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Monthly Web Magazine Sep. 2017

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■ またバンが子育てを始めた 田中康平

また近くの公園の池でバンが子育てを始めた。今年はこれで3度目だ。

1度に孵る雛はここでは4羽が標準の様だ。今度も4羽の雛がヨシの間から現れた。

雛が出てきたことが解るのはその鳴き声だ。雛はのべつ幕なしにひーひー鳴いている。親は時々応えるように鳴くこともあるがたいていは雛の声ばかりが聞こえる。雛がどこにいるかわかるように鳴かせているようにも思える、そんな指示がDNAのどこかに書き込まれているのだろう。

殆ど食べ物は親鳥からの口移しだ。1年に親鳥ペアの6倍もの数のひなが生まれても池がバンだらけにならないのは、雛の生存率が良くないからだとすぐわかる。

1年たって生き残るのは4羽のうちのせいぜい1−2羽の様だ。雛はいかにもうまそうで、色んな生き物が狙っているようでもある。池にはミシシッピイアカミミガメや大きなコイがいるし、カラスもしょっちゅう様子を見に来る様だ。

もっともいつもいるハシボソガラスとはいい関係にあるようで近くにカラスが来ても警戒する風は無いしカラスの方ものんびりしている。微妙な関係が見ていても面白い。

バンはツル目クイナ科の鳥でオーストラリア以外の世界の熱帯・温帯に広く分布している。日本では東北以北では夏鳥、その他では留鳥だ。生息分布は県によってはばらつきがあり青森県、福島県、埼玉県、千葉県、滋賀県では県の準絶滅危惧種に指定されている。また、小笠原諸島には生息していない。

水鳥だが水かきがなく、泳ぎがいい方ではない。陸に上がると大きな足が目立つ。沼地やハスの葉を伝って歩くのが得意な体形だ。

バンという名は水田にいて大きな鳴き声を上げて稲の番をするとの意から来たものと考えられているようだ。古来から歌に詠まれる稲負鳥はバンのことではないかとの説を唱えている人もいるようで水田稲作にはゆかりの深い鳥のように思える。この公園ももとは稲作灌漑用の溜池だった、この辺りで稲作が盛んにおこなわれていた名残がこのバンということになるのかもしれない。そう思えば留鳥にはこれまでのこの土地の文化が凝縮されているようにも思える。

5−6km南の古い神社のクス古木には毎年アオバズクが渡ってきて子育てをする。これもこの神社の歴史と同じくらい古くから繰り返されているのだろう。

人の運ぶ文化はそんな野生動物達とともに歩んできた、その歴史がどこまで続けられるのだろうか。人の責任は少しばかり重いようだ。

今年3回目の子育て中のバン親子、

     

ミシシッピイアカミミガメとコイ 

いつもくるハシボソガラス

神社のアオバズク

2回目の子育ての時のバン、2か月前