MONTHLY WEB MAGAZINE May 2013

Top page Back number  


■■■■■ 京都のお好み焼屋でフランス人の落語家に出会った話 野崎順次 source movie

京都東山のウェスティング都ホテルから三条通りの坂を少し下ると(京都で下ルと云うと南へ行くことだがここでは文字通り坂を下る)と「ぼんぼり」というお好み焼きと鉄板焼きの店がある。先月の21日(日)午後1時過ぎに初めてこの店に入った。すごくおいしいか、少しまずいかのどちらかなと思ったが、幸い、前者であった。お好み焼の定番、豚玉を食べたが、キャベツ多めのサイズ大きめで、マヨネーズははなから無いし、しかも花ガツオではなく粉末ガツオで、なかなか美味しい。思わず「トレビアン」と叫びそうになったら、フランス人の先客がいた。

4人連れで、3人がフランス人、一人が日本人。右端から詳しく言うと、日本人女性(A)、三日月風仏男性(B)、日本語の流暢な仏男性(C)、ごく健康そうな仏女性(D)。

焼きそばから始めて、お好み焼きを食べ、生ビールをお代わりしている。なかなかの健啖ぶりでお箸の使い方もうまい。CがAとBの両女性に気遣いながら、早口で通訳している。それまで無口だった店のおばさんが突然Cに「どの落語家が好き?」と聞くと、「三遊亭で、テレビには出ていないので、あまり知られていないが、竜楽(りゅうらく)がいい。」という。何やら「通」である。というわけで、私たちも話しかけてよく聞いてみたら、Aの日本人女性はCの奥さん、Bはフランス語で落語をする人、Cは日本語のアマチュア落語家、Dは演出家・作家。

その後、インターネットで調べてみた。BとDも夫婦だった。

まず、日本語のうまいCは、尻流複写二(シリル・コピーニ)。1973年に南仏のニースで生まれ、高校時代に日本語の勉強を始め、その頃より日本の古典芸能である落語に興味を持ち始める。1997年9月に来日し、2010年大阪での落語家・林家染太との出会いをきっかけに本格的に落語を教わる。2011年に開催された「落語国際大会」に出場し3位を獲得。外国語で落語を演じる三遊亭竜楽のフランス公演のコーディネートや通訳で同行し、落語の海外普及にも積極的である。

細面で顎のとがったBは、ステファン・フェランデスStephane Ferrandez。彼は2009年、京都にある関西日仏交流会館ヴィラ九条山にて、フランス外務省とキュルチュールフランスが日本で実施する、アーティスト・イン・レジデンス・プログラムで滞在しながら、落語の師匠に弟子入り。6ヶ月ほど基礎を学んで、演出家サンドリーヌ・ガルブグリアSandrine garbugliaと「フランス語で落語」スペクタクルを作り上げた。彼らは初の外国人落語家、ヘンリー・ブラック(英国人1858?1923)の英語で書き残したネタをもとに、フランス語の口語に翻訳したものも含め、ネタを増やしつつある。「時うどん」もできるそうだ。

Dの女性はステファンの妻にして演出家・作家のサンドリンヌ・ガルブグリア。1974年ブロン・メニル生まれで、両親はイタリアのサーカス団員。若い時から演劇に対する情熱を抱き、演劇を教え、2006年にはカンパニー・バラボルカを結成した。2009年度ヴィラ九条山に招聘され、帰国後は落語の演目をフランス語で演出することに専念した。

この日は京都市国際交流協会で、「フランス語で落語」ツアーの緊急京都口演があり、その直後の昼食時に出会ったのだった。

次の機会にでも、是非、二人の噺を聞かせてもらいたい。

 All rights reserved 無断転用禁止 登録ユーザ募集中