愛知県常滑市 常滑
Tokoname,Tokoname city,Aichi
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Feb.2010 撮影:柚原君子
Feb.2010 撮影:瀧山幸伸
■■■招き猫のふるさと
常滑の招き猫の製造シェアは八割だという。今や招き猫は国際的なキャラクターとなり、海外でも大人気だ。
産業遺産の街並は往々にして重く、暗く、悲しいが、常滑は招き猫のみならず多種多様な遺産を巧みに活かしてまちづくり・まちおこしに奮闘している。その秘訣は何だろうか。
■常滑焼
常滑焼は日本六古窯の一つといわれ、歴史は平安末期に遡る。当時既に三千ほどの穴窯があり、かめや壺を日本各地に出荷していたという。埋葬用の壺あるいは経典や財宝を埋める経筒として使われていた。
常滑で窯業が発展した理由は、地理的な条件が適っていたからだ。原料となる赤土の粘土は周囲に豊富にあり、知多半島には窯に適した緩い斜面が海沿いに続き、伊勢湾に面しているため重量のある製品を船で積出すのに便利だった。
常滑では高級な茶器などは生産されなかったが、多種類の製品を扱ってきた。それらは日用品、産業用品、嗜好品に分けられる。
日曜品では、水や食料を保存するかめのほか、壺や鉢も古くから製造されており、今日でも植木鉢の生産は盛んだ。常滑焼を代表する赤茶色の朱泥急須を知らない人はいないだろうが、これは江戸末期からで、当時煎茶の風習が広まるのに伴って大製造拠点となり、現在まで続いている。
産業用品では、土木工事用の土管や漁業用のタコ壺、建材用のタイルなどがある。土管の歴史も古くない。明治に入り、「日本の灯台の父」と呼ばれたブラントンは、築港や灯台のほか、鉄道、電信、居留地などの都市開発の設計も手掛けており、常滑の大型陶器製造技術に着目し、寸法を規格化した土管を製造させた。これが日本の上下水道、鉄道、道路などの発展に大いに寄与することとなった。それまでは木や石で築造していた管路工事が画期的に改善されることとなった。建築用のタイルも主要製品で、伊奈製陶(INAX 現LIXIL)の本拠地だ。
嗜好品では、招き猫とノベルティに特徴がある。招き猫は江戸後期からと思われるが、その起源はどれも信憑性が低くはっきりしない。当初は養蚕農家で蚕を食い荒らすネズミを除ける目的の実用品だったともいわれるが、今日では金運や顧客を招く縁起物、あるいは純粋にインテリアの鑑賞用として広く受け入れられている。海外でも大評判で、あちらでは招き猫が手のひらではなく手の甲を向けている。日本と海外では手招きの作法が逆で、手のひらを向けてくねくねするのは「あっちに行け、しっし」で、手の甲を向けてにぎにぎするのが「カモン、おいでおいで」なのだ。ノベルティもアメリカなどへの輸出で賑わった。招き猫同様のおもちゃ的な製品で、蓄音器に耳を傾ける犬や観光地みやげ、広告付きの灰皿などがなつかしい。
常滑の繁栄は高度経済成長期まで続いたが、近年はかめも壺も需要は少なく、土管はコンクリート管にとって代わられ、ノベルティなど低価格な製品は中国製へと、焼き物関連産業は厳しい状況に追い込まれていた。
■産業遺産を活かす
ところが最近は街の様相が変わってきた。製造中止して廃墟同然となった工場の姿は、映画『21世紀少年』の格好のロケ地となった。モノクロの渋い建物が独特の情感を醸し出すのだろう。また、1972年フランスで開催された「第3回ビエンナーレ国際陶芸展」で、常滑の陶芸作家集団20人が名誉最高大賞を受けた。
このような動きが今日の常滑のまちづくり、まちおこしの素材となっているのだろう。陶磁器好き、陶芸好きはもちろん、映画のシーンを追体験する人、街に点在する陶芸アートを楽しむ人、土管やかめを埋め込んだ坂道や古い街並の散歩を楽しむ人、猫好きな人など、それぞれの目的は違えど、この風変わりな街並を訪れる人々、特に若い訪問者が増えている。
富山の井波は木彫をまちづくり・まちおこしに活かす最先端だが、焼き物をまちづくり・まちおこしに活かすのは常滑が一歩進んでいる。
例えば、もともと土管坂という面白い坂道があった。失敗作や売れ残りの土管やかめ、焼成用の型枠などは、壊しても産業廃棄物となるだけだが、これらを工事資材に転用して埋め込んだものだ。左右の土手には明治の土管と昭和初期の焼酎かめが、道にはケサワと呼ばれる土管焼成用の型枠が埋め込まれている。この坂は崖の真上から見おろすと面白い。道行く人と坂とが織りなす風景が映画の一シーンのようだ。このような坂や土手はどんどん増えている。土管をプランターにしつらえたものや、土管を利用した金魚鉢まである。坂は曲がりくねっているので、どの路地でも童心に帰ってかくれんぼができるようだ。
また、それぞれの陶芸家の軒先には自分が製作したモニュメントが置かれ、看板がわりでもあるがストリートファニチャーの一部にもなっている。これも井波と同じ手法だ。
煉瓦煙突や窯はかなりの数が保存されており、街の個性を強くアピールしている。広場には水琴窟が設置され、良い響きが聞こえる。水琴窟も素材はかめだ。
かつての工場や窯を活用した店舗群を回遊するのも楽しい。古い窯を利用した店舗やギャラリーは音の響きが独特な非日常的空間として楽しめる。窯の上や店内に招き猫が座っていたりするところがまた常滑風だ。
中にはピザ釜を売るためにピザ焼きの実演を始めた人もいる。目の前で焼きあがるピザは破格に安価でおいしい。窯はもちろん高価だが、エビで鯛を釣る商法だそうだ。窯の足元にいるネコは本物で、こぼれ落ちたチーズをきれいに掃除してくれる。
■猫づくしの街並
猫づくしの戦略を極めているのは「招き猫通り」だ。 通りの崖上、橋のたもとに高さ3m、幅6mの超大型の「とこにゃん」が首から上だけ姿を現す。そのそばに11匹の「本物そっくり猫」が設置されており、まるで生きているようだ。その下は大通りに沿った崖で、無機質なコンクリートに39匹の「御利益招き猫」が埋め込まれている。常滑の陶芸作家39人が手がけたもので、様々なご利益が込められているそうだ。上下左右、見る角度によって猫の表情が大きく変わり、実に楽しい。道行く訪問者は足を止めてじっくりと鑑賞し、記念撮影もしている。ゆるキャラばかりがまちおこしの種ではない。
地元の商店街は「陶彫のある商店街」として息を吹き返そうとしている。公共用地も民地も関係なく、あちこちに陶芸家のアートが競う。
ネコのモニュメントは街のあちこちにある。ネコ神社もあり、ご神体はネコの焼き物だ。パロディとして楽しむ人もいれば、招き猫よろしく良縁がありますように、飼い猫が無病息災でありますようにと祈る人もいる。
不思議なことに、犬のモニュメントを活かした街並も世界のどこかにありそうなものだが、寡聞にして知らない。常滑を参考にやれば犬の愛好家で賑わうだろうに。あるいは常滑が悪乗りして、招き猫に対峙する焼き物キャラクター「とこわん」を作り、犬の街並を加えればさらに面白いだろう。
街はずれにある伊奈製陶の旧工場はライブミュージアムとなっており、体験工房やレストランで賑わっている。常滑が今後歩む道は、井波と同様、職人を大切にすること、公共と住民が力を合わせてまちぐるみで彼らに仕事を与えること、低価格大量製造から脱却し、世界を相手に高付加価値品に注力すること、まちぐるみでライブミュージアムになることではなかろうか。柿右衛門の有田、鍋島藩窯の伊万里大川内、加賀の九谷などはそうだったし、益子も浜田庄司の民芸活動が陶芸作家の集積につながった。
街並を堪能した頃には日暮れ時になっている。常滑から見る夕日は伊勢湾を超えて鈴鹿山地に沈む。空には中部国際空港の飛行機が鈍く光り、海には夕日を背景に漁船のシルエットが主役となる。日没から30分、空が茜色から群青色へと変わるマジックアワーが常滑の至福の時だ。近くの海は海産物に恵まれている。宿泊して地元産品を楽しめばさらに幸せになれるだろう。
昭和15年製作の絵地図
常滑駅付近から滝田家まで
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廻船問屋 瀧田家
Kaisendonya Takitake
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瀧田家から登り窯まで
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登り窯付近
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登り窯
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登り窯付近から招き猫通りへ
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招き猫通り
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常滑駅前
陶彫のある商店街
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INAX ライブミュージアム
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大野
Ono
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