熊本県玉名市　菊池川堤防のハゼ並木

Kikuchigawa hazenamiki,Tamana city,Kumamoto

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Apr.8,2016 瀧山幸伸 source movie

国登録記念物

江戸時代からそのままに残るハゼ並木

■ハゼの木ってどんな木

青葉の頃のハゼ並木

　ハゼノキは紅葉の美しさで特に知られていますが、その実からロウを作ることでも有名です。かつては、ヤマハゼという日本在来の別種のハゼノキの仲間からロウをとっていたのだそうですが、中国大陸からハゼノキが伝えられると、各地で栽培されるようになりました。その後、日本で栽培、改良が続けられたために、ロウは日本の特産品となりました。Japan waxとか haze wax等と呼ばれるゆえんです。ロウの製造過程を簡単に追うと、集めたハゼの実を脱穀したあと、実をつぶして粉にして蒸し、俵につめて絞ります。その生ロウを湯で溶かしたあとに濾して固めます。固まったロウを削り天日に干し、さらに水を加えて煮る作業を数回繰り返し製品となります（注1）。

■熊本藩におけるハゼ栽培

ハゼの実

熊本藩の財政は江戸時代初期から危機的状況にあり、その再建のためロウの専売制を進めようとしました。熊本藩で本格的なハゼ栽培が行なわれるのは18世紀半ばからです（注2）。延享2年には、空地に栽培するよう命じるとともに、山や堤防への植え付けを命じています。また同年10月には柳川藩に視察に訪れ、ハゼを密集させて植えることを命じています。その結果、堤防のハゼは「生垣のごとく」なり「汐風をふせぐ」ほど繁殖しました（注3）。菊池川を始め、川沿いにハゼ並木が見られたのは、こうした藩の取り組みによるものでしょう。宝暦13（1763）年に高橋蝋締所（たかはしろうしめしょ　※熊本市高橋町）が藩営となり、享和3（1803）年には、藩主細川斉茲（ほそかわ なりしげ）が御側金（おそばきん※藩主の資金）を拠出して水前寺蝋締所を設置、さらに文化3（1806）年には八代の豊原（ぶいわら）に、安政5（1858）年に山鹿郡鍋田に蝋締所を設置します。安政5年には、藩内のハゼ樹木数は約70万本、収穫されたハゼ実は約500万斤（3000トン）に及んだといいます。

その後多くのハゼの木は失われていきましたが、菊池川沿いには237本のハゼ並木があり昔の面影を伝えています。平成18年11月17日に、国の文化審議会により、植物では全国初の国の「登録記念物」として、文部科学相に答申されました。

■江戸時代の菊池川

熊本県立図書館には、安政2（1855）年に描かれた「菊池川全図」という絵図が残されています（注4）。現在の玉名市小浜（菊池川右岸）、小島（左岸）付近の絵図を見てみると、右岸の方には菊池川がカーブする地点に、長さ2間〜7間（3．6m〜12．6m）の小規模な石刎（いしはね）とよばれる突き出た石組みが整備され、流れをゆるめ決壊を防いでいます。一方左岸には大きな川原が形成されています。これはくつわ塘（ども）とよばれ、遊水地帯として小島村と大浜町への洪水防止としてつくらました。石刎やくつわ塘は今でも受け継がれていて、加藤清正由来の河川改修の高い技術が読みとれます。

　絵図に描かれている右岸に続く緑の点々はハゼの大木と考えられます。19世紀半ばには、上流は繁根木川の河口から、下流は小浜地区にかけて、現在も見られるのように、ハゼ並木が存在していたことが分かります。

（注1）「江戸時代　人づくり風土記　43　ふるさとの人と知恵　熊本」より

（注2）18世紀前半以前について、藩は寛文11（1671）年にハゼ苗を野山に植えることを命じ、享保8（1723）年には薩摩からハゼの種子を買い入れ、春日村に播かせています。

（注3）井沢蟠龍（いざわ ばんりゅう）【1668?1730】「肥後の記」

（注4）「菊池川の今と昔」（建設省九州地方建設局　菊池川工事事務所」には「菊池川全図」と現在の菊池川の写真が対比してあります。

参考文献

　熊本日日新聞情報文化センター編　『写真集熊本100年』　熊本日日新聞社　1985

　村岡節雄他編著　『熊本の樹木たち』　熊本県　1991

　加藤　秀俊ほか編　『人づくり風土記43　全国の伝承江戸時代　熊本』　農山漁村文化協会　1990

　玉名市史編集委員会　『玉名市史　資料編1　絵図・地図』　玉名市　1992

　野口喜久夫　「熊本藩における藩営製蝋業」　森田誠一編『肥後細川藩の研究』　名著出版　1974

(資料：熊本県）

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