JAPAN GEOGRAPHIC

持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究 (モデルタウン「J-town2010」の研究)
Study of Sustainable City


サステイナブルシティの理念
Philosophy of Sustainable City

瀧山幸伸  初稿 2010


目次


1 サステイナブルシティの理念のキーワード
2 研究の目的
3 研究の背景
4 方法論
5 序論 サステイナブルシテイ論の前に
6 サステイナブルシティの理念
 (1)「サステイナブルシティ」理念の核
 (2)「サステイナブル」の定義
 (3)「セルフコンテインド」
 (4)「安全安心」
 (5)「知財産業と教育」
 (6)「自律コミュニティ」
7 パイロットプロジェクト


J-town2010 中心部のラフイメージ


1 「サステイナプルシティ」の理念のキーワード

本論の骨子となる理念のキーワードは、「セルフコンテインド」「安全安心」「知財産業と教育」「自律コミュニティ」である。
以下、その内容について深く論じていく。


2.研究の目的 ~都市の開発と運営のコストを半分以下に~


持続可能都市(サステイナブルシティ)を研究する目的は概略以下のとおりである。

(1)現在直面している環境等の問題、あるいは今後21世紀の前半に直面するであろう都市問題を直視し、それを解決する理念、戦略、具体案まで含めた総合パッケージとしてグローバルに対応可能な都市モデルを研究する。

(2) 各種政策提言と政策立案を裏付ける戦略的モデルとなることを視野に入れる。

(3) 日本の活性化はもちろんグローバル社会の発展に貫献する、今後5年から10年、そして数十年の長期的視点で開拓すべき大規模ビジネスモデルを研究する。

(4).「都市開発(タウンデベロップメント)」と「都市運営(タウンマネジメント)」を統合したパッケージシステムを研究する。

 ビジネスモデル構築の目標として、国内の同規模の地方都市と比較して

・都市開発コストの半減

・都市運営および更新コスト(Life Cycle Cost)の半減(税金の半減等も含む)

・CO2ゼロまたはマイナス、廃棄物90%減、水使用量90%減

などにより、都市システムのパッケージ化を行い、国際的に優位性があり投融資の対象となるビジネスモデルを構築することを目指す。

具体的なモデルの規模として、新たに5000人程度の町を創造する仮想モデルを検討する。実地(国内海外とも)でのケーススタディも同規模とし、フィージピリティスタディの段階まで研究する。

「5000人の町」は、「近隣住区」あるいは小中高までの基礎教育コミュニティとして独立的に運営できる最小単位であり、日本の町村の標準規模であるとともに公共やデベロッパーなどがニュータウン等として鬨発してきた実績のある規模でもある。現存する地方自治体との比較シミュレーションが容易であり、モジュールとしてのミニマムシステムを検討するのに都合が良い。

「5万人の市」、「100万人の大都市」の新設または改造は、そのモジュールがクラスター複合化されたシステムとして設計できるものであり、最初からル・コルピュジエの「輝く都市(300万都市)」(資料) のシステムを研究し設計することは、都市問題の因果関係が複雑であり、極めて難しい。同様に、既存大都市の改造をしようにも利害関係が複雑であり、モデルを設計しても実践は極めて難しいので、本研究では本来あるべき姿を提示することに主眼を置く。

 

3 研究の背景

この研究の背景には、以下のような課題が存在する。

(1) 現在の社会問題.国際問題を解決し、新しい価値をもたらす都市理念を提唱するとともに具体的な都市モデルを探る必要がある。

(2) まちづくり・まちおこしの研究
地域活性化および都市再開発において、国家戦略などの上位計画との整合性を保ちつつ、地域社会と産葉にもフィージプルな提言を行い、具体的な実行に移す必要がある。

(3) タウンマネジメントのあり方の研究
非効率な行政による事業に代わり、理想的なPPP(Publck Private Partnership)とコミュニティマネジメントを民間ベースで行い税を削減し公共の福祉を拡大する新しいモデルを探る必要がある。

(4)。ビジネス斬領域の研究
グローバル展開に値する新しい事業の柱を探る。数十年単位の長期的視点で、既存ビジネスとの相乗効果を考慮しながら社会システムの変革をビジネスチャンスとする必要がある。特に以下の点は重点的に研究すべき項日である。

A 新領域としての環境・エネルギー・農業分野研究
再生可能エネルギーの利用、スマートグリッド、電気自助車、都市型農業工場等を都市システムの中で総合的に検討する。

B 新傾城としてのIT、都市システム関連分野研究
次世代IT、通信放送融合の新メディア, AR (拡張現実)等を活用する研究を発貭させた総合的都市システムを検討する。

 

4 方法論

比較検討などの便宜上、この都市モデルを「J-Town2010」と仮に命名しておく。理念としての上位概念レベルから戦術としての実施計画レベルまで段階的に研究を進め、具体的な実現性、応用可能性を検証する。その段階は、大きく分けて四つに分けられる。

(1) 都市の理念(Philosophy)
都市モデルの基本的な考え方、人々のライフスタイル、世界観などについて検討する。

(2) 都市の目標 (Mission)
Philosophyを受けて、目標を設定する.その目標は、5W1Hで表わされるものであり、可能な限り具体的数値目標と時間軸を持つことを重視する。

(3) 都市の戦略(Strategy)
Missionを受けて、5W1Hの詳細(仕様、数値の概略)を配述できる程度に検討する。

(4) 都市の戦術(Tactics)
Strategyを受けて.仕様,数値の詳細を明記する。具体的な実施を前提としたフィージビリティスタディのレベルであり,広範囲かつ詳細なアセスメントや旧来型都市および他のサステイナプルシティモデルとの比較など,総合的なVE:(Value Engeneering)を行う。


5.序論 サステイナプルシティ論の前に

 

(1) 都市計画、ランドスケーピングの視点で見る「理想郷」の概念


「理想郷」の観念論を詐細に検討する事は本論の主旨ではないが、主題に入る前に、イントロとして.そこに住む人々の世界観に基づいたライフスタイルに従い、都市に要求される共有価値や行動規範など、価値観を同定することは本論を進める上で重要である.都巾計画の視点で「理想郷」の歴史的背景を確認し「諸問題を抱えた都市」と「理想郷」との理念の対比を行い、その概要のみ列挙しておきたい。


A 古代ギリシヤの「アルカディア」  紀元前


アルカディアは、古代ギリシャのペロポネソス半鳥に実在した小都市(ポリス)連合だが、理想郷あるいは牧歌的な楽園を漠然と表現する代名詞でもある、ただし基盤産業は農業ではなく、牧畜を基盤とする移動型社会での「牧人の楽園」としての理想郷である。

B 旧約聖書の「ノアの方舟・エデンの園・乳と蜜の流れる約束の地カナン」対「退廃都市ソド厶とゴモラ| 紀元前

ユダヤ教、キリスト教に共通する理想郷の理念と、その対極にある退廃都市の姿は.現代の西欧型都市のライフスタイルの基盤となっている。.
『旧約聖書』創世記、エゼキエル書他 

エデンの園(クラナッハ)

ソドムとゴモラ(J・マーティン)

 

C 古代日本の村落と都市

防災と産業の折り合い

高台に形成された縄文の村

縄文時代は、周囲に食糧を求めやすく水はけの良い高台に集落を形成しており、土器ほかほとんどの機材も村内で制作していた。

青森県青森市 三内丸山遺跡


低湿地に増える弥生の村

弥生になると、農耕が主となり、低湿地に形成される集落も増える。このため、水害・疫病などの災害に見舞われる危険が増えた。

登呂遺跡


高台の古墳

経済力と権力を持つ豪族の古墳は高台であり、見晴らしが良い。逆に周辺に住む村人にとっては地位が異なることのシンボルでもありランドマークでもある。
奈良県天理市・桜井市 邪馬台国推定地(左)と箸墓古墳(卑弥呼の墓)



ハレの地まほろば 対 災害に見舞われるケの地

神話時代に登場する「まほろぱ」は、住みやすい場所、素睛らしい場所、豊穣の地、災害に見舞われない場という意味を持つ。反対に「ヶ」の地は例えばXXガケ.XXカケ、XXカゲ などの地名が付く、災害の惧れがある地を指す。防災も産業も都市存続の基盤として重要であり、伊勢神宮も内宮(天照:太陽)と外宮(豊受:穀物)を祀る。
「倭(やまと)は 国のまほろぱ たたなづく 青垣 山隠(やまこも)れる 倭しうるはし」 古事記

奈良県宇陀市 榛原 山辺郷(山部赤人ゆかりの垉)からの光景


政治と産業と防災が調和した国府

日本各地の国府(岡庁・国分寺・国分尼寺)および官衙(かんが)、古刹および神社は、ほとんどが高台あるいは水はけの良い立地であり、自然災害から守られてきたと同時に周囲に生産の場(田畑)を持つ。特に国庁の立地は防災都市の好事例として参考になる。

鳥根県松江市 出雲国庁跡



D.「桃源郷・蓬莱」対「王都」 4世紀頃

「帰りなんいざ、田園将 (まさ) に蕪 (あ) れんとす、胡 (なん) ぞ帰らざる」 陶淵明 『帰去来の辞』

道教に由来する神仙・老荘思想の理想郷が「桃源郷」である。司馬遷の『史記』に登場する伯夷叔斉や、陶淵明の『帰去来の辞』に登場する厭世・隠遁思想が反映されているため、桃源郷が現実世界の延長にあるとは認識されていなかった。ところが近年、湖南省の桃花源が「桃源郷」の生きた姿として観光客の脚光を浴びている。桃源郷に対し、王都は条里制に基いた計画都市である。

頤和園の長廊にある蘇式彩画「桃花源」


中国湖南省 桃花源

E 「修道院」対「都市国家」 4世紀以降

古代エジプトの砂漠では集団で宗教的生活を行う風習があったが、キリスト教において修道士が祈りと労働のうちに共同生活をするための施設が修道院である。
ベネディクトゥスがモンテカシーノで開いた修道院が典型であるが、労側と祈りを一体とみなし、自給自足の生活を行い、農業、教育、印刷、医療、土木建築まで全て修道士の共同作業であり、それが新しい技術や医療、薬品などの誕生につながった。

イタリア 世界遺産モンテカシーノ


F 仏教の「極楽・浄土」対「地獄・穢土」

紀元前5世紀頃発生した仏教において、浄土とは、補陀落(観音菩薩の浄土)、須弥山(帝釈天の浄土)など、それぞれの仏の国土のことであるが、阿弥陀信仰の西方極楽浄土が最も普及した。その浄士思想を現世で具現化した場所が浄土式庭園であり、ここに住むことにより、生きながらにして極楽浄土につながることができるとの理念である。
都市計画(造園学)的には、具体的なランドスケーピングと施設計画の仕様が明確であるため、理想郷の理念を具現化した地区計画としての価値が大きい。マルコポーロにより東
方の黄金郷として西洋に仏えられたのは当時の日本である。

岩手県平泉町 毛越寺庭園 日本最古の浄土式庭園 9世紀


               
福島県いわき市 白水阿弥陀堂と境内

  


G.「禅宗庭園(山水、枯山水)」の小宇宙 14世紀

中世になると、自然との一体化、瞑想という仏教の精神的側面を重視し、道教の思想や神 道のアニミズムも取り入れた褝のライフスタイルが隆盛となり、それを具現化した禅宗様式の伽藍配置が主流となった。
座禅瞑想による自然との一体化は、「吾i唯知足|に象徴される。『禅林句集』
ただ単に窮乏生活を求めるのではなく、栄西の臨済宗に見る茶道、あるいは道元の曹洞宗 が重視した食生活の充実と求道活動との一体化は、現代日本のライフスタイルの底硫として生きており、サステイナブルシティの理念に通じるものであろう。

愛知県多治見市 永保寺観音堂庭園 13世紀

 

H 「田園都市」対「産業(鉱工集)都市」 19世紀~20世紀

これについては別途ハワードの田園都市の章で詳しく考察する。


I 「トトロの町」 対「アトムの町」 20世紀

都市居住者のライフスタイルが、人工都市・メカトロニックなものなのか、環境調和と自然を指向するかの違いだ。10万馬力の原子力モーターやマッハ5のジェットエンジンがほんとうに必要だろうか。映画ブレードランナーの舞台や秋葉原のようなアンダーカバーストリートを徘徊し、時間を節約することを重要視する航空機のようなライフスタイル(消費者型) と、充実した時間を過ごす客船のようなライフスタイル(創造者・アーチスト型)の違いとも言える。

秋田県大仙市 トトロ作画のモチーフとなった農村景観


東京都千代田区 秋葉原



(2) 都市計画論の発達過程に基づく「理想都市像」の整理

西欧を中心とした都市計画論の歴史的変遷を追うことも本論の主旨ではないが、歴史上 の都市問題とそれを解決するための都市計画理念を振り返り「サステイナブルシティ」の理念を検討することは重要である。

過去に登場した都市計画のエポックには、以下のようなものが挙げられる、

A オースマンのバリ改造論 中世都市からの脱却を目指した

B ハワードの田園都市論 産業革命と産業都市に対峙する

C コルビュジエの「輝く都市」 産業都市の改造を主張し、都心再開発による高層化を提唱した。現代の大都市はこの概念を踏襲している。

D ペリーの近隣住区謫半径1/4 マイル(400m)、5000人規模の都市機能単位での都市計画を重視した

E ジェイコブス、リンチ等の再開発論 第二次大戦後のインナーシティ問題、エネルギーと環境問題に対処した

F ニューアーバニズム・TID ・ 中心市街地活性化・コンパクトシティ論 近年議論されているが、根本的な理念が不明確

新しい価値の明示が求められている「サステイナブルシティ論」に関しては、グローバル にその必要性が求められているが、具体論は出現していない。ましてや、根本的に諸問題を解決する理想都市論に関しては専門家の間でさえ議論の俎上にすら上っていないのが現状である。


(3) 全国総合開発計画の理念と現状

日本での現状は、海図も羅針盤も天気予報も無く、船長も不在で嵐の中を航海中のような ものだ。これを救うのは明確な理念と戦略であるべきはずであったが、現在、「全国総合開発計画」は瀕死の重傷状態だ.
木来であれば、国レベルの総合計画として最新の全国総合開発計画を実行する、あるいはその計画が相 応しくないのであればその次の全総があってしかるべきで、本研究もその計画策定にこ資することを念頭にしている。
全総は必要ないとの意見があるが、それを代替する理念や計画が無いのは無責任状態である。下記は 過去の全総の理念とキーワード、成果の整理であるが、三全総以降明確に迷走している。
一全総 昭和37年~昭和45年 新座業都市・工業重点投資 産業都市化が加速された。
二全総 昭和44年~昭和60年 大規模工業開発と交通網 列島改造ブームをもたらした。
三全絳 昭和52年~昭和62年 大都市から地方へ、定住固構想・田園都市国家 計画は良かったが実践されなかった、
四全総 昭和62年~平成12年 多極分敵型国土 実態は交通網の整備と東京一極集中政策。バブルで計画が崩壊した。
五全総 平成10年~平成22年(平成27年に延長) 複数国土軸、多自然居住、地域連携、都市再開発、知財立国 言葉は美しいが理念性と具体性に欠ける。


 

6 サステイナブルシティの理念

 

(1)「サステイナブルシティ」理念の核

理念の一番重要な核(コア)は、現代都市の諸問題を解決する「サステイナプルシティ」 を実現普及させることである。わかりやすい標語で表わせば、「サステイナブルな環 境ど資源ど仕事があり、教育が素晴らしく、家族友人と一緒に、安全安心、格 安に楽しく幸せに暮らしたい」と願う人々が自律的に創造し運営する町」ということである。

この理念に近いものとして、トフラーの『第三の波』に示唆される、未来型ライ フスタイルにふさわしい持続可能な都市が考えられる。トフラーが言う三つの波とは、

「第一の波」 農耕の波である。狩猟採集・牧畜から農耕定住に代わった波であり、その 産業基盤は「土地(耕作地)」で、人々のライフスタイル(住まい方、働き方、余暇の過ご し方)は農村的ライフスタイルであり、人の価値は富および支配者の武力に従属している。

「第二の波」 産業革命の波である。その産業基盤は「カネ(資本主義)」であり、「産業 都市jの消費型ライフスタイルであり、画一性、規模、コスト、富と武力と支配力の論理が優先され、人の価値はこれらの価値に従属している。帝国主義もそうだあったし、現代の大国も同様である。

「第三の波」 情報革命の波である。その産業基盤は「人(創造力)」であり、人々のライ フスタイルは「創造と自己実現」。「サステイナプルな都市」での創造型ライフスタイルであり、多様性、貴重性、人の価値が優先され、富や武力や支配力は評価されない。

 


(2) 「サステイナプル」の定義

「サステイナブルシティ」の理念が「サステイナブル」であると言われても、禅問答のよう であり要領を得ないので、「サステイナブル」の定義をしておく。

「サステイナプル」を階層で分解するとわかりやすい。


レイヤー1(基本層)として、持続可能な環境と資源(インフラ、食糧、エネルギー、安 全等)が得られることが大前提となる.キーワードは「セルフコンテインド」「安全安心」である。

レイヤー2(中位層)として、レイヤー1の基盤の上で持続可能な産業(仕事)が成り立つことが重要である.キーワードは「知財産葉と教育」である。

レイヤー3(上位層)として、レイヤー1,22の上で持続可能な生活とコミュニティが成り立つことが大きな目標となる。キーワードは「自律コミュニティ」である。

これは何も今日に始まったことではなく、普遍的真理であり、「衣食足りて礼節を知る」と の管仲の言葉が的を射ているように、生活資源が足り、自己実現と幸福が得られていれば、都市の諸間題はもちろん、各種の紛争も回避できるのである。

 

「サステイナプル」を、対象とする規模と目標により分頬することも理解の一助となる。

 

A グローバルレベル(地球規模)のサステイナピリテイ

グローバルレベルでは、自然・社会・文化の総合的なサステイナビリティの確立を目標とし ており、近年特に社会文化的サステイナビリティが重視されてきている。

 

B カントリーレベル(国の規模)のサステイナピリティ

国レベルでは、何を糧に国を存続させるかという視点が重要視される。知財立国、技術、 デザイン、コンテンツなど、全産業における創造牲が求められる。「富国強芸」による国の サステイナビリティを目標とすると考えれば理解しやすい。開発途上国においては、経済的 破綻を避けながら国民のQOLを上げることを目標とする。それは先進国型(第二の波) の消費文明を目指すものではなく、最低限の資源利用で最大限の幸福をもたらすものである。

 

C リージョナルレベル(広域行政圈の規模)のサステイナピリティ
リージョナルレベルと言えば、日本中近世では「藩」であり、西洋中世では「領主国」の規模 であり、かつてそうであったように、地域が閉じた社会として自律し、生きる糧の特産品 などを閧発し、相互連携して持続することを日標とする。上杉鷹山の例が典型だ。 中近世の封建制時代においては、物理的QOLは低いが、精神的QOLは高く、経済的にも環境的にもサステイナプルであった。

山形県米沢市 世界的に有名な上杉鷹山


D  コミュニティレベル(最少行政単位/近隣住区の規模)のサステイナビリティ

コミュニティレベルのサステイナピリティが今回の議論の主対象である。人口5000人1500戸程度の、サステイナブルで自律的なモデルタウンを閧発し運営することを想定する。都市 をパッケージあるいはプラントとして設計することが比較的容易であり、実行主体の責任 も成果も明確で、デベロッパーやゼネコン、商社、メーカーなど、まちづくりに関連する企業が実力を発揮しやすい規桃でもある。

 

E  ファミリーレベル(世帯の規模)のサステイナビリティ

ファミリーの重要な目的の一つは次世代を残すことであり、それが人類のサステイナピリティそのものである。生涯独身で子供が無い人だけの社会や限界産業が持続不可能なために限界集落(半敵以上が65歳以上の 村)となった社会など当世代限りで消滅しないことが目的である。

北海道岩見沢市 かつての炭鉱住宅は今では限界集落

 

種のサステイナピリティと いう観点では霊長類の研究成果を知ることや先進国以外の社会を知ることから大きな ヒントを得ることができる。日本はもちろん、世界のほとんどの農村は母系仕会であった が、今はそうではない。今西錦司が収り組んだニホンザルの生態学社会学的研究は京都大 学霊長類研究所として世界的に注目されたし、マリノウスキーの西太平洋トロブリ アンド島での文化人類学調査も注目を浴びた。それらに共通するのは「母系社会」である。 社会秩序を保ちつつ母系社会のメカニズムを導入することができれば、後述する「四世代 近居」の理念が実現し、多くの課題が解消される。

だが、母系社会でなければ達成不可能ということではない。ファミリーレベルのサステイナピリティでは、家族のそれぞれが自己実現でき幸せに暮らせることはもちろんのこととして、次世代がより幸せになると同 時に、墓の維持やアーカイブス(アルバムや家系図)など、前世代の記憶と成果、アイデ ンティティと知性を継承することも重要な目標である。そのためにも血緑と経済が共存す ることが重要だ。「家内興業」により、多世代近居/同居を促すことが達成される。開発途 上国では不必要な多産を減らし、逆に先進国、例えば日本では世帯あたり人数を増やすこ とを念頭に置く。現状2.5人/世帯であるが。これを3..5人/世帯程度に高め、都市問題の多くを解決することを目標とする。これにより、世界レベルで低開発国の人口増と資源要 求の悪循環を終焉させ、サステイナブルな社会構造とすることを目標とする。

大分県高崎山のサル集団 母系社会で、メスがオスを選ぶ。オスは自分の子が誰だか分らない


 

 

(3) 「セルフコンテインド」

 

A、「自給自足」

「セルフコンテインド」とは、地域に必要なものを全て地域内に備えていることを言う。 これに近い概念として、古来より「自給自足」があるが、自給自足は主に食糧などの「財」 を対象としているのに対し、「セルフコンテインド」では、都市の運営システム、教育や福 祉などのサービスまで含めた、都市機能を維持するための全ての要素を包括的に保持することを理念とする。

「セルフコンテインド都市」のアナロジーはどのようなものであろうか。ハード、ソフト (社会システムとサービス)共にセルフコンテインドな、クルーズ船、病院、城壁都市、基地などと同様な、外に閉じた施設の中で、エネルギーと食物と産業、その他資源がサス テナブルに確保されているイメージを挙げることができる。

具体的には、

 a. インフラ、エネルギー、食糧など、全ての分野において地域内で完結するクローズドシステムを原則とする。さらに、可能な限り各世帯内でのセルフコンテインド化(自己責任の明確化)を原則とする。エネルギーを例に挙げれば、原則として再生可能エネルギーのうち太陽光のエネルギーを標準とし、その他風水力地熱などの調達可能な再生可能エネルギーを利用する。交通を例に挙げれば、この町の中心区域中には鉄道、高速道、幹線道路などの通過交通は無く、閉じられた交通網で電動またはマンパワーに限定される低速安全な交通体系がある。LRT の導入などの対症療法ではなく、根本的に 「人を中心とした町」を創る理念である。建築土木に関しては、LCC(Life Cycle Cost)の低減を重視し、原 則として地域資源を活用する。特に建築では原則として地域内産の用材を利用する。

b. 地域内で得られない資源やサービスは、リージョナルレベルでの相互融通、それでも足りない場合はカントリーレベル、グローバルレベルでの広域連携で確保する。クリスタラーが研究した「中心地理論」は経済地理的に広域連携が必要であることの根拠 となっている。

c. 食糧の自給自足は、いわゆる「地産地消」に近い概念であるが、農業による環境破壊を防ぐため植物工場で補完される。世界中の乾燥地帯における潅漑農業は、水資源の浪費による土壌塩化、化学肥料による窒素分の蓄積など、土壌の荒廃をもたらし、農薬・環境ホルモンな どによる汚染を産み、森林の減尐などとともに大きな環境破壊に至っている。植物工場化はこれらの環境改善に加え、生物多様性の確保、水資源の節約とも密接な関連を持つものであるが、下水処理の変革による水資源と肥料資源の循環システムとも関連し、今後大きく発展すると考えられる。

B. 「環境改善」

「環境」は「セルフコンテインド」の重要な要素であり、この件に関しては国連環境計画(UNEP)のアジェンダが参考となる。

a. 「CO2 ゼロ」「廃棄物ゼロ」「水使用量の極小化」

 CO2 削減の目標は、再生可能エネルギーを原則とすることと、潜在植生の復元により光合成植物を増加させることで、地域全体が CO2 ゼロからCO2 マイナスへ、すなわち酸素供給の町にするということである。当然にして廃棄物も可能な限り減尐させ、可能な限りリ サイクルさせる。そのためには、一人あたりのエネルギーや水などの消費量の目標を設定 し、ライフスタイルを根本的に見直すことが必要である。

b. ライフサイクルフットプリントの極小化

地域内の人々の活動が環境に与えるインパクトを最小にすることと同様に、地域内の施設が環境に与えるインパクトを最小限に抑えることも重要である。そのためには、建設資材の地産地消も必要である。木材を産出する地域では、鉄筋コンクリートの高層建築をやめ、 100 年単位の長寿命木造建築物を主とし、最低限の資源で建築・運営できることを目標とする。建築物の配置計画においては、最低限のフットプリントであることはもちろん、再建築が容易であることなど、ライフサイクルを通じた環境調和に留意する必要がある。

c. 生物多様性の確保、潜在植生の復元と拡大

生物多様性は、地域全体の生態系のセルフコンテインド化によ って担保される。そのためには潜在植生の復元と拡大が重要となる。例えば、白神山地のコ アゾーン保全など、同一河川の流域を一つの生態系として、微生物から植物、動物まで含めた生態系全体の復元と拡大が必要で、流域となる地域が連携して取り組む必要がある。 潜在植生の回復拡大により、森林用材はもちろん、動植物の利用、酵母など微生物の利用 も可能性が広がる。開発途上のセルロース分解技術が確立すれば、ウシやヤギのように繊維質を食料とすることも可能となるし、木材のリグニンを利用したプラスチック生成などが可能となり、セルフコンテインドの理念とも合致する。経済性を優先し外来種や栽培植物を利用してやみくもに森林や緑を増やすのではなく、生態学的な潜在植生の復元が必要である。

秋田県八峰町 世界遺産白神の巨木

ブナの土壌から発見された「白神こだま酵母」を使った地元小学生のパン作り実習

 

 

(4) 「安全安心」

住民の「安全安心」への関心は幅広いので、広範囲の安全安心を確保する必要があるが、 「セルフコンテインド」の理念に従い、原則として各世帯単位の自己責任と地域コミュニ ティ単位での相互扶助で確保するシステムを持つことを目標とする。

A. 防災の安心

災害対策基本法では、暴風、豪雤、豪雪、洪水、高潮、地震、津波、噴火その他を災害と定義している。これ以外の災害として、原子力災害、武力攻撃(戦争、テロ)等が挙げら れるが、本論での災害はネットワークダウン、サーバーテロ、パンデミックなどあらゆる災難を対象とするため、 広義に捉える。

災害からの安全は、居住地の選定や都市計画における最重要項目であり、都市のサステイナ ビリティを問うのであれば、少なくとも千年単位、理想的には永遠に防災可能な地に集落や都市を創るべきである。だが、現実の集落や都市の中には、目先の経済性を重視し長期的な防災を軽視して立地形成された例が多い。

例えば洪水であるが、現在の日本では概ね 60 年洪水確率で堤防やダムなどの洪水対策施設を設計する。すなわち、60 年 に一度は洪水に見舞われる危険があるということを周知し、人々にリスクとして直視させるべきである。「今まで体験したことのない災害」、「歴史上記録の無い災害」といえども、 自然はその痕跡を残しているものであり、注意深く立地選定すべきである。例えば、数十年から百年に及ぶスーパー堤防の構築はこの基本理念に照らして根源的に問われるべきである。代案として次世代の資産と生命の安全を確保するという見地から、危険な土地に留まるか安全な地に住み替えるかという判断を行うためのシミュレーションを提示すべきである。

海面上昇は長期かつ微弱に進行する災害であるため安全性の認識が甘いが、安全の理念は洪水と同様である。CO2 による温暖化に伴う海面上昇が起きる確率は数十年単位であり、この問題に関しては国連居住計画(UN-HABITAT)ほか多くの科学者が警鐘を鳴らしている。CO2による温暖化とは関係なく数千年単位で縄文海進が存在した。 これに備える ためには海抜 10-15m 程度の地でなければ安全でない。

テロなどの武力攻撃に対する安全は、シェルターや防護壁などによる防衛対策は当然として、予防的措置が重要である。中小都市・知財都市は、大都市・製造産業都市に比較して攻撃対象となりにくいが、グローバルな姉妹都市提携や相互疎開提携などの人的交流によ り災害を予防することが必要である。 そもそも国家間の争いである戦争や難民の発生を防止するのが本論の重要な目的である。

首都圏の海面が 10m 上昇した場合のシミュレーション (地図ソフトカシミールで作成)

 

B. 不慮の事故の安心

不慮の事故で最も心配なことは交通事故であり、水難や日常の事故も気がかりである。こ れらの対策としては ITの活用が有効である。J-town2010 では、交通事故対策、防犯、医 療など、全ての個人ベースのサービスに備え、人・モノ・場所の特定のために、ID とセンサーと屋内外 GPS と通信機能を備えたミリ単位のチップが活用される。このようなチップおよびシステムは既に低コストで実用可能な段階にある。例えば交通事故に関しては、地域内では電動超低速の自動走行であることで交通事故が回避される。

C. 防犯の安心

これにもIDとセンサーのシステムが利用される。J-town2010 の中心部は、ゲ ートやフェンスの見えないゲートコミュニティであり、地域外からの訪問者も IDの登録と携帯を要する。逆に言えば、域外から侵入した犯罪者や野生クマなどの危険動物に対し発報や追尾をすることが可能である。このシステムも実用可能な段階にある。

D. 環境の安心

環境改善の項目で述べたが、環境汚染物質を含まない安全な水と空気など、環境の安全は生命の維持にとって非常に重要である。

a. 資源・エネルギーの安心 セルフコンテインドの項参照

b. 食料の安心(フードセキュリティー)

フードセキュリティーは「スローフード」の先を行く統合理念として重要だ。統合理念の必要性は以下のとおりであり、情緒に訴えた食糧問題や関税問題の議論は意味が無い。

・ プリベンティブフード(疾病予防食;医食同源)

栄養バランスがとれた清浄な食料と予防医学的なライフスタイルを重視する。三大成人病のうち、コントロール可能な心疾患、脳血管疾患を予防する。

 LDL コレステロール対策の植物性タンパク食 (ダイズを使った肉の代用品)

・ローカルフード(地産地消)

セルフコンテインドの理念に従い、地域に閉じた食糧生産と消費、肥料回収の循環システ ムを基本とする。これにより、今後襲ってくる土壌の窒素汚染、水の富栄養化に対処する こともできる。

長崎県西海市 海の駅「船番所」 地域産の野菜と魚介の料理。地域の土と水がもたらす恵みが舌になじむ。地元の人の交流の場ともなっている。

 

・フードストレージ(備蓄食糧)

食糧の備蓄には相当の量が必要だ。火山爆発や隕石落下などに伴う天候不順の危機は 3 年 間続く場合があり、江戸時代の飢饉を例にとっても長期の備蓄が必要である。宮本常一が編集した「日本残酷物語」にその惨状が詳述されているが、現状そのような備蓄は 行われていない。水耕栽培の植物工場やセルロース分解技術はこの備蓄食糧問題を解決する。

岐阜県飛騨市 飢饉に備えた種蔵 飢饉の時は種籾も食いつくしていたが、この地域では種蔵の籾には手をつけなかったため、生き残ることができた。

また、セルロースの糖化、エタノール化などにより、醸造を含めたバイオ食材の多様化、 プラスチックなど化石燃料由来資材の代替を推進することができる。

・クリエイティブフード(食の知財産業化)

知財の項目に属するが、食の知財産業化も重要であり、世界に認められる食文化の価値を 創造することも新たな産業となりうる。



E. QOL の安心 ~ICF を活用した統合システム

QOL(Quality of Life)は医学用語からスタートした。WHOは、「QOL とは、身体的にも精神的にも社会的にも宗教的にも満足のいく状態にあること」であると定義し、身体、心理、 自立レベル、社会関係、精神性/宗教/信念、生活環境の側面で国際比較が可能な包括的なQOL尺度を開発している。地域でのQOLの安心とは、自然、人文、社会的分野で QOL のアセスメント評価が高い町 を目指すことである。QOL の上昇は、自己実現に資する環境の確保などによってもたらさ れるが、そのニーズは広範である。逆に、QOLの低下は、疾病や要介護状態はもちろん、 離婚などによる家族の絆の低下、失業等による職の安心の低下、金銭的安心の低下、コミ ュニティや組織への帰属の低下などの社会的要因によっても引き起こされるので、QOLを向上させる統合的メカニズムが必要となる。それに有益なのが、WHO が策定し た ICF(国際生活機能分類)である。 ICFの基本理念は、人の潜在的な生活機能を実行に移し、より良い生活につなげるための「能力」の発見という、行動科学的なアプローチである。

a. 医療、介護などの安心

医療と介護についての指標は比較的明確である。医療に関しては、WHO の ICD(国際疾病 分類;International Classification of Diseases)があり、因果関係の把握や疫学統計などが容易 となっている。一方、介護の範疇である生活機能と障害に関しては、従来ADLが指標であ った。ADL には、基本的な日常生活動作の能力を指標とする BADL(Basic Activity of Daily Living)と、機器の操作や金銭管理など複雑で社会的な行為の能力を見る IADL(Instrumental Activity of Daily Living)があるが、これらを統合発展させ、ICD と対を成すICF(国 際生活機能分類;International Classification of Functioning,Disability and Health)が策定された。 これは、人の生活機能と障害について、心身機能と身体構造、活動、参加の三つの次元と、 健康状態、環境要因、固体要因とを考慮し、1500 項目に分類される汎用的な指標である。 ICFの優れている点は、障害者のみならず、全ての人の保健・医療・福祉・社会サービスの分類および統合評価、因果関係の科学的取り組みなどが可能になることであり、サービスの現物給付はもちろん、地域施設全体のユニバーサルデザイン化やコミュニティ全体で取り組むノーマライゼーションなどの統合システム化に貢献する。

J-town2010は知財産業を基盤としているので、この点ではアドバンテージがある。例えば、生命科学に特化した知財産業の町では、医療系研究機関と連携し、医療健康分野での実証 研究(公衆衛生:健康増進、医療費削減、新薬開発等)の場として、住民が協力すること と引き換えに医療介護および健康増進の高品質サービスを得ることが可能であろう。スタ ンフォード大学医学部が地域と連携研究している予防医療プログラムやキャニオ ンランチに見るように、J-town2010 の医療介護費は積極的な予防プログラムの導入により削減することができるのはもちろん、新プログラム、新処方の開発が可能となる。

 米国マサチューセッツ州レノックス キャニオンランチ クリーブランドクリニックと提携したライフスタイル変容(予防医療)

 

b. 教育の安心

・教育費の安心(無償/奨学制度)

後述する知財産業の理念のもと、教育は非常に重要な項目である。世界的動向を見ても大学まで一貫して無償で行われるべきであり、その原資はコミュニティからの基金(税金等)で賄われる事を原則とする。アメリカでは目的税としてスクールタックスが存在する。た だし、公的な教育システムは必要なく、理念に基づいた教育プログラムであれば選択の自由は広いほど良い。従って、教育クーポンシステムが採用されるべきである。教育クーポ ンとは、年間一定額のクーポンチケットを受け取り、私学、私塾、スポーツ教室、情操教育、習い事、留学、外部講師の招へい等、幅広い裁量のもとに自由に教育・実習の機会を得られるシステムであり、一定の達成基準(達成度試験等)を満たせば良いとするものであり、非効率な学校教育システムを改善し、知財産業に関連付けた教育を目指すことが可 能となる。

・全人教育と実務教育の安心

知財に即した教育は、ゼロ歳からリタイア層まで全人的に行われる必要があり、社会人教育では、それぞれのTPO に従い、教育サービスを提供する側かサービスを受ける側に回る。 この原資にはコミュニティバンク等の蓄積等が充てられる。

教育に関しては、授業料が大学まで無料、図書館利用率が世界一で、世界最先端の学力の フィンランドに見習うべきであろう。

フィンランドの教育方針

 1. 情報社会教育

2. 数学と自然科学を重視

3. 言語や国際的視点を重視

4. 教育の標準と質を高める

5. 教育と実社会との協調に配慮する

6. 新任、現職教員のトレーニングを重視

7. 生涯学習

北海道札幌市 北海道大学農学部モデルバーン クラークが導入したモデル農場は近隣住民の子育て世代の散歩コースにもなっている。

c. 仕事の安心

仕事の安心に対し雇用保険や生活保護の実効性は疑問である。これらは最低限とし、その 代わりに創業支援システム(インキュベーション、ベンチャーキャピタル等)、創造支援シ ステム(知的データベース、メディアアーカイブスなど)、マーケティング支援システム(コ ンベンション機能、グローバル広報メディア機能)などを J-town2010 のタウンマネジメン ト機能として実装する必要がある。

高知県馬路村 「ゆずの森」 耕地面積が 2%しかない山奥の村でも特産品の開発とダイレクトマーケティングにより多くの雇用を創出している。

 

d. 財産の安全

不動産やインフラは、ハワードの田園都市や長崎の端島がそうであったように、原則とし て公有とする。例えばJ-town2010の不動産などの資産の財団化、英国のような 999年信託化、タウンマネジメント組織による所有など私権の制限による超長期サステイナブル化を行い、施設利用の効率化と施設更新の円滑化を図る。従って個々の住民は不動産についての不安はない。金銭資産の管理および資産関連の安心については、通常の信託に加え、知財産業という理念のサステイナビリティを担保するため、個人に帰属する知的所有権(著作権、特許権等)の信託管理および支援のシステムをタウンマネジメントシステムに統合させる必要がある。 例えばJASRACなどの音楽著作権団体がこの信託システムを実践している。年金と個人信託に関しては、 欧米の教会コミュニティのように、死後の財産を子孫とコミュニティのために信託するタウンマネジメントシステムを導入するべきであろう。

長崎県長崎市 出津救助院 隠れキリシタンの里。修道院が中心となってまちづくりが進んだ。祈りの場(教会)と産業の場(授産場、マカロニ工場、農場)と教育、介護施設などを建設してコミュニティを維持してきた。
明治 25 年と平成 22 年

 

e. 死後の安心、心の平安

大都市では孤独無縁社会に起因する心の不安がある。J-town2010では日常的に宗教その他の精神的な場と機会を通じて安らぎとインスピレーションが得られる。映画アバターの例示が相応しいかどうかはさておいて、映画に登場するマザーツリーはシンボリックだ。 このような場と機会は盲信的な宗教とは無縁で、ICF に定義されているように高度に知的である。宗教施設と鎮守の森、墓地、霊地霊木、記念植樹、自分史アーカイブ(電子 的なアルバムと墓碑銘の保存)等を通じて、自分の人生の存在価値(アイデンティティ) と業績と知恵(暗黙知の見える化)を次世代に伝えるタウンマネジメントシステムが必要 である。戦後の日本はこのようなポジティブな面の宗教的活動への公共関与も完全否定さ れているが、コミュニティの自律的運営のもとで宗教的精神的活動を行うことは人間の根源に根ざすものであり、公徳心や創造性の醸成などに必要である。

山形県東根市 東根小学校の大ケヤキ 樹齢 1500 年以上の木に見守られて育つ子供たちは幸せだ。

鳥取県三朝町 三仏寺投入堂

長崎県五島市 江上教会

 

 

(5) 「知的産業と教育」

産業のサステイナビリティは重要なので詳述する。 J-town2010が、100 年単位ではなく 1000 年単位で存続するためのサステイナブルな基幹産業の一つが知財産業である。この場では知財産業を広義に定義する。全ての産業が知財に関わっているが、議論の対象は、知財の差が産業の根幹となっている産業、科学技術に基礎を置く産業(工学、生命科学などの理系産業)はもちろん、文化教育、サービス関連産業まで幅広く対象とする。であるから、知財産業の基盤となる「知財」には、狭義の知的所有権のみならず、製造技術(職人の暗黙 知を含む)、コンテンツ、デザイン、アート、哲学宗教に至るまで、人の活動が生み出す広 範囲な付加価値の源泉を含む。 過去の歴史上どのような状況下でも知財(知的人材)が不要とされることはなかった。時の専制権力に正面から対抗し虐待されたことはあったが。


A. 創造性の指標は何か

知財産業には「創造性」が必要だと叫ばれるが、その創造性をもたらす具体的な指標は何なのか、その指標の根幹は何なのか、その根幹を醸成するコミュニ ティや都市のメカニズムとは何なのか。以下の例で順次掘り下げて検討してみたい。

a. 「人間開発指数」

 国連開発計画(UNDP)の HDI(人間開発指数;Human Development Index)は、国民の知財開発ポテンシャルを見る指標であり、国の発展のためにこの指数を最大化させることが求められている。2009 年の結果では、ノルウェー、オーストラリア、アイスランドが上 位 3 つを占めている。ちなみに日本は9位である。主な指標は、平均余命、識字率、就学 率、一人あたり GDP であり、どうしても先進国が有利となるが、開発途上国にとっては有効な目標である。

b. 「QOL 指数」

QOL については「自律コミュニティ」の項でも述べるが、知財産業は人の創造性に依存す るものであり、自己実現・QOL との相関が高い。国別、都市別の QOL指標については各種調査が行われているが、国や大都市という広域を対象に、消費型の QOL と創造型のQOLが混在評価されているため、必ずしも知財産業に連関しない。 イギリスの経済週刊誌団体が2005 年に発表した「国別の QOL指数」では、アイル ランド、スイス、ノルウェーが上位 3 つを占めている。日本は 17 位である。評価指標として、平均寿命、離婚率、コミュニティ(教会への出席率・労働組合参加率)、一人あたりGDP、政治的安定性、気候と地理、失業率、政治的自由度、男女平等度を挙げている。 ニューヨークの大手保険代理店マーシュアンドマクレナン系列の調査会社による「都市別 のQOL指数」では、スイスのチューリッヒ、ジュネーブ、カナダのバンクーバーが上位 3つを占めている。東京は35 位である。主な評価指標は、政治 と社会の自由度と安定度、経済的規制、社会文化の自由度(個人への規制・検閲)、医療健康、教育、自然と防災、公共サービスと交通、レクリエーション、消費財、住居である。

c. 「都市総合力指数」
森記念財団等により発表されている都市総合指標は、都市全体の総合力を知るものであり、 2010年版では、ニューヨーク、ロンドン、パリ、東京の順に先進諸国の大都市が上位を占 めている。この中で、研究者・アーチスト向けの指標要件を特定していることは参考にな る。研究者向けの指標は、研究機関と研究者の存在と集積、創造の刺激となる空間と機会の存在、受け入れ態勢、就業機会、住みやすさであり、アーチスト向けの指標は、文化的刺激、アーチストの集積、マーケットの存在、創作環境、住みやすさであると定義してい る。ただし、住みやすさの指標の中で、自然環境やコミュニティの豊かさ、生活費の安さ などは評価されていないため、この定義では先進国の大都市が上位を占めるのは必然である。果たして先進国の大都市でなければ知財産業は生まれないのであろうか。

d. 「イノベーションシティ指数」

オーストラリアの調査会社が行っているイノベーションシティ指数は、都市の創造力を評価する目的のものであり、2010 年の調査では、ボストン、パリ、アムステルダムが上位 3つを占めている。東京は 20 位である。指標として、31の大項目、162の小項目を取り上げている。この中で重要な指標は、建築、アート、ビジネス、環境と自然、ファッション、 食事、歴史、情報、音楽、人(コミュニティ)、宗教性、スポーツ、基礎インフラ、商業、 文化交流、教育、行政サービス、健康、産業、労働力、法律、交通、公安、起業環境、技術と情報、そして地理である。創造性を育み、試行を促し、知財産業として成り立たせる ための条件として、必ずしも大都市が必須ではないということが理解できる。

 

B. 知財産業創出のメカニズム ~ 行動科学的アプローチ

各種指標の羅列では知財産業創出のメカニズムの根本的な理論がわからない。人々の創造性を刺激し、知財産業を育み、産業のサステイナビリティを保つためのメカニズムは何か。 それには、診断、行動、評価という PDCAサイクルを確立することが必要だ。ICF の考え方に基づいた指標により診断を行い、知財理念に沿った行動変容につなげるための行動科 学的アプローチである。行動科学は心理学と医学から発展した理論である。例えば、子供に勉強させたいと願う親の立場で、あるいは本人の立場で、「自分の課題」としてとらえればわかりやすい。創造性と知財産業に関連が深い「芸術教育」を例に、行動変容理論にお ける PDCAサイクルを展開してみよう。(適切な訳語が無いので英語を優先する)

・Locus of control (統制の座) 「自力本願か他力本願か、必然か偶然か」

自力本願は知財産業創出にとって最も重要な行動規範である。「自分の努力や勉強(原因) が将来の職業(結果)につながる」と考える人は行動変容につながるが、「他力本願で、言 われた事だけ最低限やる、将来の良い結果も悪い結果も時の運」と考える人は行動変容の ステージに進まない。行動規範とアイデンティティは、エリクソンの発達心理学(資料) においても人生の初期に形成され、その後の統一された人生観、宗教観につながるが、そ れを育むのは、親であり、教育者であることはもちろん、地域コミュニティの積極的な介 在が重要だ。すなわち、地域の宗教施設での説教であったり、近所で働いている人々であ ったり、古老であったりする。現代の大都市においては、無縁社会と言われているとおり、 コミュニティからの働きかけが非常に希薄となっている。

・Positive reinforcement(正の強化) 「褒美か罰か」

行動を起こせば良い結果が出るという経験(正の強化)と、行動を起こさなかったら罰が与えられるという経験(負の強化)とでは、正の強化のほうが行動変容につながりやすい。 努力した結果表彰されたり段位が上がった場合と、努力しなかったために罰を受けた場合 では、表彰されたほうが次の行動変容につながりやすい。これをもたらすのは、親や教育 者はもちろん、コミュニティの力である。

・Outcome expectancy(結果期待感) 「望みの高さ」

結果への期待感が大きいほうが行動変容につながりやすい。表彰状や褒め言葉だけよりも、 花束や拍手喝采、副賞の商品券、ひいては将来の職業選択への資格取得など、望みが高け ればさらに高い次元の行動への励みになる。

・Self efficacy(自己効力感) 「やればできる」

ある状況において適切な行動を成し遂げられる、という予期および確信であり、わかりやすく言えば、「やればできる」という信念である。「やればできる」という励ましも重要で あり、これまたコミュニティの力が重要だ。

・Empowerment(エンパワーメント) 「やる気が出る」

「行動を起こす力が湧いてくる」ことである。結果への期待感が高く、やればできると信 じていれば、自ずと実行への力が湧いてくる。

・Supporting team(応援団)

人は弱いものだ。自分の周囲に行動変容の継続を支えてくれる人々がいないと、行動を中 止してしまう。Supporting team には、家族や教育者はもちろん、周囲の「成功体験者」(先 達・先輩)が含まれることが重要であり、この点においてもコミュニティの積極的関与が 重要だ。

・Monitoring(進化状況の把握)

行動変容の度合いは自分では把握しづらいものであり、適切なモニタリングが必要だ。例 えば、自分の過去の作品を記録保存して現在の作品と比較できるようにするなど、行動変 容の進化を実観的に評価できる道具や場(審査会やアーカイブスなど)が必要である。

・Positive feedback loop (正のフィードバック)

上記の流れに従ってもたらされた行動変容の結果が次のさらに良い行動変容につながり、 どんどん良くなる PDCA サイクルができることとなる。

このように、創造的行動変容をもたらすには、家族や教育機関の関与はもちろんのこと、 コミュニティが積極的に介在するメカニズムが必要である。 コミュニティにつながり、知的創造的生産を行うことの幸せを目指す世界観として、以下 のような先人の例示が参考となろう。

「幸福な人びととは、なにかを生産している人びとである。退屈なる人びととは、やた らと消費してなにも生産しない人びとである(イング)」

 「人間は意欲すること、そして創造することによってのみ幸福である(アラン)」

「想像力は、知識よりも大切である(アインシュタイン)」

C. 知財産業創出メカニズムの実装

行動科学に基づく知財産業創出メカニズムを J-town2010の建設と運営に実装するにはど うすればよいのだろうか。例えばICFをもとに行動科学的アプローチを導入すれば、以 下の例が考えられる。

a. 職住学遊一体化(多目的利用とタイムシェア)

・タウン施設の職住学遊一体化

従来は、学校、図書館、公民館、博物館などは、施設毎に所有者と運営者が異なり、知財産業という理念を共有することなく、行政財産の狭い目的と規則に従って排他的に運営さ れていたため、非常に非効率であった。J-town2010では、施設、人材、システムの所有と 運営の権限者を「統合タウンマネジメントシステム」として一元化し、目的と立場の異な る利用者が情報交換しながら共用できることにより、利用効率が最大化するとともに知財 活動の促進に貢献することができる。所有と運営の一元化については別途端島の章で考察 した。一元化とは、従来言われていた「産学官民連携」という難易度の高い目標を捨て、設立当初から「産学民一体化」を目指すものである。この町では、「官」は不要なため存在せず、 産と学と住民とは最初から一体であるので、各自が能動的に知財活動に関与する機会を持 つことが可能となる。

山口県萩市 明倫館(左)と有備館(右) 旧藩校で、現在市立明倫小学校となっており、有備館(坂本竜馬も試合を行った剣術場と槍術場)、水練池、聖賢堂などが国の史跡に指定されている。児童教育の場、文化財を利用した社会教育の場、観光施設として共用されている。

 

・住まいと工房の職住学遊一体化

タウン施設とは異なり、住まいや工房は他者との共用化やタイムシェア化には限界がある が、多目的化は可能である。すなわち、住まいはライブワークプレイス(創造の場)、ライ ブショールーム(マーケティングの場)、ライブエデュケーションスペース(子弟教育の場)、 ライブエンタテインメントプレイス(コミュニティとの交流の場)、リビングスペース(プ ライベートな場)であり、各住戸が単一目的で機能するのではなく、多目的利用により、 多くの知的創造機会を提供することが可能となる。

大分県日田市 小鹿田焼(おんたやき)の里 皿山

小さいコミュニティではあるが、サステイナビリティの見地では特筆に値する。共同展示場を備え、地域産出の陶土を地域の水力を利用した唐臼で砕き、薪で焼いている。(かつては背後の山で産出する 薪を利用していたが、現在は廃木材を利用) 民芸運動を提唱した柳宗悦の紹介やイギリスの陶芸家バーナード・リーチの作陶により、海外にまで広く知られるようになったため、半農半製陶の経済生活から脱却し製陶専業で自活できるようになった。窯元は代々長子相続で技術を伝えていたため、開窯以来の伝統的な技法がよく保存されており、「重要無形文化財(人間国宝)」に指定された。10 軒の窯元は共同で土採りを行ったり、作品に個人銘を入れることを慎むなど、 小鹿田焼の品質やイメージを守る取り組みを行っている。また、窯元がある皿山地区と棚田が広がる池ノ鶴地区が「重要文化的景観」に、唐臼の音が環境庁の「残したい日本の音風景百選」に選定されている。

     

 

富山県南砺市 井波
住民が自宅二階を彫刻師の棲み家兼アトリエとして提供したり、彫刻の仕事を発注したりと、地域ぐるみで刻師の生活を支え、井波独特の彫刻の街並が形成されている。

 


b. 知財指向の自主教育

J-town2010での教育は、子弟が知財産業で職業を得ることを主目的として、家族とコミュ ニティが自主的に行うものであり、受動的なものではない。知財の創造を目標として、ゼ ロ歳児から専門分野のカレッジレベルまで、コミュニティでの一環教育が行われる必要がある。そのために、コミュニティ内の社会人による OJT 教育、トレーニー教育も必要であるし、社会人になっても継続教育が必要である。

岐阜県高山市 飛騨国際工芸学園 飛騨の木工伝統工芸を現代の生活に活かす技術を伝える。家具の修復、生涯学習も行っている。

 

広島県福山市 廉塾(左)ならびに菅茶山旧宅(右) (国特別史跡)
かつて日本には藩校以外にコミュニティ内の私塾があった。菅茶山の廉塾や緒方洪庵の適塾は代表例である。茶山は著名な朱子学者。当地は山陽道の宿場町として栄えていたが、町は賭け事や飲酒などでと
ても荒れていた。茶山は学問を広めることで町をよくしたいと考え、講堂や寄宿舎を持つ私塾を創った。田を塾に提供し、経営は塾田の作徳米でまかない、塾生からは月謝をとらず、飯料・書物料などの実費負担のみで貧富の別なく修学させた。頼山陽もその一人であった。

 

 

c. ミュージアムと知識アーカイブス

創造の源泉として、自然界(博物)のメカニズムや先人先達の知恵に学ぶこと、模倣(ミ ミクリ)をすることが非常に重要である。知の蓄積メカニズムとして、各種ミュージアム やアーカイブス(図書館、メディア館、博物館、美術館、動物園、植物園、産業技術館、歴史館などの社会教育機能)が必要になる。もちろん、森羅万象全てのミュージアムがあるに越したことはないが、費用対効果を考慮し、J-town2010 を創造する場合、その町が特化し た知財のカテゴリに集中したデータベース構築と運用を行う必要があり、デジタルア ーカイブスで代用できるもの、教育施設や産業(生業)の場が兼用できるものは積極的に 共同利用する必要がある。

岐阜県美濃市 美濃和紙あかりアート館 昭和 16 年ごろ旧美濃町産業会館として建築された。一階は物販、二階はミュージアム。若手のアーチストを積極的に支援している。

  

北海道札幌市 北海道大学付属植物園内の博物館

 

d. グローバル交流

J-town2010 では、タウン内、コミュニティ内に閉じた知財創造メカニズムに加え、グロー バルレベルでの人材とミュージアム/知識アーカイブスへのアクセスが必要である。デジタルアーカイブスとしては国際的な提携などによる知的データベースの共同利用がありう るが、人対人の直接交流による知的創造の効用は大きい。そのために、専門領域の研究施設を持ち、優秀な人材を招へいしたり派遣したりするための奨学制度を組み合わせ、マー ケットインの R&D を促す国際的なマーケティングシステムを導入する必要がある。 J-town2010 の基幹産業を担う人々は、原則としてオーナー事業者、共同事業者であり、労働・生産の場であるとともに、研究・教育の場、ショールーム・マーケティングの場とし て機能する。 例えば、サミットクラスの上質で小規模な国際会議が開かれる知財産業都市となると考えると理解しやすい。すなわち、J-town2010 は、町が美しく自然豊かで、安全で、こじんま りとして、楽しく過ごせ、毎日のようにライブの産業コンベンションや文化イベントが開催されている町を目指す。J-town2010 の住民をあげて主催するこれらの交流は、ロッキーのアスペンやスイスアルプスなどのリゾート地で開かれる知財交流会議や大都会での産業 コンベンションよりも魅力的ではなかろうか。

フランス プロバンスのグラースとムージャン グラースは世界的な香水産業の町として有名である。フランスの香水香料の 2/3 がグラー スで作られ、年間 600 億ユーロの売上がある。ムージャンにはピカソやジャンコクトーはじめ多くのアーチストが居を構え、彼らに刺激され世界中からアーチストが集まった。

グラース

 

D. J-town2010(日本型モデル)の優位点

知財産業創出のメカニズムはグローバルなものであり、誰でも実装できるのであろうか。 日本型の世界基準都市モデル、J-town2010 の優位点はどこにあるのだろう。 小型コンパクト、省資源、高効率、環境に配慮し、高度な技術を持つ職人が家族とともにいきいきと働く小都市モデルは、日本において歴史的に実装されてきた。環境コンシャス、 ロープロファイル、ハイスピリチュアルな和の世界観やライフスタイルは世界に評価され る共有価値となりうる。J-town2010 は日本が得意な「協業、すり合わせ技術」を応用した自動車産業のようなシステムプロダクトであるため、イニシャルコストにおいてもランニ ングコストにおいても競争優位に立てる見込みがあり、付加価値の大きさにおいて世界の需要に対応できるのではなかろうか。 自動車産業のトヨタも、大工職人であった豊田佐吉が、機織りで夜なべしている母親を思い 「教育も金もない自分は発明で社会に役立とう」と決心し努力した結果であり、彼を支えた技術者集団も三河遠州の伝統産業である綿織物の織機製造技術の基盤があり、このような 遺伝子が産業発展の礎となっていることが重要だ。

静岡県湖西市 豊田佐吉生家と佐吉が発明をおこなっていた納屋

  

長野県塩尻市 漆の町木曽平沢 自宅工房で働く女性たち; 沈金の石本さん、現代工芸の巣山さん

 


(6) 「自律コミュニティ」

都市計画論とコミュニティ論は一体である。今まで述べてきた理念を全うするためには、理念を共有する人々によるコミュニティの創造と運営システムが必須である。

A. 「真の自治都市」

同じ理念を共有する人々が創造し、運営する自律的なコミュニティが「真の自治」と言える。真の自治のカギは、「行政の民営化」と「自律タウンマネジメントシステム」 である。これらについては別途タウンマネジメントと PPP の章で考察した。自律とは、財政面では、課税・予算・執行・監査の自主管理であり、サービス面では、住民自らの責任で多目的統合型の都市サービスシステムの運営を行うことである。

未だ世界の多くの最小自治体の運営は真の自治ではなく、上位組織の支配システムが残っている。日本では江戸時代は武士階級の支配であった。明治政府はクーデターで支配者が代わっただけであり、財政基盤として年貢徴収(現物納付)から地租改正(現金納付)へ変更しただけである。戦後も税制と公務員制度は明治からのシステムを継承している。真の自治では、首長や代議員を名誉職の無給とすること、公務員をゼロとし、住民自らの責任と相互扶助で運営することを究極の目標とする。なお、公権力の行使として重要視されていた警察と消防は、安全安心を目的としたタウンマネジメントシステムに代替される。警察は IT システムの導入により、消防は自営団での運営により、原則不要となる。もちろん、地域をまたぐ広域行政連携では警察や消防は必要であるが、旧システムの温存は意味をなさなくなる。米国での民営化の事例を参考に、既存概念の見直しを行う必要がある。

B. 「自己実現と QOL」「四世代近居とパワーコミュニティ」

「自己実現」はマズローの言う最上位概念の欲求であるが、それより下位の帰属承認欲求も重要である。コミュニティエンパワーメントという用語は、時として行政組織や上位組織が市民をエンパワーメントに導くという、上から目線のコンテキストで使われることもあるが、本来はコミュニティの自律に基づくコミュニティ自身のエンパワーメントであり、住民の自己実現と QOL の最大化、いわば幸福の最大化を目標とする。旧来は「最大多数の最大幸福」を目指していたが、J-town2010 では、コミュニティ構成員の「サステイナブルな幸福」、すなわち一時の幸福ではなく幸福の持続を目標にすれば良いので方向性が明確である。コミュニティエンパワーメントに結び付く重要な理念として「四世代近居」を挙げる。限界集落や老人ばかりの郊外ベッドタウン、単身者が多い産業都市型無縁社会ではコミュニティが崩壊するので、このようないびつな社会から回帰し、安定したコミュニティを形成する必要がある。四世代が近隣に暮らすことにより、世代構成やジェンダー構成を偏らせないサステイナブルな人口ピラミッドを持ったコミュニティを維持することができる。四世代近居に伴い、それぞれの立場と役割に応じて自己のアイデンティティが実感できる幸せが得られる。立場と役割とは、相互啓発、相互扶助、自主教育など、コミュニティサービスを通じて得られるものであり、原則として住民が全てのサービスを提供する。コミュニティのイベント等においても、価値を共有する人々によって構成されているので、交流を活性化することができる。その共有価値の基本は、知的創造性であり、希望や夢が実現でき、未来が明るいと実感できること、他人や社会に貢献するボランティアのポイント制などを通じて、サービスをクレジットしシェアする、人の役に立っていると実感できるシステム、例えば地域通貨や地域サービスバンクなどにより コミュニティ内でのアイデンティティが実感できることである。もちろん、この町は社会的なセーフティネットを持つ。ハンディキャップなどにより低所得に陥った人、自助できない状態の人々を救済するセーフティネットは町としての社会保険システムとボランティアバンクがカバーする。

 

C. この町で暮らし働く人々のプロフィール

この町で暮らし働く人々とは、どのような姿で描写されるのだろうか。それらは、現代大都市の病理の裏返しである。「ゆりかごから墓場まで」の理念を自力本願で実践するコミュニティであり、例えば「四世代近居」の理念を踏まえて以下のような人々の姿が想定される。

高齢者

・家族や友人と共に暮らす幸せ、子や孫やひ孫の近くで何らかの形で家族やコミュニティの役に立っている幸せを感じられる。

労働者

・知的産業に従事し、学術、技術、職人、アーティストなど、価値の創造につながっている人々がともに働く幸せ。

・企業や組織に従属する被雇用者ではなく、職住近接、職住一体で独立自営あるいは共同経営で知財産業に従事している人である。(転勤がある、業務内容の変更の決定権が無い等、大組織の社員など、自己決定権が低い人は難しい。ただし、欧米のように研究者が半独立し副業起業することが可能になればこの町にふさわしい)

・町の理念に賛同し、自律型でサステイナブルな生活をしている人々がコミュニティを形成し自主的に運営している幸せ。

・子女の一般教育、職業訓練、子女以外の後継者育成、経済的支援など、知財産業の継続のために継続的に居住し世代の継承を求めるのはもちろん、コミュニティのエンパワーメントについてコミットしている幸せ。

・最低限の生活費が賄える人であれば、貧富の差は問われない。逆に、大金持ちであっても付加価値が創造できない消費型の人や、コミュニティに関係しない利己主義的な人は歓迎されない。ハンディキャップがあっても、低収入でも、付加価値が創造できる人あるいは付加価値の創造に間接的に貢献できる人が集う。

未成年

・物心つく頃からコミュニティが知財産業を目標とした教育その他において心身の成長にあわせ育ててくれる幸せ。

・自分の親、家族、先祖、コミュニティの構成員などを人生の師、先達として尊敬できる幸せ。

福井県勝山市 「ゆめおーれ勝山」

福井県は多世代近居、同居を通じた子育てがしやすい環境である。ゆめおーれは明治 38 年(1905)から平成 10 年(1998)まで勝山の中堅機業場として操業していた建物を保存・活用したもの。観光ばかりでなく地域コミュニティの施設として機能している。中には産業ミュージアムコーナー、手織体験コーナー、パンとお菓子の工房などがあり、子育てママはもちろん、老若男女の利用がある。写真のママも赤ちゃんを抱っこしている。おなかには次の赤ちゃんが。 

  

 

7.パイロットプロジェクト

 

(1) パイロットプロジェクトの必要性

A. 商品としてのサステイナブルシティの実地検証と宣伝

 J-town2010 は最も価格性能比の高い都市システムとして輸出できるプラントモデルであり、プラントの生産、施工、運営において PDCA サイクルの継続的改良が行われる必要(グローバルな物理資源と知的資源を結集する必要)がある。

B. イノベーションの具体的行動「サステイナブルシティ」の理念に賛同し、積極的な行動を起こすイノベータ型の人の受け皿が必要である。自ら行動を起こさない「サイレントマジョリティ」の現実があり、「ゆでガエル」のアナロジーのとおり、多くの人や組織にとって行動変容は難しい。成功例による実証、行動変容へのインセンティブが必要である。

C. マーケット規模の検証と次へのステップアップ

このような町を指向する知財産業関連の人々は、人口比率でいえば全人口の 1~2%が対象となるであろう。日本では 40 万世帯、100 万から 200 万人、町の数にして 200 から 400 か所、全国に散在する学術研究拠点に匹敵する規模が対象となるが、世界規模でいえば BOP(Bottom Of the Pyramid)国を含め無限のポテンシャルがあり、このような人々がこれからの世界を変えることに希望を託すことができる。日本においては、10 年以内にパイロット事業として全国 10 か所程度が創造されることが目標となり、その後 20 年程度で 200 か所程度、数十年から百年単位で既存の大都市の創造/改造を目指すこととなろう。同時に、世界規模で新都市の開発と既存都市の改造に適用できるビッグビジネスモデルとなることを次へのステップアップの視野に入れる必要がある。

 

(2) パイロットプロジェクトの候補地

A. 国内でのパイロットプロジェクト

J-town2010 は、現在の都市を改変するのではなく、新規の理想モデルを示すことであるから、モデルの実現のためには単純なほうが好ましい。5000 人の町規模で、町の区域は 100Km2(10Km 四方)、中心市街地(DID)は1Km2、1500 世帯程度の新しい町を創造することの実現性が可能でなくてはならない。その観点から、以下の場所案が考えられる。

・地方の高等教育機関、研究機関の周辺

知財産業の視点から、地方の高等教育機関、研究機関の周辺は有力候補である。各都道府県毎に数か所の候補地があるが、このような人々は純粋に学術指向が多く、自主独立型の知財産業創出が課題である。

・過疎地、荒廃地、廃鉱山、廃工業団地

社会的にも経済的にもコミュニティ崩壊が迫っている地域。産業構造の変化に対応できなかったが、知財産業の人材が残っている町。

・環境と資源に優れている地域

日本の典型的農林型町村。 例えば山形県金山町は、イザベラバードが愛した林業の町で、人口 6500 人、1800 世帯、鉄道も無いが人々の心は豊かである。

・現状荒廃しており、潜在環境も务る地域例えば東京湾 13 号地の廃棄物埋立地などであるが、厳しいチャレンジが要求される。

・ニューフロンティア

例えば北海道は開拓地なので、新しい町を創造するというモデルはわかりやすい。洞爺湖サミットを行った北海道伊達市などは本土からの移住を促進しているので好適。

・太平洋岸、日本海岸の遊休地、過去の開拓地

那須野が原(国の試験農場)、安積疎水・牧ノ原周辺(明治の開拓地)、旧軍用地、リゾート地、地方の超大規模商業施設の候補地など、既存集落がなく、まとまった土地は候補である。地方の超大規模商業施設の候補地では、商業単体ではなく、サステイナブルシティの開発が検討されるべきである。

B. 海外の BOP 国あるいは発展途上国でのパイロットプロジェクト

発展途上国の GDP が上がり、先進国並みのライフスタイルを追及したら、地球は支えきれない。そうならないためにも、新しい価値観に基づいたライフスタイルを目指すサステイナブルシティは地球規模で普及させなければならない。パイロットプロジェクトは、地球上の最も過酷な条件の場で実証されることが重要だ。例えばサハラ砂漠のオアシスや中国西域などであろう。

C. 既存大都市での応用などの都市改造

パイロットプロジェクトに比べはるかに時間はかかるだろうが、数万人規模の都市モデル、百万人以上の大都市モデルとして、モデルユニットのクラスター複合応用も実証研究する必要があるし、既存都市の改造プランもこの理念に基づいて作成・実践される必要がある

 

<参考資料>
・『輝く都市』ル・コルビュジェ鹿島出版会
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BC%9D%E3%81%8F%E9%83%BD%E5%B8%82
・『旧約聖書』 岩波文庫
・ノアの箱舟
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・エデンの園
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%87%E3%83%B3%E3%81%AE%E5%9C%92
・カナン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%8A%E3%83%B3
・ソドムとゴモラ
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%A9
・まほろば 『古事記』『日本書紀』 岩波書店 日本古典文学大系
・『史記(全 8 巻)』 ちくま学芸文庫
・桃源郷 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A1%83%E6%BA%90%E9%83%B7
・『帰去来の辞』 陶淵明 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%99%B6%E6%B7%B5%E6%98%8E
・蓬莱 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%93%AC%E8%8E%B1_(%E4%B8%AD%E5%9B%BD)
・修道院 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BF%AE%E9%81%93%E9%99%A2
・浄土式庭園 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%84%E5%9C%9F%E5%BC%8F%E5%BA%AD%E5%9C%92
・禅 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%A6%85
・『禅林句集』 岩波文庫
・『アメリカ大都市の死と生』 ジェーン・ジェイコブス 鹿島出版会
・『都市のイメージ』 ケヴィン・リンチ 岩波書店
・全国総合開発計画 http://www.mlit.go.jp/kokudokeikaku/zs5/hikaku.html
・『第三の波』 アルビン・トフラー 中公文庫
・「衣食足りて礼節を知る」 『管子』牧民篇 春秋時代、斉の桓公の宰相、管仲の言葉。管仲は富国強兵策。 「凡そ地を有し民を牧する者は、務め四時に在り、守り倉廩に在り。国に財多ければ、則ち遠き者来たり、地、辟挙すれば、則ち民、留処す。倉廩实ちて則ち礼節を知り、衣食足りて則ち栄辱を知る。 」
・サステイナブルデベロップメント http://en.wikipedia.org/wiki/Sustainable_development
・上杉鷹山 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8A%E6%9D%89%E6%B2%BB%E6%86%B2
・今西錦司 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%8A%E8%A5%BF%E9%8C%A6%E5%8F%B8
・マリノウスキー
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・「クリスタラーの中心地理論」
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・国連居住計画(UN-HABITAT)の海面上昇への警鐘 http://www.unhabitat.org/categories.asp?catid=550
・縄文海進 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%84%E6%96%87%E6%B5%B7%E9%80%B2
・国連環境計画(UNEP) http://www.unep.org/
・『プラン B』 レスターブラウン ワールドウォッチジャパン
・『環境都市計画辞典』 朝倉書店
・『水環境ハンドブック』 朝倉書店
・「日本残酷物語」 宮本常一編 平凡社
・WHO QOL http://www.who.int/substance_abuse/research_tools/whoqolbref/en/
・WHO ICF http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/08/h0805-1.html
・ADL http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%97%A5%E5%B8%B8%E7%94%9F%E6%B4%BB%E5%8B%95%E4%BD%9C
・ICF 『生活機能とは何か』 大川弥生 東大出版会
・ノーマライゼーション
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・都市別のクオリティオブリビングインデックス
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