Monthly Web Magazine (Dec.1, 2009)
■■■ エッセイ 「ニート猫」 柚原君子
俺猫。外に出たことがない猫、つまり。どこかの人間のように挫折をしたから世間に出ないというわけではない。
俺の辞書に挫折はない。時に失敗はあるが、それは良く眠って忘れるのみだ。
猫は外に出すな!という掟が俺のかぁかぁ(飼い主のおかあちゃんのことだ)にあるらしいのだ。
外に出していけない理由は10万円の痛かった出費という経験によるそうだ。
なんでも以前の飼猫は外に出てもよい猫だったそうだが、
猫の額ほどとさげすみの対象となっている我ら猫族の貴重な狭さの額に、
野良猫という名前の猫に、喧嘩の挙句にかみつかれて大怪我を負ったのだそうだ。問題はここからだ。
その治療費が10万円もかかったそうだ。
かぁかぁは仏壇の裏に隠しておいたへそくりで、猫の額を縫う手術をしたそうだ。
額が狭くって10万円で済んだ、とかぁかぁは泣き笑いをしたそうだ。
以後この家で飼われる猫は10万円の不慮の出費を抑えるために外出禁止となり、猫ニート大歓迎となったソウダ。俺猫。猫背。
猫ニートとなって12年。時々はつまらなくなって背伸びをする。無理に猫背を伸ばしてみる。
一旦前足を伸ばしたあとに後ろ足を伸ばす。気持ちがよくってあごが出る。
あごが出るとニートの俺でも目線がちょっと上向いて遠くが見える気がする。
人間よ。行き詰ったらあごが出る。あごが出たらおしまいじゃないぞ。
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