MONTHLY WEB MAGAZINE Feb. 2013

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■■■■■ 母の入院で謝った話 野崎順次

いい年(67)をして、酒が過ぎたり、口が過ぎたり、ふざけ過ぎたりして、その結果、人に謝ることが多い。

これは最近の生々しい話で未だ書かない方がよいのかもしれないが、読者はかなりマニュアックな人だけだと思うし、もう書いてしまったので、投稿することにした。

92歳の母親が骨折した。昨年の右大腿骨に続いて、今年は左大腿骨である。去年とは違う近くの病院に救急車で入院、手術は無事行われ、現在、リハビリ中である。

未だ自由に歩けないし、ほとんで化粧できないし、髪もボサボサであるから、ごく近い身内以外には会いたくない。

その母親の数少ない親しい友人に同世代のおばあさんがいる。仮にKさんとする。Kさんは一人暮らしで足腰はしっかりしており、いつもきれいにお化粧をして、好奇心が強い。去年の母の入院の時も見舞いに行きたいと、病院の場所を聞かれたが、母の意向もあって教えなかった。ところが、身内の別の人に頼み込んで聞き出し、無理やり見舞いにきた。

母は優しい人だから、来ても怒ったりしない。Kさんのお見舞いは、心配してくれているのが三分の一、病院と母の様子に対する好奇心が三分の二であろう。

手術後2日くらいしてから、Kさんから私の家に電話があった。母宅に電話をしてもずっと出てこないからだ。それに、Kさんは母の携帯電話の番号を知らない。私は外出から酔っぱらって戻り、病院に行く準備をバタバタとしている時だった。

「骨折して入院したこと。今、人に会いたくないこと。落ち着いたら、また、連絡するから、それまではほっておいてください。」

という旨を乱暴にしゃべったようだ。Kさんは「ほっといてくれ」と言われて、情けなくなって少し泣いた、と別の身内から聞いた。このことは母の耳にも入り、すぐに母は病床から携帯でKさんに謝った。

そこで翌日、ベルギーの超高級チョコレートを持って謝りに行った。男らしくペコリと頭を下げ、「ゴメンナサイ、少し酔ってました。また、お見舞いに来ていただけるようになったら、ご連絡します。」といったら、Kさんの機嫌はいっぺんに治ったようだ。

しかし、2〜3日後に、突然、Kさんは母の病室に現れた。我慢しきれなかったのだろう。病院名は私から聞いたといったそうだ。言ったはずはないのになあ。

おしまい

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