グローバル新時代の都市開発 〜持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究

瀧山幸伸

Ver. Sep.27 2011
初稿 Oct.30,2010

サステイナブルシティの住宅 〜30坪で300万円の住宅は可能か? 
「J-town2010型サステイナブルハウス」で住宅コストを1/10に


1 「J-town2010型サステイナブルハウス」は300万円のグローバル商品 

現在、自動車はグローバルスタンダードの商品であるが、住宅はローカルな商品である。もし「J-town2010型サステイナブルハウス」が日本の自動車のようなグローバル戦略商品になれば大きな市場が生まれる。
それはどの程度のビジネスなのだろうか。今後世界人口が100億人に近づくことは国連推計でも確度が高いが、世帯数は不確かだ。仮に20億世帯とし、世帯ごとに50年周期で新規需要が発生すると仮定すると、年間4000万戸の需要である。例えばその1%の40万戸が、30坪で300万円の平屋一戸建てのグローバル商品「J-town2010型サステイナブルハウス」として購入されるとすると、売り上げは1兆2000億円である。さらに、住宅産業は関連ビジネスの裾野も広い。
「J-town2010型サステイナブルハウス」のメリットは、今後需給環境が厳しくなるであろう、エネルギー、水、食料、知財などを自家生産できる点である。エネルギー、水、食料、知財については別の章で考察しているのでここではふれないが、大都市ではこれらの資源は都市域の外部から調達せざるを得ず、環境の変化に脆弱である。一方、「J-town2010型サステイナブルハウス」は一軒単位でサステイナブルであり、それらが集積した村や都市も自ずからサステイナブルである。

グローバル商品として購入されるサステイナブルハウスはどのような実需であろうか。将来、世界人口の15%以下となる先進国では住宅総数の増加は期待できず、更新需要が主である。更新の主な目的は、低コスト化、低環境負荷化であろう。
一方、今後世界人口の85%以上を占める発展途上国での需要は莫大である。農村部では、「J-town2010型サステイナブルハウス」は消費財ではなく生産材である。すなわち農場であり、肥料工場であり、貯水池であるとともに、家内工場である。自分と家族の労働力を総動員して、自家消費分以上の食料を生産し、新鮮な食材や特産品を加工販売したり、家内工業で工芸品を生産販売したりと、大都市や大工場が苦手な分野に特化することにより、一家が経済的に自立することができる。
例えば中国内陸部や、インドバングラデシュ、インドシナの農村地帯の人々にとって、大都市で働くよりも、300万円の「J-town2010型サステイナブルハウス」に住み働くほうが有利な状況は大いにあり得る。
要するに、「J-town2010型サステイナブルハウス」は経済合理性のある生産装置なのであり、投資や金融の環境も充実するはずである。

300万円住宅のイメージ (wikipedia)
 

2 現状のシステムでは永遠に不可能な日本の300万円住宅

日本の格安住宅の現状を見てみると、永遠に300万円住宅は不可能だ。

(1) 仮設プレハブ
デザイン、仕様が不適である割に安くはない。東日本大震災の仮設住宅が日本の住宅産業の実力とは思えないが、できあがった建物は残念なものが多い。

(2) 注文住宅、プレハブ住宅
いずれもコストが高い。安いと宣伝している住宅も、面積狭少であり、坪単価は高い。例えば、
アイダ設計 555万円の家
http://www.aida-555.com/
6186ハウス 16.64坪で600万円
http://www.6186house.com/1floorplan.html
アイフルホーム 21坪で810万円
https://web-housing.eyefulhome.jp/i-prime7/hiraya/index.html
ミサワホーム 25坪で1441万円
http://www.direct.misawa.co.jp/sim/hiraya.php
と、決して安くはない。

(3) 輸入住宅
輸入原価は安いのだが工事費が高い。

残念ながらどれも魅力が無い。間接経費が高いこともさることながら、特に、工場加工率が低く現場施工比率が高いことと、基礎工事が大きなコストネックとなっている。


3 日本の住宅が抱える課題 グローバルスタンダードへの障壁

住宅のグローバルスタンダード化という点では、日本は最も障壁が高い国の一つだ。日本の住宅は複数の大きな課題を克服する必要がある。
その課題とは、「スマートハウス」などに見られる部分的な改良ではなく、

・環境性能の課題: サステイナビリティを実現するグローバルな標準規格のトップランナーとなること
・施工の課題: 工場組立て率を究極まで高める、あるいはDIYでの施工を可能にすること
・廃棄物の課題: 工場解体率を究極まで高める、あるいはDIYでの解体を可能にし、産業廃棄物を出さないこと

である。
これらの課題を克服し、300万円の住宅を実現するのが「J-town2010型サステイナブルハウス」である。そのロジックを順に紹介しよう。


4 平屋一戸建てのメリット

有史以前から、何らかの制約があり集住あるいは複層化せざるを得ない場合を除き、その必要が無ければ平屋の一戸建てが住まいの基本であった。
平屋のメリットは、

・バリアフリー(屋内の移動がスムーズ)
・場所をとる階段が不要
・地震火事に安心
・屋内事故に安心(階段落下、窓からの落下なし)
・ユニット化が容易、ユニットの現場据え付けが容易
・DIY向け(足場が不要)で、建築もメンテナンスも解体も容易
・屋外と一体の環境とライフスタイルが得られる

ということである。



5 アメリカの事例 高級平屋一戸建て住宅 「バンガロー」

日本には良いお手本が見当たらないが、アメリカの平屋一戸建て住宅はどうなっているのだろうか。参考事例として、バンガロー型という、平屋で屋外デッキを持つ優雅なデザインタイプの戸建て住宅をとりあげてみよう。アメリカのインテリアやガーデニング雑誌に登場する、典型的なアメリカンライフスタイルの姿である。というのも、「バンガロー」という名前はインドの「ベンガル」に由来し、マハラジャの高級邸宅がイメージされているからである。一方、日本での「バンガロー」はキャンプ場の貧弱な小屋が連想され、これとは全く異なる。
http://en.wikipedia.org/wiki/Bungalow

インドのバンガロー型住宅 (wikipedia)
 


(1) 開拓住居の原点 「ログハウス」と、モビリティー住宅の原点 「幌馬車」

アメリカ人にとって西部開拓時代の遺伝子とも言える「フロンティア」と「モビリティー」という言葉の価値は大きい。『大草原の小さな家』などでおなじみの平屋ログハウスはアメリカ開拓地での定植住居の典型である。彼らは現地で得られる資材を使って自らの手で家を造っていた。目的の定植地に向かって開拓民が移住に使った幌馬車は、スタインベックの『怒りの葡萄』などに登場する、アメリカの移動型住居の原点である。
http://en.wikipedia.org/wiki/Covered_wagon


(2) シアーズの通販の家 「キットハウス」

だが、当時の人々があこがれていたのはログハウスではなく、ニューイングランド地方に典型的なコロニアル様式の下目板張り外壁の平屋住宅である。家はプロに頼るもの、通販で買ったりDIYでは作れないものという既成観念を打破しなければ低コストの住宅は持てない。
20世紀初頭から家の通販も行い、一世を風靡したのがシアーズであった。
http://en.wikipedia.org/wiki/Sears_Catalog_Home

シアーズの通販キットハウスは、2008年相当価格で$12,590から $55,390(約100万円から440万円)、電気給排水は別売りである。これらキットハウスは、1908年から1940年の間、370種類のプランで7万戸以上売れた。ニクソン元大統領が育った家もこれだ。
一人の未熟練大工で建築可能なDYI指向であり、乾式工法、アスファルトシングル葺きが標準仕様である。日本のツーバイフォー住宅もこれに多くを学んでいる。 

バンガロー型の平屋タイプが主流であった。 (wikipedia)
  


(3) 日本のプレハブのお手本 「モジュールホーム」

キットハウスの発展系がモジュールホームであり、プレカットあるいは半組み立てされた資材をトラックに載せて運搬し、現場で組み立てる方式である。
http://en.wikipedia.org/wiki/Modular_homes 

(wikipedia)
 



(4) 動く家 「モバイルホーム」

一方、幌馬車を原点とする「動く家」のスタイルは、その後のモータリゼーションに伴い大いに改良され、モビリティーが高いアメリカ人のライフスタイルに広く受け入れられている。

動く家には2タイプある。

一つは、「モーターホーム」である。エンジンが付いたAタイプ、Cタイプと呼ばれる自走式のもの、トレーラー、フィフスホイールと呼ばれる牽引型のものがあり、この部類は移動を重視しており、レジャーが主な用途となるが、トレーラーやフィフスホイールは低価格な住居として人気がある。日本でも数多く輸入され宿泊やカラオケなどに利用されている。
http://en.wikipedia.org/wiki/Motorhome
http://en.wikipedia.org/wiki/RV

もう一つは、一定の土地に長期間据え付け、居住することを重視している、「モバイルホーム」あるいは「マニュファクチャードハウジング」と呼ばれる部類のものだ。
http://en.wikipedia.org/wiki/Mobile_home
http://en.wikipedia.org/wiki/Manufactured_housing

今回取り上げるのは「モバイルホーム」であり、その特徴は、以下に示すとおり、住宅と自動車の良い部分を併せ持っている。

・車軸を持ち、トラクター(牽引トラック)で牽引する
・気候や場所にとらわれないノマド(遊牧)型のライフスタイルが可能である
・コストパフォーマンスが高い
・自動車と同様、中古流通も活発である。ローンは住宅と自動車の間の条件のものが多い。
・現地の建築規制に従う必要は無く、全米統一の基準に従う。
全米住宅都市局(Department of Housing and Urban Development)のFederal Manufactured Home Construction and Safety Standards 1976がそれだ。
http://www.access.gpo.gov/nara/cfr/waisidx_06/24cfr3280_06.html

1回で牽引できる最大サイズは、シングルワイド規格と呼ばれ、幅18フィート(5.5m)X長さ90フィート(27m)、最大44坪程度が1ユニットの大きさとなる。これを単独で利用するか、複数組み合わせて現地で連結する。現在は2個組(ダブルワイド)が主流である。シングルワイドはハリケーン被災地などの仮設住宅としても利用されている。かつては、ローコスト仕様で粗い製造精度であったが、現在ではそれを克服し多様な商品が展開されている。

移動中のモバイルホーム(wikipedia)
 

アメリカのモバイルホームの例を見てみよう。写真は、28フィートX60フィート、ダブルワイド、約50坪のタイプだ。

(wikipedia)
 


モバイルホームはどのように製造、据え付けされるのだろうか。工場での組立て工程は単純だ。(出展は全てwikipedia)

基礎と土台の代わりに住宅一式を鋼鉄製のトレーラーシャーシに乗せることにより、牽引輸送が可能となり、基礎工事が省ける。床から上は基本的に通常の家と変わらない。
 

内部壁 構造材にはツーバイフォーの木材を利用する。
 

外部壁 断熱材を装填する。
 

屋根 輸送を考慮し、緩やかな勾配となっている。
 

乾式工法の壁が完成した状態。(この上にペンキを塗ったりクロスを張る工程はメーカーの範疇ではなく、オーナーが好みで行う)
 

現場への輸送を待つモバイルホーム
 


(5) アメリカのモバイルホームパーク

モバイルホームが立ち並んだ町がモバイルホームパークだ。建物が安いのみならず、開発が容易で土地のコストも安いので、全米に38000か所もモバイルホームパークが存在するまでに発展しており、モバイルホームパーク自体も投資商品となっている。

オハイオ州オークヒルズの例 
(ホームページより http://www.mobilehomeparkstore.com/mobile-home-parks/102123-oak-hills-mhc-for-sale-in-grove-city-oh)
 


(6) モバイルホームの実例

テキサス州のモバイルホームメーカーの実販売例を見てみよう。

以下のEV2 タイプは、ダブルワイドで、延床面積35坪、販売価格は$36,900(約300万円)である。 
http://www.factoryexpodirect.com/ev2.asp

外観(ホームページより)
 

フロアプラン(ホームページより)
 


キッチン回り(ホームページより)
 

このメーカーのモバイルホームの標準仕様は、タイプにかかわらず概略以下のようになっており、日本の住宅の標準仕様に比べかなり充実している。

Sturdy Construction & Exteriors: (構造とエクステリア)

Full I-Beam Chassis w/ Full Length Outriggers(基礎と土台の代わりにI型鋼の外枠付きシャーシ)
Detachable Hitch (着脱式牽引金具)
2"x 6" #2 Floor Joists Installed 16" O.C. (ツーバイシックスの根太材、16インチピッチ)
Sturdy 4' x 8' T&G OSB Floor Decking (頑丈な4x8フィートサイズの本実加工配向性ストランドボード(構造用パネル)床材)
2"x 4" Exterior Walls 16" O.C. (ツーバイフォーの外壁構造材、16インチピッチ)
Full Length Ridge Beam - LVL Ridge Beam(化粧集成材棟木)
Vinyl Exterior Siding by Hardie(ハーディ製ビニルサイディング外壁)
38" x 80" Steel Front Door w/ Storm(鉄製玄関ドア)
Rear Door with 10" Window (窓付き裏口ドア)
Larger 30" x 60" Milled Finish Windows (ミル仕上げの窓)
Deadbolt Locksets on all Entry Doors(ドア錠)
Shutters Installed on Front Door Side (玄関ドアシャッター)
Composition Roof (アスファルトシングル屋根)
High Durability Roof Vents (屋根裏換気口)

Kitchen: (キッチン)

Shelves in Overhead Cabinets (吊戸棚)
Center Shelves in Base Cabinets (床置き戸棚)
Nationally Serviced "General Electric" Appliances(ゼネラルエレクトリック製品(食器洗い機、ディスポーザー等))
Rolled Edge Countertop with Backsplash(水はね防止付き曲面加工カウンタートップ)
Residential Cabinet Doors w/ Hidden Hinges and Pulls (隠し金具仕様の住宅用戸棚扉)
Durable Stainless Steel Kitchen Sink (ステンレスシンク)

Interior: (インテリア)

Durable 1/2" Sheetrock Wallboards(12.5mm石膏ボード内壁)
Full Length Drapes w/ Valances in LR, Valances t/o (リビングルームにバランス付きカーテン)
Attractive Cathedral Ceilings Throughout (教会型天井)
"Textured" Ceiling Finish over 1/2" Sheetrock (12.5mm化粧石膏ボード天井仕上げ)
Residential White 6-Panel Interior Doors on Heavy Duty Hinges (住宅用6面縁仕上げ内部ドア)
Wire and Brace for Ceiling Fans in LR and MBed (リビングルームと主寝室に天井ファン用吊金具)
1" Mini-Blinds Installed Throughout (全てに1インチミニブラインド)
16 OZ. Carpet in all Living Areas over Rebond Carpet Pad (居住部分全てに16オンス規格のカーペット、カーペットパッド下地)
Carpet Tack Strip (カーペット留め)

Bathroom: (バス、トイレ、洗面)

Chrome Vanity Faucets (クローム仕上げ水栓)
Residential Ceramic Round Bowl Commode (住宅用陶製器具)
Shower Doors Installed on all Showers (シャワードア)
One Piece Tub Surrounds on all Tubs (一体成型バスタブ)
Towel Bar and Tissue Holders (タオルバー、ペーパーホルダー)
Bar Light Fixtures over each Sink (シンク上部の照明)
Exhaust Fan in each Bathroom (換気ファン)

Bedrooms: (ベッドルーム)

Spacious Closets w/ Double Wire Shelves t/o (2段金網棚付きクローゼット)
2 Bulb Ceiling Light w/ Attractive Glass Globe (ガラスグローブ付き2灯式天井照明)
Attractive Nickel Door Locksets and Hardware (ニッケル仕上げドアロック金具)

CONVENIENCE, COMFORT & SAFETY (快適・安全関連)

30 Gallon Electric Water Heater (110リットル電気温水器)
R-11Fiberglass Blanket Floor Insulation (R-11グラスファイバー 床断熱材)
R-11 Fiberglass Batten Exterior Wall Insulation (R-11グラスファイバー 壁断熱材)
R-21 Blown Cellulose Ceiling Insulation (R-21吹き付けセルロース 屋根断熱材)
200 amp Interior Panel Box (200アンペア分電盤)
3/4" PEX Supply Line w/ 1/2" Risers to all Fixtures (住設機器用の3/4インチポリエチレン温水パイプ)
Master Water Shut Off Valve (止水栓)
Plumb, Wire and Vent for Washer & Dryer(洗濯乾燥機用の配管、配線、換気口)
Shelf Over Washer & Dryer Area (洗濯乾燥室吊戸棚)



6 「J-town2010型サステイナブルハウス」 グローバルスタンダードへの道 


(1) 現地工場で組み立てるシステム

アメリカで35坪300万円の住宅が買えるなら、世界中の需要者がそれを船で輸入すれば良いではないかと考えるのは自然なことだ。
だが、専用船で輸送するコンテナや自動車と違って、家は非常にかさばり輸送費が莫大になってしまうので、完成品を船で輸入する方法は経済的ではない。
次に、国際コンテナに収まるサイズのユニットを連結した家という発想を考えてみよう。工場組み込みも運搬も設置も簡単なのだが、コンテナには多くの制限がある。国際的に普及している40フィート背高コンテナ(ハイキュービックコンテナ)の内寸は、W2,352mm、L12,032mm、H2,690mmで、モバイルホームを収納するには狭すぎるので、この方法も現実的ではない。コンテナを利用するには、コンテナそのものを住宅の構造材とする「コンテナハウス」に活路を見出したほうがよさそうだ。
では、モバイルホームの「J-town2010型サステイナブルハウス」はどうすればよいのだろうか。需要国の工場で組み立てる方式が良いだろう。需要国の港までは世界中から集めた資材をコンテナで運搬し、現地の工場でトレーラのシャーシ上に組み立て、トラクターで牽引して現場据え付けするという方式である。こうすれば「J-town2010型サステイナブルハウス」がグローバル商品として成功する勝算はある。

(2) 製造の課題

自動車と同様の、ローコスト、ハイクオリティ、かつハイテクな工業製品化は日本の得意技なので、この点は心配ない。現地組み立て工場の自動化や品質向上も得意分野である。
「J-town2010型サステイナブルハウス」はほぼ完全な工場加工品であり、据え付け以外の現場工事を皆無化することができる。特に基礎が不要であることの効用は大きいが、発電、上水、温水、および下水処理と水耕栽培設備を内蔵化またはオプションユニット化していることの効用も大きい。それらは素人でも簡単に接続できるように配慮されている必要があるが、アメリカのモバイルホームでも電気と上下水への接続の簡便さはかなりのレベルに到達している。
快適性の追求も日本の得意分野だ。車も家も付加価値を求めて進化する。トラックに乗車するよりも豪華装備の高級ワゴン車に乗るほうが快適であるように、モバイルホームも単純なものよりも至れり尽くせりの設備やサービスが付いていたほうが付加価値が高い。通常の住宅でこれをやろうとするとコスト高であるが、完全工場組立でかつタイプが厳選されている「J-town2010型サステイナブルハウス」であれば大幅なコストダウンが可能である。

(3) 運送と設置の課題

「J-town2010型サステイナブルハウス」は、諸外国の工場から現地まではシングルワイド規格で牽引され、そのまま敷地に引き入れられる。あるいは、ダブルワイドであれば現地で2ユニットを連結するだけだ。日本のプレハブ住宅のようなクレーン付きトラックは不要だ。
だが、日本では道路運送の規制が厳しく、運行許可を取得してセミトレーラとして走行できるサイズは、実質的に幅3.2mX長さ12m程度で、1ユニットの面積は約11坪強にしかならない。日本仕様の「J-town2010型サステイナブルハウス」で30坪の家を実現するには、3ユニットを現地で連結して設置することとなるので、国際標準よりは若干割高になる。

(4) メンテナンスの課題 〜 ターンキーシステム 

「J-town2010型サステイナブルハウス」は、購入時もさることながら、メンテナンスが容易で長持ちし、コストがかからないことが重要である。そのためには、運用ソフト一式がセットになっており、自動車のような定期点検整備はDIYで行える必要がある。
電気(発電、配線、電気器具、蓄電、電気自動車)、水(雨水、上水、浄化槽、灌漑水、太陽熱温水器、住宅設備)、水耕栽培など、状況が診断できることと、部材が簡単に交換できることが必須であるが、この点も日本が得意とする分野である。
究極のスマートハウスとして、ハードとソフトの一体化がなされることが「J-town2010型サステイナブルハウス」の優位点である。ソフトは、例えば、家の制御と植物工場の制御であり、バイオサイエンスを応用した植物工場での栽培品種等管理、食事メニューの食育と栄養管理、健康と運動の管理、医療介護の管理、防犯安全管理などが統合的に行われる。

(5) 仕様とコストの課題

住宅工事の見積もりは「材工込み」となっているが、その中で資材のコストが占める比率は驚くほど少ない。通常の住宅とほぼ同じ性能で、工事の人件費、設計費、営業経費、広告宣伝費などを大幅に削減することができる「J-town2010型サステイナブルハウス」は大いに需要を喚起するのではなかろうか。筆者は日本での300万円住宅の実現性を確信しているが、その根拠として、自らの経験と研究がある。米国在住時代、モバイルホームを詳しく研究し、モーターホームを所有していた。その後日本に持ち帰り、レジャーに使ったり子供部屋として利用していたこともある。住宅の工事原価を分析するために、東京で重量鉄骨+軽量気泡コンクリート造の自宅を新築した際には、業者に頼んだのは構造のスケルトンまでで、内装や設備工事はDIYで仕上げた。4階建て50坪の家が1200万円で完成したので、坪単価は24万円だった。(壁も天井も構造材むき出しだが)

(6) 「J-town2010型サステイナブルハウス」の仕様案

自らの経験を基に、30坪300万円のモバイルホーム「J-town2010型サステイナブルハウス」の仕様案を一つ作成してみた。もちろん、これは数ある選択肢の一部であり、当該地域に産する資材や文化の特性に応じてバリエーションは無限にあるが、基本的なシステムは変わらない。

断熱性能 
EU2010年指令に準拠する。それは、2020年までに新築住宅はゼロエネルギー建物とする指令で、10Kwh/年/m2以下が規制値となっており、非常に低い燃費である。
指令の骨子は以下のとおりである。
加盟各国は、新規の建物及び大規模改修を行う既存建物が、それぞれ満たすべきエネルギー性能の最小要件を決定する。
専門家が建物のエネルギー性能の診断及び認証を行い、証明書として発行する。
証明書は、建物の建設、売買や貸借の際に必要不可欠のものとされ、建物のエネルギー性能が建物の価値の1 つの指標になる。
ボイラーや空調システムなど、建物に付随するエネルギー関連設備も定期的にその性能が検査される。
新規の建物をすべてゼロ・エネルギー建物とする。
建物のエネルギー性能とは、建物が消費する正味のエネルギー量である。ゼロエネルギー建物とは、消費する正味のエネルギー量がゼロの建物である。
建物は、照明、冷暖房、給湯、空調にエネルギーを消費しているが、断熱性や通風性を高めたり自然光を大きくとり込むことでエネルギー消費を抑えることができる。
建物に太陽光発電装置などを取り付けて再生可能エネルギーを生産する場合は、建物の正味のエネルギー消費量が減り、エネルギー性能が高いといえる。
(建物のエネルギー性能に関する2010年5 月19日の欧州議会及び理事会指令2010/31/EU」(「2010年指令」)
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/legis/pdf/02460002.pdf

屋根
構造 在来または2x4
断熱材 グラスウール
下地 野地板、ルーフィング
仕上 ガルバリウム鋼板(またはアスファルトシングル葺き)棒葺き 軽量低価格で、デザイン性、耐久性、防水性に優れている。 

天井
断熱材 グラスウール
下地
仕上 化粧石膏ボード

外壁
構造 在来工法または2x4工法
断熱材 グラスウール
下地 胴縁、防水シート
仕上 ガルバリウム鋼板(またはサイディング)

内壁
下地 胴縁
仕上 石膏ボード


構造 在来工法または2x4工法
断熱材 
下地 捨張
仕上 フローリング

サッシ 
樹脂サッシと複層ガラスにより省エネを達成する。気候に応じトリプル断熱ガラスを採用する。 

基礎 無し
基礎は工場加工になじまず、最もコストがかかる。現場打ちの基礎の代わりにプレキャストコンクリートを使用しても、布基礎の基準を満たさなければならない(建設省告示第1347号)。だが、車のシャーシであれば基礎は不要である。
タイヤは免震の効果もあるが、タイヤだけで長時間荷重を受けることは不都合なので、スタビライザー(高さ調整可能なジャッキのようなもの)を各所に設置し荷重を支える。 

エネルギー
100%再生可能エネルギーで、太陽光発電と太陽熱温水を標準とする。
太陽光発電ユニット(オプション)は屋根に組み込んでも良いし、別途発電ユニットを家の庭に設置すれば良い
温水は太陽熱温水器を屋根に組み込み調達する。太陽光発電と太陽熱温水のハイブリッド型を開発するとコストダウン可能だ。


キッチン 
IHを利用するのでガスは不要である。

バス、トイレ 
省エネ節水型

上水(オプション) 
雨水集水ユニット、雨水浄化装置を庭に設置する。

下水(オプション) 
浄化槽を本体に組み込む。旧来は浄化槽工事費が嵩んでいたが、本体に組み込むのでコストダウンとなる。浄化槽から出る処理水は水耕栽培ユニット(オプション)へ供給される。

屋内配線(強電、弱電とも) 本体組み込み 

冷暖房(オプション) 
断熱性能に優れるため、冷暖房設備とランニングコストは最小限で済む。


(7) 実証と実現へ向けて

筆者は「J-town2010型サステイナブルハウス」の実現に希望を抱いている。現実にその家を開発し、実証し、マーケティングして大量生産するプロジェクトが早く立ち上がり、日本が10年以内に国際的に確固たるポジションを得ることを期待している。
車が家に近づくか、家電が家に進化するかという点から、この分野で未来の豊田佐吉や本田総一郎、松下幸之助が現れることを期待している。既存の事業者には守るべきものが多くあり、このようなパラダイム変換を伴う新事業へのハードルが高いだろうから、内部競合を持たない新参の起業家が成功への道を歩むのかもしれない。

参考資料

『PREFAB HOUSES』 Cobbers/Jahn 2010 TASCHEN GmbH ISBN 978-3-8365-0753-0



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