持続可能都市(サステイナブルシティ)に関する研究

「水と食糧のサステイナビリティ」

瀧山幸伸

Ver.Nov.18,2014

初稿 Feb. 2011

1. 本稿の目的 

水と食料を自給自足できる「セルフコンテインドの家」が集積した、高いサステイナビリティ性能を持つ都市を研究することを目的とする。

水と食料の不足は生命に直結する。サステイナブルシティ「J-town2010」の理念の重要な核の一つが「セルフコンテインド(自給自足)」である。本稿では、「都市を構成する基本単位の世帯ごとに水と食料を自給自足できる家を実現させる」という極めて難しい課題に挑戦する。セルフコンテインドの家はスタンドアロン(一軒家)でも存立するが、そのような家が集積した都市は非常に高いサステイナビリティを維持することができ、半永久的に存続可能である。

世界の水と食料の問題は気候風土や水資源により深刻度が異なる。水が豊富に得られる先進国では主に汚水処理が課題であるが、砂漠化の脅威が迫る半乾燥地域では、灌漑農業に起因する砂漠化を阻止しつつ水と食糧を持続的に確保することが大きな課題である。特に中国やインドなど経済が急成長している地域では、上水、下水、灌漑用水全ての水循環システムで課題が山積みとなっている。

「セルフコンテインドの家」は、もちろん全世界共通に応用可能であるが、降雨が多く耕作可能地も多い日本などではそれほど深刻な問題ではないので、本稿では課題に直面しており経済的技術的にも難易度が高い半乾燥地域を主なターゲットとして検討する。具体的には、「半乾燥地域」において、「雨水のみで食料生産でき、五人家族がサステイナブルに暮らす」ために必要な「住宅」と「圃場」と「水システム」のパッケージを設計することを本論の目的とする。

2. 本稿の結論 「J-town2010型サステイナブルハウス」 

「セルフコンテインドの家」を実現する手段の「J-town2010型サステイナブルハウス」(敷地260坪)を提案する。そのカギは、以下の三つの技術領域の融合である。

・雨水利用技術(集水と貯水の最適化)

・汚水処理水での水耕栽培・養魚技術(有機養分と有機肥料分を利用する)

・生産性向上技術(最小の水で最大の収量を)

「J-town2010型サステイナブルハウス」 模式図

(平面図)

 

(断面図)

 

イメージ:富良野市 風のガーデン

 

3.システムの説明

当システムには、実証がなされている技術(Proven technology)と、理論のみで実証がなされていない技術(Unproven technology)が含まれる。実証の難易度によって、二つのサブシステムに分ける。

 

■■ システムA (最有効利用システム)

実証の難易度が高い理想的なシステム。下水の栄養分(養魚向け)と有機肥料分(水耕向け)を最大化するため、浄化槽内の活性汚泥を利用しない。消毒・臭気対策などが課題である。

■■ システムB (実現性優先システム)

既存技術により実証済みまたは実現性が高いシステムで、浄化槽の処理水を利用する。

 

集水ユニット概念図

 

上水ユニット概念図

 

戸別浄化槽ユニット概念図

 

養魚ユニット概念図

 

水耕栽培ユニット概念図

 

電力系統概念図

 

(1) スタンドアロン方式の「J-town2010型サステイナブルハウス」

「J-town2010型サステイナブルハウス」は、敷地内の雨水を利用し、汚水処理水で水耕栽培を行い、敷地外への排水を極小化するシステムなので、スタンドアロンで運用可能である。

「J-town2010型サステイナブルハウス」は、以下のユニットで構成される。

・「J-town2010型住宅ユニット(平屋) 」

・「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」

・「J-town2010型水ユニット」(雨水の集水と貯蔵、浄水器、温水器、浄化槽、消毒装置、処理水貯蔵の各サブユニット)

・「J-town2010型太陽光発電ユニット」

(2) 一家五人が生きていくために必要な食料(カロリー)の計算

圃場面積を最も少なくし、かつ水を最も有効に利用するために、トマトを水耕栽培してトマトに含まれるカロリーだけで一家五人が2000Kcal/人/日で生存すると仮定しよう。トマトのカロリー(20Kcal/100g)は澱粉食物のジャガイモ(76Kcal/100g)や玄米(350Kcal/100g)などに比べて少ないが、水耕栽培の技術が確立されており、その他の栄養分も豊富である。もちろん現実にはトマトだけの食生活はあり得ないが、計算の便宜上このように仮定する。その場合、一家五人が生きていくために必要なトマトは約18t/年である。

(3) 一家五人が暮らすために必要な「J-town2010型サステイナブルハウス」の圃場用地と敷地面積の計算

従来の水耕栽培技術でのトマトの収量は20t/10アール/年であるが、兵庫県立農林水産技術総合センターが開発した方式を採用すれば30t/10アール/年である。(資料)

この方式で18t/年のトマトを栽培するのに必要な「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」の用地は約600m2(180坪)となる。「J-town2010型住宅ユニット 」と「J-town2010型太陽光発電ユニット」その他の敷地を約200m2(60坪)とすると、合計約800m2(240坪)の敷地が必要である。日本にはデザインおよび質的に良い例が少ないので、住宅の参考イメージとして米国のユニット住宅のサイトを示す。(資料)

(4) 節水式の「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」

トマトの水耕栽培に必要な水量とコストを最小化するために、「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」を採用する。太い径のパイプに穴を開け、植物根をパイプ内で育成する方式であり、従来の水耕栽培技術に比べ水の蒸散が少ない。

「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」模式図

 

(5) トマトの水耕栽培に必要な水量の計算

水耕栽培の水は、五人家族が生活で利用した浄化槽処理水を利用する。従来のトマト栽培技術では、トマト1Kgを生産するのに必要な水の量は約60リットルである。(水の豊富な日本では適当な論文がなく、外国の論文を採用した。(資料)) この論文に従えば、18t/年のトマトを生産するのに必要な水の量は約1000m3/年となるが、「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」では光合成以外の無駄な蒸散が少ないため水使用量を半減できると仮定すると、約500m3/年の水が必要となる。

では、半乾燥地域で得られる雨量はどれほどだろうか。半乾燥地域の定義と課題は鳥取大学乾燥地研究センターの資料が詳しい。(資料) 半乾燥地域の降水量は、500mm/年(冬雨季地域)から800mm/年(夏雨季地域)である。800m2の土地で得られる雨量は400m3〜640m3/年となる。先進国でふんだんに上水を使う場合、一人当たり250リットル/日程度であるので、五人家族では450m3/年の上水が必要であるが、全ての上水は雨水で賄え、「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」が必要とする500m3は汚水処理水でほぼ賄えることとなる。すなわち、 「J-town2010型サステイナブルハウス」は、雨水を濾過した上水を先進国並みにふんだんに使いながら、汚水処理水を水耕栽培に再利用することにより外部に排出しない、水資源を最大に循環活用するシステムである。

(6) 「J-town2010型サステイナブルハウス」のメリット

・上下水道が不要

敷地内の雨水を最大限に利用した世帯単位の水収支システムであり、上水道も下水道も不要である。汚水処理は戸別浄化槽で行う。

・灌漑設備が不要

水耕栽培であり、灌漑農法に起因する水資源の浪費や土壌荒廃から脱却するので砂漠化が防止できる。

・汚水処理コストの削減、肥料コストの削減、富栄養化の防止

汚水処理水中の有機物と窒素リンなどの肥料分をそのまま水耕栽培に利用するので、それらを除去するために必要な高度汚水処理コストおよび肥料コストが削減される。また、肥料分を含んだ処理水を外部に放流しないので富栄養化による環境悪化が防止される。日本古来の下肥を利用したリサイクル型有機農業の未来版である。

・簡易かつ低コストの施工と運用

全てのユニットの資材は入手が容易でコストが安く、施工は素人でも簡単であり、導入も維持も容易である。水もエネルギーも肥料も自前なので農業生産コストも安い。先進国では、上下水道とエネルギーのランニングコストが不要となり、農産物の生産や環境などライフスタイルの効用とライフサイクルコストを勘案すると、今すぐにでも導入可能である。

・グローバル気候対応性

「J-town2010型サステイナブルハウス」は、半乾燥地域以外でもグローバルに利用可能である。例えば、既に砂漠化した地域では、敷地内部の雨水だけでは足りず周辺部からの水補給が必要になるが、現行のオアシスや地下水路を利用したシステムよりも水資源の利用効率が格段に高まる。多雨地域では雨水貯蔵設備が大幅に軽減される。寒冷地、積雪地域では圃場の保温設備や融雪設備(温室等)が加えられる。

・光合成による「CO2吸着装置」

生活および水耕栽培に必要なエネルギーは全て再生可能エネルギー(太陽光発電と太陽熱利用を標準とする)で賄うので、エネルギーにおいてはCO2ゼロである。さらに画期的なことに、水耕栽培は光合成の装置であり、環境からCO2を吸着する機能を持つ。「J-town2010型サステイナブルハウス」が1年間に吸着するCO2の量は、トマトの果実18tと根茎葉を合算すると膨大な量である。巷で実証実験がおこなわれている「CO2削減住宅」や「CO2ゼロ住宅」よりも進んだ「CO2吸着住宅」のシステムである。CO2の再放出を避ける方策は別途必要ではあるが、CO2を全量再放出したとしても、無駄なCO2を発生させるフードマイレージなど各種マイレージは極小である。

(7) 「J-town2010型サステイナブルハウス」の課題

・BOP国向けにコストの究極的削減と大量生産化

先進国では今すぐ導入しても経済合理性があるが、問題が深刻な開発途上国、特に半乾燥地域向けを強く意識し、コストを最小化することが課題である。現状は各ユニットシステムが単独の業界で生産流通されているが、グローバルな需要に対し日本型の統合生産管理技術を活かして大量生産大量販売することにより圧倒的なコスト削減が可能であろう。

・水耕栽培技術、水処理技術の改良と普及

有機肥料成分を利用した水耕栽培の技術は今後さらに開発が期待される領域であり、日本の技術力が世界に大きく貢献できるであろう。

(8) 旧型都市から未来都市への住み替え 〜「J-town2010」を構成するユニットとしての価値

「J-town2010型サステイナブルハウス」はグローバルなビジネス投資対象、社会投資対象となることを究極の目標とする。すなわち、国連やODAなどの援助や給付ではなく、家族単位においても、国家、地球規模においても、社会経済的に優れた性能を持つシステムとして投資の対象となるべきである。単に「J-town2010型サステイナブルハウス」を難民や被災地を救済するための仮設住宅兼仮設圃場として扱うのではなく、例えば、産業革命以降今日までに誕生した産業都市(工場と労働者住宅)を代替するような、「産業としての食料生産施設と労働力のプラントシステム」「新しい都市を開発するインフラユニット」として扱う必要があるということである。経済性の向上は、圃場面積を増やしたり、栽培品種を付加価値の高い作物(バイオ医薬系作物等)に転換するなどの実用化を通じて達成されるであろう。

5000人1500世帯の「J-town2010」を構成するユニットが全てこの「J-town2010型サステイナブルハウス」であると仮定した場合、中心街区の住区面積は120ha、その他の土地利用を合わせた中心街区の総面積は約150haから200haとなり、1.4km四方あるいは半径800mの同心円で十分である。

本論では「J-town2010」の理念に基づいた「水と食料のセルフコンテインド化」を重点的に検討したが、その他の理念にも叶っている。「セルフコンテインド」の理念においては、エネルギー、環境ともに満たしている。「安全安心」の理念にも忠実である。例えば「J-town2010型サステイナブルハウス」は平屋建てなので、火事や震災にも安心であるし、ユニバーサルデザインに基づいた多世代同居・近居も容易であるし、環境親和型でもある。「知財産業と教育」の理念においても、圃場が内包されているので、食育や自然科学教育に資することは当然として、産業と文化の基本としての農業生産を家族単位で営むことが可能となる。 「自律コミュニティ」の理念においても、自然の恵みに由来する農業生産と収穫物への感謝を分かち合う原始共同体に近いコミュニティである。このような「J-town2010型サステイナブルハウス」が集積した「J-town2010」は、原始共同体の良い部分を進化させた未来のコミュニティの姿であると言えるのではなかろうか。

旧型の産業都市のインフラを更新するよりも未来都市「J-town2010」を創造するほうが合理的であることが実証されれば、相当の年月が必要だが人々の住み替えが起きるであろう。

(9) 実証の手順と「J-town2010」開発への道 〜まずは別荘がわりに

まず、「J-town2010型サステイナブルハウス」をスタンドアロンのシステムとして最低1年間実証するために、1ユニット単位で空地に設置する必要があろう。乾燥地以外に高温地や寒冷地での実証も必要である。

「J-town2010型サステイナブルハウス」を採用する「J-town2010」の展開は経済合理性があるので、先進国においては公共で推進する必要はない。低所得国では国連のミレニアム開発戦略(資料)の中核として進められれば理想的である。初期の実証段階では、1ユニットのコストは非常に安いので、公共の予算でなくても実証は可能である。「J-town2010型サステイナブルハウス」はビジネス投資、社会投資の対象となりうるユニット化を目指しているので、企業や公共が取り組むのは当然として、個人でも参画が容易である。例えば 「J-town2010」の理念に賛同する仲間50人が資金を出し合い、まずは別荘として一週間単位で分割利用しても良いのではなかろうか。滞在費用はゼロで、水耕作物のおまけが付いてくる。農業と交流と知的活動を通じたリゾートライフは、ただ単にリゾート地で消費型受動型の一週間を過ごしたり老人向けの施設で過ごすよりも、農業を通じた教育や創造の場として、あるいは疾病や介護の予防手段として、はるかに有意義ではないかと思われる。

「J-town2010型サステイナブルハウス」1ユニットの資材コストは500万円もあれば十分であり、工事は自分たちがDIYで行えば良い。建築と土木と農学とを楽しみながら学ぶことができ、一週間の利用機会を得るための初期コストは10万円プラス労働奉仕ということになる。目的に適した土地は分譲住宅地ではなく、篤農家が所有する余剰地が最も好ましい。篤農家から農業技術指導を受けたり、農村の人々と交流するなど、各種資源にアクセスできるからである。土地所有者にこの施設一式を寄贈すれば、土地代も不要であるし、本質的にその農家の農業生産施設であるので、建築用途規制などの不合理な制約も避けられる。利用者が必要なのは利用権であり、土地や建物の所有権を確保する必要はない。そのような土地240坪は、大都市圏周辺の風光明媚な地、美しい農園地帯に余るほどあるのである。施設が完成してからは、その施設での水耕栽培と収穫と知的文化的活動とコミュニティ交流が楽しみとなるであろう。

都会人の農村生活を主題としたテレビ番組が福島の耕作放棄地で展開されたり、都会育ちの文筆家玉村豊男が長野の東御でワイナリー付きの農園生活をしたりと、それぞれ好評であるが、そういうことは自分たちでもやろうと思えば簡単にできるのである。さらに、「J-town2010型サステイナブルハウス」は快適な住居機能が完備しているので、田舎特有のドローバック、すなわちトイレや冷暖房の我慢やジャングル村のようなカルチャーショックとは無縁である。

最初はお試しのリゾート的生活から始め、このような生活を志向する人たちが移住定住する5000人1500世帯の「J-town2010」が創造されることが理想的であろう。イソップの「都会のねずみと田舎のねずみ」の未来版であるともいえるが、無農薬で採りたての食品を中心とした食生活、自然と四季を感じながらその恵みとともに仲間と暮らすことの価値、自分たちにとって真の「豊かさ」とは何かを考える必要がありそうだ。そのようなライフスタイルを未来の子孫のために切り拓くのは自分自身であり、まずは隗より始めることが重要である。

3. 本稿の背景 〜水問題と食料問題

(1) 貴重な水資源

世界の人口は60億人、過去100年で4倍になった。2025年には80億人になると予測されている。一方、世界の水使用量は過去100年で10倍になった。今後世界各地で深刻な水不足が予測される。

図 世界の水不足 (出展 『水循環システムのしくみ』)

 

(2) 農業と農業用水の課題 〜潅漑農業が浪費する水資源

灌漑農業から水耕栽培へ

鳥取大学乾燥地研究センターによると、資料世界の土地のうち、砂漠化への脅威にさらされている土地は約1/4、人口にすると10億人以上であり、地球規模のサステイナビリティを確保するにはこれらの土地を救うことが重要である。砂漠化の原因の約1割は気候変動など自然的な要因であるが、ほとんどは人為的な要因、すなわち過剰な伐採、過剰な開墾と耕作放牧、不適切な土壌管理、潅漑が原因となり砂漠化が進行している。灌漑の問題は、まずは水の浪費である。世界の水利用の約7〜8割は潅漑用である。潅漑には水の浪費以外にも多くの弊害がある。例えば土中の塩化物が濃縮され農業に適さなくなり砂漠化する。あるいは水を牧畜飲用目的に利用したため周囲の草木が食べつくされて砂漠化するなどである。

農業と食糧関連産業の構造改善および農業用水の有効利用は喫緊の課題であり、違う見方をすればそれらの解決策はビジネスとして大いに発展するということでもある。

図 世界各国の淡水取水量と一人当たりの目的別取水量 (出展 『水循環システムのしくみ』)

 

ウォーターフットプリントの最小化

ウォーターフットプリントとは、人々が消費する財・サービスの生産に使用された水の全体量のことであり、UNESCOが推進している概念である。(資料) 食料生産においてはバーチャルウォーターとほぼ同義であり、地産地消によりバーチャルウォーターを最小化することが求められている。日本は水資源が豊富であるにもかかわらず食料自給率が低いため、バーチャルウォーターを浪費していると言える。

図 日本のバーチャルウォーター輸入量 (出展 『水循環システムのしくみ』)

 

自分が食べる食物のバーチャルウォーターは、ウェブの「バーチャルウォーター計算機」で計算できる(資料)

バーチャルウォーターの考え方に従えば、牛肉は相当な水の浪費であり、トマトは節水作物である。

図 食料生産に使われているバーチャルウォーター (出展 『水循環システムのしくみ』)

 

灌漑水を節約する方法として、イスラエルでは点滴潅漑農法(資料)が発達している。ノズルで地下の根元に直接潅水する点滴潅漑法と滴下施肥法により、1964年に比べ9倍の食糧生産を達成したが、水使用量は3%しか増大していない。乾燥地域での農業を支援する日本発の技術も鳥取大学をはじめ非常に進んでおり、大いに期待が持てる。今日主流の薄膜(NFT)水耕栽培(資料)は効率的に水を利用することが可能であるが、水の蒸散が課題である。その課題を克服し、究極の節水を図りつつ処理水の有機肥料分を再利用する方式が、本稿で提案する「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」である。もちろん今後の実証を経なければ実用にはならないが、設計案としては検討に値する。

水耕栽培の例 (千葉県香取市和郷園)

   

(3)水耕栽培は次世代産業革命 〜経済社会が変わる

水耕栽培が可能な植物は多いが、サステイナブルという目的に限定すると、まずは生存のためのカロリーを得る「主食」を優先することとなる。主食に適した水耕栽培植物とは、デンプンや糖を生産する植物であり、穀類やイモ類があげられるが、穀類は水耕栽培に適さず、イモ類も実証段階である。(資料) そこで、主食ではないが、身近なトマトを題材に検討を試みる。トマトを取り上げるにはそれなりの理由がある。その理由は、

・ 水耕栽培技術が確立しており、栽培が容易で経済性がある。

・ グローバルな気候に適応できる

・ 栄養豊富である(糖も生成するが、ビタミン、リコピン、ルチンなど疾病予防効果のある物質も生成する)

・ 世界中で食されており、味が良い(グルタミン酸を多く含む)

・ 料理の幅が広い(生食、加熱どちらでも利用可能である)

・ 保存性が良い(乾燥、ピューレ、ジュース等で保存可能である)

現実問題としては、毎日トマトを主食とするということではなく、トマトから抽出される糖分は澱粉やエタノールに変換して利用することができるので加工原料としても汎用性があるという理解である。もちろんトマト以外でも良く、糖の生成目的にはイチゴやメロンも水耕栽培に適する。また、タンパクを目的とすれば豆類の水耕栽培も可能である。副食として栽培するには、乾燥地の塩分を含む土地(海水と同程度の塩分を含む水)でも育つアイスプラントなども有望である。(資料)

「J-town2010」の実生活においては、水耕栽培の食物のみに依存するのではなく、食文化を追及し健康で文化的な知的生産活動につなげる地産地消の理念に基づき、生態系を壊さないで多種多様な食物を得る手段を持つことが可能である。すなわち、市街地の周辺では環境親和型の牧畜や養魚、野生動植物(ジビエや山菜など)の捕獲採取を行う。さらに外周部で自然度が高い地域は保護区域として生態系を保全することが可能である。これは、かつて日本の農耕社会に存在した、耕作地と里山と深山の循環型生態系に近い概念である。狩猟採集社会から栽培農業への革命、産業(工業)革命を経て、水耕栽培は世界の経済のみならず社会を変える次世代の産業革命である。

コメ作りとの比較

「J-town2010型サステイナブルハウス」の、一家五人が必要とするカロリーから計算したトマト水耕栽培の圃場面積を600m2と計算したが、米作ではどの程度の水田面積が必要なのであろうか。玄米100gあたり350Kcal、収量は10aあたり500Kgとして、2000m2の水田が必要である。トマトのカロリーは20Kcal/100と少ないが、水耕栽培の技術により、少ない面積と水で効率の良い食料生産が可能である。

「J-town2010型サステイナブルハウス」の全体敷地面積を800m2、約240坪としたが、この面積はどの程度のものであろうか。北海道開拓で有名な史跡、札幌琴似屯田兵村の一区画の敷地は、 建物17.5坪と菜園を含んで150坪程度である。(資料)

 

田園都市との比較

一方、欧米先進国の郊外型住宅敷地の一つの基準は、1/4エーカー(300坪)である。日本では、尼崎の武庫之荘(〜200坪)、芦屋の六麓荘(300坪〜)、大田区の田園調布(200坪〜)など、ハワードの田園都市構想に影響を受けた住宅地は海外の郊外型住宅地の面積を目指した。戦後では逗子の披露山(300坪)、千葉のワンハンドレッドヒルズなども敷地面積は広い。ただし、ハワードの田園都市においても日本の高級住宅地においても敷地内での水とエネルギーと食料の自給自足は一度も実現されていない。「J-town2010型サステイナブルハウス」は、国際基準のゆったりとした敷地で、食料も生産しながらエネルギーも水も自給しながら知的創造的な生活をする理想的な住まい方の一つであり、ハワードが説いた「都市と農村の融合」が実現されるのである。

武庫之荘(撮影 1961 野崎順次)

 

(4) 節水の勘違い 〜使用水量ではなく排水量が問題

日本のような先進国では、一人一日あたり200から300リットルの汚水(BOD40g)を排出する。その中には、窒素10g、リン1gの肥料分を含んでいる。5人世帯では、年間に最大500m3の水と大量の有機物と100Kgの窒素と28Kgのリンを排出するのだが、これらは下水処理施設のバクテリアに消費されたり排水として環境に放出されたりと、ほとんど有効利用されてこなかった。

図 家庭用水の一人一日当たり使用水量と内訳(東京) (出展 『水循環システムのしくみ』)

 

中国やインドなどの乾燥地域でも、水洗トイレを利用する場合、最低限節水しても一人一日あたり100リットル以上の水を使用することとなる。だが、一人当たりの水使用量の過多が問題ではなく、水の有効利用すなわち敷地外への排水量を減らすことが重要である。従来は処理水を水洗トイレ用などの雑用水として利用していたが、それほど水需要を削減することにつながらない。ところが処理水を水耕栽培に利用すれば、上水と灌漑水を合わせた水需要は激減するのである。

(5) 「J-town2010型サステイナブルハウス」の下水システム 〜個別浄化槽システム

下水集中処理システム(下水道)の課題

・リニューアルコスト

下水管内は硫化水素などの腐食性のガスが発生しやすく、数十年が経過した下水管が損傷して空洞となり路面陥没する事故が相次いでいる。汚水が滞留するなどした場合には下水管が1年も持たない場合もある。下水管の交換には新設時の数倍の費用がかかる。日本では地震に対する脆弱性も問題視されている。

・悪質下水

下水処理場の能力を超える量や種類の有害有毒物質、管渠を閉塞させる物質を流す行為が問題となる。下水管は地下のため監視しにくく、水銀などの有害金属類が混入すると汚泥を堆肥などに有効利用することができなくなる。

・汚泥

下水汚泥は多量の肥料成分を含んでおり、堆肥コンポスト化などの有効利用が最も安価で簡単な方法であるが、日本では肥料取締法における有害金属含有量基準が厳しい。公共下水道から除去した汚泥の海洋投入処分は全面禁止されており、現在では下水汚泥は全量陸上処理されている。焼却や溶融スラグ化が行われているが、多くの施設建設費と維持費が必要であり一部の大都市でしか進んでいない。

・富栄養化に対する高度処理コスト

下水を河川に放流する場合、環境悪化を回避するため、有機物を低減させ、窒素リンを除去して放流水の富栄養化を防ぐ必要があるが、コスト高である。

・処理水の再利用

下水処理水を再利用しようにも、需要家まで戻すための配管コストやエネルギーコストの点で非現実的である。処理施設付近で処理水を利用する施設、例えば水耕栽培施設を設置するにも、用地の制限や悪質下水の問題があり現実的ではない。

有機肥料水耕栽培

通常の水耕栽培には化学肥料を使う。「J-town2010型大口径パイプ式水耕栽培圃場ユニット」は処理水の有機肥料成分を利用する。有機肥料を水耕栽培に使うと根ぐされなどが問題となっていたが、有機肥料を使う水耕栽培の実用化は野菜茶業研究所をはじめ日本で盛んに研究されており、この課題は克服可能である。(資料)

(6) 「J-town2010型サステイナブルハウス」の上水システム 〜全て雨水を利用するシステム

国連推計などによると、現在10億人以上が安全な飲料水を確保できない状態にあり、毎年200万から400万人が下痢、コレラなど水に由来する病気で死亡している。「J-town2010型サステイナブルハウス」では、敷地内の雨水を貯水し、雨水濾過装置を通して上水として利用する。

ただし、半乾燥地域では年数回の集中豪雨となるため、一回の雨水貯水量として100m3以上を確保しなければならない。国内での雨水貯水槽施工事例やNEDOが実証実験中の豪州ブリスベンでの雨水利用例(資料)などが先進事例であるが、集水効率、漏水と蒸散の防止策、施工コスト、水質が課題である。

「J-town2010型サステイナブルハウス」の雨水利用方式であるが、まず敷地内の雨水を効率よく集水するための防水シートを地表に設置する。雨水を貯蔵する施設として、貯水槽あるいは雨水用のVUパイプを横置きした貯水設備を設置する。100m3の貯水槽を地下に設置するには、深さ1m、幅4m,長さ25mのコンクリート防水槽の上に蒸散防止の波板鉄板等の蓋を設置すれば良く、この方式は低価格である。地盤が岩盤であれば地上に貯水槽を設置する。横置きパイプのメリットとしては、漏水防止工事の必要がないこと、施工が簡単であること、貯水量の増設が簡単であることが挙げられる。例えば300φのVUパイプを利用して水を貯蔵すると、パイプ1mあたり70リットル貯蔵できる。100m3の雨水を貯蔵するには、30mの長さのパイプを48本(幅の合計14.4m)横並びに敷き詰めればよい。

地下設置型雨水利用施設例(トーテツ http://www.totetu.com/)

左:都内の保育園 (10m3) 右:宮城県のショッピングセンター(1000m3)

  

宮古島の農業用地下ダム 

 

豪州ブリスベンでの雨水利用例(NEDO)

 

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参考資料

トマトの水耕栽培収量を20t/10アール/年から30tに増やす技術

兵庫県立農林水産技術総合センター 

http://hyogo-nourinsuisangc.jp/13-topics/13d-press/21/dec_2.html

J-town2010型ハウスユニットのイメージ例

グローバル仕様で、40フィートコンテナと同等サイズの運搬容易なハウスユニット約8坪(12m(L)x2.4m(W)x2.8m(H))を組み合わせたもの。工場で製作されたユニットをトラックで運搬しユニットを連結する施工方法、あるいはユニットの部材のみを調達し各自DIY方式で組み立てる施工方法の両方ありうる。

http://en.wikipedia.org/wiki/Prefabricated_home

http://www.prefabs.com/modern_prefab_homes.htm

トマト水耕栽培に必要な水の量

「RESEARCH REGARDING THE WATER CONSUMPTION OF TOMATOES, GREEN PEPPER AND CUCUMBERS CULTIVATED IN SOLARIUMS」 

DIRJA.M et al. 2003

http://www.agr.hr/jcea/issues/jcea4-3/pdf/jcea43-10.pdf

オクラの点滴潅漑の水利用効率は1Kgあたり280リットル(井上 日本砂丘学会誌41,2001)

半乾燥地域とは?

http://www.geocities.jp/soil_water_mitchy11/Dry_Land.htm

乾燥地の経済的・持続的農業技術の発展 鳥取大学乾燥地研究センター

http://www.geocities.jp/soil_water_mitchy11/favorite.htm

国連のミレニアム開発戦略

http://www.undp.or.jp/aboutundp/mdg/mdgs.shtml

『水循環システムのしくみ』 伊藤雅喜 ナツメ社 2010 

点滴潅漑

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%82%B9%E6%BB%B4%E7%81%8C%E6%BC%91

薄膜(NFT)水耕栽培 wiki

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%96%84%E8%86%9C%E6%B0%B4%E8%80%95

水耕栽培でNFT耕(薄膜水耕法)、ロックウール耕を採用した例 

http://www.w-works.jp/youeki/series/04.html

ウォーターフットプリント

http://www.waterfootprint.org/

バーチャルウォーター計算機

http://www.env.go.jp/water/virtual_water/kyouzai.html

ジャガイモの水耕栽培

http://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/nicestation/noushoukou/16.html

サツマイモの水耕栽培

http://www.npo-rdi.com/siosai77/SweetPotatoGreenary.htm

アイスプラントの水耕栽培 東海大学海洋学部非常勤講師 橋本壽夫 塩話解題 たばこ塩産業 塩事業版 2010

http://www.geocities.jp/t_hashimotoodawara/salt6/salt6-10-11.html

琴似屯田兵村

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%90%B4%E4%BC%BC%E5%B1%AF%E7%94%B0%E5%85%B5%E6%9D%91%E5%85%B5%E5%B1%8B%E8%B7%A1

有機養液栽培

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%89%E6%A9%9F%E9%A4%8A%E6%B6%B2%E6%A0%BD%E5%9F%B9

野菜茶業研究所 

http://www.vegetea.affrc.go.jp/index.html

豚尿処理水を用いた養液栽培技術 農業・食品産業技術総合研究機構

http://www.naro.affrc.go.jp/top/seika/2001/kyusyu/prefecture/2001141.html

オゾン曝気を用いた水耕栽培手法の検討 松澤良多 前橋工科大学

http://oo.spokon.net/outline/2005/k06ryota.pdf

空芯菜・クレソンを用いた 二次生産(植物)型水質浄化 千頭麻子 高知工科大学

http://www.kochi-tech.ac.jp/library/ron/2005/2005fro/1060424.pdf

豪州ブリスベンでの雨水利用例(NEDO) 

http://app3.infoc.nedo.go.jp/informations/koubo/press/EV/nedopress.2010-08-24.5595147843/

IBMの「水に関するグローバルイノベーションレポート」(IBMがナショナルジオグラフィックと提携して作成したもの) 

水システムは都市のサステイナビリティの根幹であり、システムで解決しなければならないとのレポートの趣旨は理解できる。課題を提示しているが、完全なソリューションの提示には至っていない。

http://www-06.ibm.com/ibm/jp/company/gio/

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