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JAPAN GEOGRAPHICMonthly Web Magazine Sep. 2017
■ 宮沢賢治が愛した風景 瀧山幸伸
宮沢舞台となった地が「イーハトーブの風景地」として国の名勝に指定されている。
鞍掛山 七つ森 狼森 釜淵の滝 イギリス海岸 五輪峠 種山ヶ原がそれで、文化庁の解説では、
「日本の代表的な詩人及び童話作家である宮澤賢治(1896-1933)の作品には、岩手県地方の独特の風土を表す自然の風景地が多く登場する。それらは理想の大地として賢治が名付けた「イーハトーブ」を構成する場所であり、今もなお美しい風景を伝えることから、日本中の多くの人々に愛されている。」
と記述されている。ところが、実際に現地に足を運んでみると、「日本中の多くの人々に愛されている」とはとても思えない。岩手大学の構内にも賢治ゆかりの場所や資料があるが、そちらの訪問者も極めて少ない。
アニメの聖地巡礼は大流行だが、現代人には宮沢賢治が遠い存在になっているのかもしれない。
指定地のすぐ近くにある小岩井農場や、種山ケ原、花巻温泉の釜淵の滝などは観光レジャー目的の訪問者が多いが、残念なことに賢治ファンというか彼の創作の原点を訪ねる目的での来訪者には出会えなかった。
自治体や観光関係者もあまりプロモーションに力が入っていないように見えるのは残念だ。そもそも関係者が賢治を深く理解しておらず、人物像や世界観に共感できないのだとしたら、とても残念なことだ。
賢治は優れた農学者であるとともに、地理、地学、歴史にも精通していた。
これらの指定地を訪問すると、彼の創作の原点となっている世界観が理解できるような気がする。
全てを巡礼すれば、エコロジストの原点ともいえる偉大な人物像が再認識できるのだが、あまりにも渋い旅となるので、目が肥えた人にしか勧められない。