Monthly Web Magazine Nov. 2015

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■■■■■秋の展示を見ながら思う 田中康平 

秋は芸術の秋というわけか博物館や美術館の展示に力が入っていて、福岡の地でも九州国立博物館開館10周年記念企画”美の国日本”として正倉院の御物の幾つかや国宝、重要文化財が数々展示された。

目玉は正倉院の螺鈿紫檀五絃琵琶で、勿論初めて見た。

聖武天皇が愛したと言われる美しい琵琶で、細かい細工の螺鈿がちりばめられている。確かに宝物だ。

1300年前の製作とされるが古さを感じない、時間を超越しているようなところがある。

一方でこの時期 福岡市美術館では藤田美術館展として国宝の曜変天目茶碗が展示された、これも初めて見るものだがキラキラと美しい茶碗でどうやって作ったのだろうと思わせる。

12-3世紀のものだが現代的ですらある。

いずれも中国の作品だ。国産のものも美しいものは沢山あれど古来より大事に伝えられてきた極め付きの宝というと中国産のものとなるようだ、時代がさかのぼるほど中国文化の突出ぶりは驚くべきものがある。

それでは日本産の古来からの工芸の頂点は何なのかと思ってしまうが、それは刀ではないかとの気がしている。

日本の国宝の工芸というと刀が多い。

東京国立博物館に行っても国宝や重要文化財は刀に多い。確かに現物の刀を見ると美しい。

九州国立博物館にもこの時期所蔵の国宝の刀、銘来国光が常設展で展示されているが、巧みであって微妙な光の輝きが美しさは格別だ。

少し調べると日本では古来よりたたら吹きという製法で砂鉄と木炭から鋼を作りこれに鍛造を繰り返して日本刀を作り出しているという。

一回ごとに土でできた炉を壊して製造されたケラと呼ばれる鋼状の鉄を取り出す製造法で、とても大量生産には堪えない。

ふいごで風を送りながら三日三晩連続して砂鉄と炭を微妙に調整しながら入れ続けなければならず、その製法は製造を仕切る村下(むらげ)だけに口伝で伝えられてきたとされるが体力的にも精神的にもかなりの集中と持続を要する工程のようだ。

たたらという言葉は外来語起源といわれ、製鉄技術とともに伝わってきたのではないかとみられている。

外からの伝来をもとに巧妙な技術に仕上げていくという日本の技術の姿の原型そのものがここにあるようにも感じさせる。

幕末の萩に作られた反射炉跡を先日見学したが試験的に操業されただけで、幕末期に長州藩で大砲や鋼鉄船に必要とされた鋼はたたらの製法で供給されたとされている。

大量生産でなければ近代兵器を作りうる製鉄法が国内に既にあったということのようだ。

たたら吹きには大量の木炭を使用するためこれを供給できる十分な森林が必要となるという。

持続的に製鉄を行うには自然との調和を迫られるという、今思えば平和な製鉄法であったと気が付かせてくれるだけでも刀の美しさには価値があるのかもしれない。

毎年秋が巡りくる。長い時代を経てきたものを見せてくれ我々はどこから来たのか考えさせてくれるようで、秋は好ましい。

写真は順に、1.九州国立博物館 2.螺鈿紫檀五絃琵琶(九州国立博物館HPより) 3.曜変天目茶碗(藤田美術館HPより) 4.、銘来国光(九州国立博物館HPより) 5.萩反射炉跡

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