった。社会の価値観が多様化する現代に、足並みを合わせるように在来作物は、貴重な地域資源として見直されている。在来作物を知ることは、食と農業の豊かな関係を知ることにつながる。地域に在来作物がよみがえり、継承されていく姿は、豊かな食を味わい、楽しむ姿であり、地域社会の人の絆を深め、創造する姿である。この動きを日本全国、さらには世界中で起きている食や農業の問題への処方箋(レシピ)として、伝えていきたい。---

しかし当地で得られない食料は「広域連携」で調達せざるを得ない。海産物は、海に隣接していないので福島県浜通りなどから調達する。 同じくコメの自給も不可能ではないが難しいので、どうしても米食が良いという人は鮫川村内または周辺市町村の米作農家から調達する。

d資材

サステイナブルシティの住宅の章で検討したとおりである。建築土木資材は原則としてバッファゾーンから調達する。建築は木造の平屋とし、そのための木材はスギなどの針葉樹を植林する。スギ、アカマツは当地の潜在植生と親和性があり、生態系の維持改善も可能である。平屋なので間伐材も利用可能である。石材も地域内で調達する。それ以外のセメント、金属、ガラス、設備機器などは外部に頼るしかない。

木材は問題である。本格的な調査を行っていないが、バッファゾーンだけでは十分な建築用木材が得られないかもしれない。今からバッファゾーンに植林したのでは、間伐材であっても利用可能となるまで20年以上必要なため、サステイナブルな木材利用は次世代から可能ではあるが、初期の住宅建築には用材が不足する。

住宅建築には二通りの対処策がある。一つはかつてのシアーズハウスのようなハウスキット方式。近隣から地元産の用材を調達し、その他建材や住設機器と合わせた住宅建築キットをもとに、居住予定者とコミュニティの住民自らの労働で平屋を建築する方法である。

もう一つはトレーラ-ハウスとして工場組立する方式である。広域から建材を調達して車台に組み立て、現地に運搬して据え付けする方式である。ハウスキットの平屋は素人でも容易に建築できるメリットがあるが、開発初期で居住者が少ない段階では短期間大量の建築を行うことができない。一方トレーラーハウスであれば既存の建築関連及び開発関連法の規制を受けないし、オフサイトでのプレハブなので早急なタウン開発には有利である。被災地での応急復旧策としてトレーラーハウスを導入した事例は、宮城県女川町のトレーラーハウス型宿泊施設「エルファロ」があるが、J-town2010の標準仕様はこれよりもはるかに大型で美しく快適である。

トレーラーハウスはハウスキットに比べると自らの家を自ら建てるという愛着が薄く、デザインも画一的となる。だが、J-town2010の家と土地はハワードの田園都市構想によるレッチワースと同様、そもそも所有権よりも利用権を重視しており、土地も家も賃貸借契約よりも権利が弱い利用契約なので、家や土地への過度な愛着はコミュニティ運営の妨げともなりかねない。

女川町 エルファロ(日経ビジネス)

  

e交通(域内交通中心、通勤通学なし、コアゾーン内最高速 6km/h)

サステイナブルシティの開発運営コストの章で検討したとおりである。J-town2010のコアゾーン内では自動車は時速6Km未満に規制されるので、安全であるとともに、道路建設に環境負荷の高いアスファルトやコンクリートを必要としない。もちろん各世帯が乗用車を所有したりカーシェアすることはあろうが、通勤通学は徒歩なので、乗用車は主に域外との交通用途であり、乗用車需要はそれほど多くないだろう。また、農作業等各種作業用には電動の貨物車などを共用することで十分対応可能だ。コアゾーンのイメージは、自動車を排除した欧米のリゾートのようなものだ。既存の道路法上の「道路」はJ-town2010の外に付け替えて、通過交通がJ-town2010の安全を脅かさないよう配慮する。

f その他インフラ

サステイナブルシティの開発運営コストの章で検討したとおりである。公共施設として必要な設備は、建築関連では専門学校程度までの教育施設、図書館ほかの社会教育施設程度であり、いずれも木造平屋で良い。上下水は各世帯内で循環するので公共の上下水道は不要である。降雨は各世帯の貯水槽で受けるので洪水調整能力に優れており、調整地も河川改修も不要である。通信環境はタウン内で独自に構築するが、それほどのコストではない。交通の項目で検討したとおりタウン内は高速移動する自動車用の道路は特に必要ではなく、既存の牧場内で各世帯向けの敷地を配置し、その残余地をキャンプ場のごとくそのまま人や自動車の通行に利用するイメージであり、開発行為は必要ない。各敷地は「農地」であり、「開発行為」ではない。タウン内の土地や住居、水耕栽培設備は各世帯が所有する必要はなく、利用権があれば良い。

村としては新たな税収と地域活性化が得られることとなるので最大限協力するはずである。近隣住民にとってはコミュニティの活性化やアメニティの向上、生産物の新たな販売先としてJ-town2010は歓迎されるはずだ。

要するに、J-town2010は基本的に農村の変形版で、「既存農地」における超集約的な「自作農家」の創生であり、「区画形質の変更」を伴う「開発行為」ではないという法解釈である。これに異議を唱える規制当局者や利害関係者は「サステイナブルシティの理念」に遡って説得することが必要である。法の規制によりどうしてもJ-town2010が創生できないのであれば、J-town2010に適合するような法整備は当然必要である。

■B 環境改善

a 「CO2ゼロ」「廃棄物ゼロ」「水使用量の極小化」

これらはJ-town2010の標準仕様に織り込み済みである。CO2に関しては森林の循環利用と太陽エネルギー利用に伴い、ゼロではなくマイナスとなるであろう。

b ライフサイクルフットプリントの極小化

c 生物多様性の確保、潜在植生の復元と拡大

これらについても特別な問題は無い。現状は放牧地または耕作放棄地であり、既にフットプリント(自然環境の改変)の影響を受けているが、現状よりも改善されることとなる。

■■安全安心

■A 防災の安心

当地は自然災害に強く、安心である。

■B 不慮の事故の安心

当地から66km離れた福島第一原発で「想定外」の事故が起きてしまった。当地の放射能値は低かったが、風評被害を含め激甚な損害を被った。もし福島第二原発が同様な事故を引き起こすことがあれば、再度重大な災害に見舞われる恐れがある。福島第二原発の安全性確認はもちろん、万が一事故が発生した場合の対策は徹底的に検証しておかなければならない。

同様に、「想定外」の事故として戦争がある。戦争などに伴う爆撃、ミサイル、テロなどは、太平洋戦争を経験したにもかかわらず二度と起きないだろうという楽観論が蔓延しているが、大きな誤りである。当地周辺は言わば疎開地のような立地で、敵が標的にするような軍事攻撃目標は58km離れた福島第二原発と当地周辺を通る送電線以外にない。この点でも原発の是非が徹底検証されなければならない。そのような事態でも原発が安全なのであれば、火力発電所のように需要者(高密度な大都市)の近隣に設置すれば良く、もし危険なのであれば、周囲に人が住まない遠隔地の無人島などに設置するのが正論である。

■C 防犯の安心

J-town2010はITによる「ゲートの無いゲートコミュニティ」なので、外部から犯罪者などが侵入する事態は排除される。住民同士はお互いの顔が見えるコミュニティであり、各世帯のサステイナビリティが担保されているので、地域内での犯罪は非常に少ない。地域内での犯罪や災害は自警団が対処すればよく、不足分は広域連携するのでタウン内に警察や消防署は不要だ。

■D 環境の安心

a 自然環境の安心

b 資源・エネルギーの安心

c 食料の安心(フードセキュリティー)

・ プリベンティブフード(疾病予防食;医食同源)

・ローカルフード(地産地消)

・フードストレージ(備蓄食糧) 

・フードファクトリー(水耕栽培工場)

・クリエイティブフード(食の知財産業化)

これらについてはJ-town2010の標準仕様に織りこまれており、問題は無い。

■E QOLの安心 〜ICFを活用した統合システム

a 医療、介護などの安心

サステイナブルシティの医療介護と健康の章で検討したとおりである。J-town2010は4世代の近居を原則としたコミュニティであり、ADLが低い状態でもユニバーサルクレードルで安心して暮らせ、コミュニティへのノーマライゼーションも容易である。医療介護は原則として在宅で行われるが、不可能な場合はタウン内のクリニック兼介護施設で行われ、それでも対応できない場合は広域連携で対応する。

タウン内の中心施設には温浴健康増進施設を設ける。要するに健康増進と治療を兼ねた温泉施設で、付近には湯岐温泉、母畑猫啼温泉など、湯治療養型の良い温泉があるので、当地でも温泉掘削は検討に値する。

b 教育の安心

c 仕事の安心

これらに関しては知財産業と教育の項目で検討する。

d 財産の安全 

e 死後の安心、心の平安 

死後の安心、心の平安は重要な項目だ。タウンの中心にはシンボリックなランドマークがあり、それが住民の心の拠り所となる。かつての鎮守の森は重要で、当地にも精神的な拠り所と潜在植生の復元を兼ねた「切らずの森」が必要で、そこで各種の宗教活動を営む場が必要であるが、これらについてはJ-town2010の標準仕様に織りこまれている。ランドマークとしてのシンボルツリーは、住民のアイデンティティであるとともに、多世代にわたり冠婚葬祭のイベントや記念写真などで心の拠り所ともなるので、地域の植生を配慮した長寿の木が良い。近隣の天然記念物の「沢杉」(二本松市)や福島各地に見られる一本桜、特に天然記念物の「滝桜」(三春町)のような樹齢数百年のヒガンザクラなど、擬人化されるほど美しい大樹が良い例である。

二本松市 杉沢の沢杉

 

三春町 滝桜

 

■■知財産業と教育

a 職住学遊一体化

b 知財指向の自主教育

c ミュージアム/知識アーカイブス

d グローバル交流

e インキュベーション、コミュニティファンド

知財産業と教育の具体的展開は、サステイナブルシティの産業の章のとおりである。

■産業

産業については、グローバルなネットワークを活かしつつも、セルフコンテインドが基本だ。当タウン内の住民はサステイナブルシティの理念に基く憲章に同意して移住する。知財産業といえども、実際には移住希望者の友人や仕事仲間が集まるため、同じ産業分野に特化した人々の集積が見られるだろう。新住民は単純労働指向ではなく、なんらかの知財関連スキルを持っており、そのようなスキルを活かした家内労働あるいはタウン内での協働を指向する人々である。要するに、新たな付加価値を創造する人々のコミュニティだ。21世紀は世界的に大量生産品が過剰となる時代で、単純労働はサステイナブルな仕事にはならない。

■教育

教育についてもセルフコンテインドが基本で、産業と密接にリンクする。J-town2010は職住同一または職住近接であるので、原則として家族が一般教育と職業教育の責任を追い、コミュニティがそれをサポートする教育を行う。現在の鮫川村には小学校が2つと中学校が1つあるが、当地のJ-town2010はセルフコンテインドの理念と独自の教育目標に基いたカリキュラムに従い、新たにタウン内に保育園、幼稚園、小中高、単科大学と図書館、運動施設等を融合した施設を設け、自主運営する。住民が設立運営する私学・私塾であり、鮫川村の公教育とは目的も内容も異なる。教師などスタッフも住民が務めることを原則とする。住民が教師であれば、子弟が小さいうちから一般教養はもちろん知財産業に特化した教育を施すことが可能である。単科大学は一般教養向けではなく、住民の子弟の知財教育と産業のR&Dとを繋ぐ高等教育機関である。

住民の寄付により設立された尋常小学校の例として、重要文化財の岩科学校を挙げたい。

静岡県松崎町 岩科学校

 

今再び木造の学校が注目されている。例えば八幡浜市の日土小学校は良いヒントだ。著名な設計師の手によるものでなく市役所の設計士が手掛け、戦後の建築であり、現役の公立小学校でもあり、校舎が川(国有地)にはみ出して建築協議が難航したが、はみ出した結果子供たちが川に飛び込めるという、異例づくめで重要文化財に指定された建築だが、現地を見れば設計士の深い愛情が伝わってくる。

子供にとって快適な環境とは、日当たりの良い木造校舎と周囲の豊かな自然環境なのであり、冷暖房完備のコンクリート校舎が良いとは限らない。重要文化財は学校で学んだ多世代をつなぐアイデンティティでもある。

八幡浜市 日土小学校 

校舎内はとても明るく、教室が川と向かいのミカン山に面している。

 

■■自律コミュニティ

A 「真の自治」

B 「自己実現とQOL」

C 「四世代近居とパワーコミュニティ」 

D 「広域連携と地方行政、国家、世界との関係」

タウンマネジメントの章に示すように、コミュニティ自ら完全かつ自律的な自治を行うことはJ-town2010では実現可能である。自治都市は、日本の歴史上、堺などの中世自治都市以外では存在しなかった。明治維新も為政者が交代したクーデターであり、古代から今日まで、自治体とは名ばかりで、地方自治は法的にも財政的にも国家に隷属している。住民自ら小国家と同様なコミュニティ憲法を制定し、その元で各種の法を整備し、完全な自治を行い、周囲の同様な理念のコミュニティと共に連邦国家を形成するというボトムアップ型の自治ではなかったのである。

当タウン内の住民はJ-town2010のサステイナブルシティの理念に基く憲章に賛同して移り住む。当地では職住同一または近居で自営業または小規模な事業を営み、四世代近居でもあるので、自ずと高度なコミュニティが醸成される。

具体的なタウンマネジメントの姿を想定してみよう。

■開発段階

まずはJ-town2010の開発段階だ。J-town2010はサステイナブルな理念に基づき真の自治を目指して新規に開発される。開発の主体は本質的には住民だが、当初は住民がいない。従って、J-town2010の憲章に賛同する人々が発起人となりJ-town2010の創生が行われる。ただし、発起人自らが実務に携わるのではなく、業務は都市開発の実務に長けたタウンマネジャーに外部委託することになろう。タウンマネジャーの業務は、立地の選定、近隣、行政との調整、土地の利用権限(賃借権等)の確保、マスタープランの設計、移住希望者の募集、資金の調達等、自治体の都市開発部門やデベロッパーが行っている業務と同等だが、相違点がある。

一つは移住希望者の募集だ。J-town2010は、「1世帯5人家族が、住居費、水道光熱費、食費、教育費などを合わせて1カ月100ドル以内で永続的に生活する社会」であるから、ハワードの田園都市のように移住希望者が殺到する場合がある。希望者の選定は先着順や抽選ではなく、欧米のクラブのような作業、あるいは能力と意欲があるにもかかわらず職が無い人々を受け入れ自営をサポートするための面接作業などが必要になる。希望者は憲章に同意することはもちろん、住民の過半数の同意を得るなどの作業が発生するだろう。

もう一つは資金調達だ。J-town2010は1世帯5人家族が1か月100ドルで暮らせることを目標としているが、実際はその100ドルは住宅と水耕栽培など各種設備の償却費または使用料に充当される。住民全員が自ら資金を手当てすれば月100ドルを30年で回収することであるが、実質は住民と投資家が区分され、初期投資は投資ファンドに任せるほうが合理的である。要するに、知財を持っておりそれなりの収入がある人々は元手が無くてもJ-town2010の住民になれるシステムだ。投資ファンドが資産を持てば、住民は月100ドル+投資収益を織り込んだ利用料を支払うこととなる。このような投資家を募る業務もタウンマネジャーが行うこととなろう。

■運営段階

J-town2010が完成し、運営段階に入ったら、タウンマネジャーはコミュニティ運営に必要な業務全般を代行する。J-town2010はわずか1200世帯なので、基本は直接自治で、代議員や公務員は不要だ。J-town2010の長は名誉職であり無給、代議員ではなく評議員あるいは各専門分野の顧問(法律顧問、医療顧問、教育顧問等々)のようなアドバイザーが、やはり無給か実費で参加するが、通常の業務はタウンマネジャーに委託する。タウンマネジャーは全国共通のJ-town2010運営システムに従い低コストで高品質のサービスを提供する。例えば財務では、徴税と予算案作成と執行、タウン内インフラ等の維持管理、医療健康福祉、教育、産業など、自治に必要な全ての業務をITの力を借りて代行する。消防警察はコミュニティ内の自警団が担当し、広域連携でバックアップする。

■広域連携

広域連携はどうなるだろうか。当地のJ-town2010は隣接する鮫川村内あるいは近隣市町村のコミュニティとも親和性があり、広域連携は成り立つだろう。唯一の懸念は、理念の不一致に基く自治体内での軋轢であろう。例えば福島県双葉町であったような、原発反対派と推進派との対立、公共事業誘致派と自助努力による産業創生派との対立など、他力本願派と自力本願派との対立などであろう。もしもそのような対立が決定的になったならば、新自治体として独立する道を選ぶこともあろう。地方自治法に基づき、住民投票で新自治体としての分離(合併の反対)は可能である。自分たちの理念に沿った自治を行い、自分たちの税金を自分たちの理念に従って使うということは自治の基本である。J-town2010の財政基盤と従来型自治体との財政基盤は根本的に異なる。もしJ-town2010が新自治体となれば、税金が格安となるか、福利厚生、教育、産業への支援が拡大するか、いずれにせよ従来型の自治体サービスとは決定的に異なるだろう。

■パイロットプロジェクトの意義

原発被災地の福島でこのような次世代型サステイナブルコミュニティを創造するために、国や福島県はもちろん、国連関連機関など国際的な組織もパイロットプロジェクトとして応援する機会もあろう。福島では現に各種支援が行われており、追加支援策が検討されている。例えば新規農業従事者には膨大な額の支援金が支給されているが、それらと当プロジェクトを比べて、費用対効果を計り、より有効な策が講じられることが期待される。あるいは、各種の募金をJ-town2010の創生に特化して募ることもありうるだろう。

■■■ 土地利用マスタープラン

J-town2010の標準マスタープランと当地におけるマスタープランを以下に示す。主な相違点は水面の量だ。なだらかな高原の頂点付近に位置するため、豊富な水が得られにくいのでやむを得ない。さらに詳細なマスタープランは、現地の環境調査とそれに基くアセスメントなどを行う必要があり、別の機会に確実なプランを提示したい。

J-town2010標準マスタープラン

 

当地におけるマスタープラン

 

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