MONTHLY WEB MAGAZINE Sep. 2012

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■■■■■ 山の上のお寺で携帯を落とした話など 野崎順次

去年の暮れ、12月30日に山の上のお寺を撮影に行った。大阪から新幹線で約1時間で、その後の交通機関はタクシーで15分である。国重要文化財の本堂から少し上がると墓地、さらに山道を上がった最高地点に県指定文化財の三重塔がある。三重塔を撮影してから携帯でタクシー会社に連絡し、迎えを頼んだ。その直後に携帯を落としたらしい。上半身の服装はダウンジャケット・薄手のセーター・ウールのシャツで、携帯はウールのシャツの胸ポケットに入れていた。ちなみに私はいつも胸ポケットに携帯を入れておく。首にぶら下げるストラップなどはつけないで、これまで落としたことが無い。ところがこの時、セーターとシャツの間に滑らせて胸ポケットに入れたつもりが、そのまま、山道に落ちたようだ。

タクシーで駅に着き、新幹線に乗り込んでから、携帯のないのに気付いた。その時点ではタクシーの座席に忘れた可能性が高いと思っていた。家に帰ってから、タクシー会社に電話したが、そのような忘れ物はないと云う。そこでダメモトでお寺に電話して、どうも三重塔あたりの山道で落としたらしいのでついでの時にでも見ておいて下さいとお願いした。お寺の方は携帯の番号を聞かれた。呼び出し音を頼みに探して下さるようである。だが、マナーモードなので、大きな音はしない。翌朝(大晦日)に三重塔にお供えをするので、見ておきましょうと云って下さった。幸いその夜は雪や雨が降らなかった。降っていたら携帯はアウトである。

翌朝、会社で片づけ仕事をしていると、自宅から電話があり、お寺の方が携帯を見つけて下さったと云う。即座に菓子折を持って新幹線、タクシーを乗り継いでお寺に行った。和尚さんから「ひもで首から下げないと駄目ですよ。」と云う意味の方言で注意された。

自分の携帯を調べると、約1時間半にわたり十数回、他の携帯からの呼び出しがあった。そんなに長く丁寧に山道の草むらの中から聞こえるマナーモード音を探していただいた訳である。携帯を簡単に換えられない「今時の機械音痴のじーさん」にとっては身にしみる善意である。

最近、大阪南部の重要文化財の神社本殿を訪ねた折、道を尋ねた造り酒屋さんでお礼がてら冷生酒500 ml びんを買いこみ、酷暑と渇きに耐えかね、直ぐに飲みほしたところ、神社に着いて撮影途中に本殿前のベンチで寝込んでしまった。日が暮れて目を覚まし、慌てて撮影機材をリュックに詰め込んで帰ったが、ある手作りのカメラ部品を忘れた。大したものではないが、愛着があり、また、神社本殿の撮影も途中だったので、2日後の休日に再度出かけたところ、ベンチの下のきれいに清掃された地面にその部品が落ちていた。お賽銭を少しはずんでお礼参りをしていると宮司さんが朝のお掃除に出て来られた。事情を云ってお礼申し上げた。(ついでにと云っては何ですが)瑞垣内から本殿を撮影させて下さいとお願いしたら、「どうしてもですか」とおっしゃりながら鍵を開けて下さった。

おのれのそそっかしさを大いに恥じる次第である。大変不遜な云い方で申し訳ないが、落としたところがお寺や神社でよかったと本当に思う。

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