MONTHLY WEB MAGAZINE May 2012
■■■■■ 雨の粟島 田中康平
村上の南にある岩船の港から高速船で1時間ほどのところに粟島という小さな島がある。
数年前から5月の連休には決まったようにここを訪れている。めあては、この時期日本海を北上する渡り鳥の中継地として出会える珍しい鳥だ。
そうでなくとも気楽な民宿でとれたての魚づくしの毎日が送れる、そこも大きな魅力だし、何より、ぶらぶら鳥を見るより他やることがないというのが素晴らしい。
鳥見の客のほかは釣り人がこの島の大事なお客のようだ。この島の歴史も面白い。
縄文の遺跡が島内に幾つか発見されており古くから人が住み着いていたが、海の民には重要な島なのだろう。
9世紀頃九州の松浦氏が島の半分を占領しその後渡ってきた越前の本保氏と島を分け合い現在に至っている。
民宿の主も本保の姓だ。島の神社付近には鎌倉時代に作られた石の碑がいくつもあって古くから日本海の要となっていた島の雰囲気が伝わってくる。
今年は雨の粟島となった。1週間前からかなりの低気圧がこの時期粟島上空を徘徊することは凡そ予測が付いていたが前々から予約で押さえた宿だけに簡単にキャンセルするわけにもいかない。
嫌な予想は大概当たる。予想通り低気圧はやってきて行きの船は問題なかったものの、帰りは海が荒れて欠航や遅延が飛び交う有様となった。自然と調和して生きるほか無い島だ。
雨でも鳥は少しは出てくるが大概の鳥は草や木の茂みで雨宿りをして目に触れることは少ない。雨が小止みになればぱらぱらと出始める。
今年はそれにしても渡って来ている鳥の数が少なかった。北の寒気がなかなか抜けず、鳥たちはここまでたどり着いていないのだろうか。
アオバズクもいないさびしい粟島だった。キマユホオジロが珍しい鳥として現れたが、ツバメが殆どおらず、オオルリも随分少ない。ヒヨドリの群も見られず、アオジとカワラヒワが目立つ位で、鳥の密度そのものが随分と低い。
こんなこともあるのだ。この頃は起こったことは全て受け入れることにしている。残念がってもしょうがない。目の前に繰り広げられる時の流れそのものが実は面白い貴重なもののように思えている。
こんなことを何時まで続けられるだろうか、時折そうも思う。
連休が明けると日差しは日々強さを増しきた。もう夏の勢いがそこまで迫っているようだ。
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