MONTHLY WEB MAGAZINE Sep. 2013
■■■■■ ちょっとついている話 野崎順次
6月の大雨で田舎の家の土塀が隣家側に倒れた。実際の被害は3メートルくらいだが、100年近い年代物で残りの部分もガタガタである。結局、十数メートルをブロックで建て替えることになった。隣の土地は隣人が所有者で、うちの土地は某企業の所有である。工事代金はこちらの負担だが、境界線は両者の確認が必須である。思わぬ出費であるが、神経も使う。
酷暑の夏がようやく去ったようだ。娘親子が帰省して、息子たちもよく顔を出してくれた。楽しかったが、すごい電気料金が回ってきた。
というようなことの後で、ちょっとついていることが続いた。神様が少しは配慮してくれたのかもしれない。
上記工事関係者のあいさつ回りのため、田舎の家に帰った夜のこと、自転車でコンビニにビールを買いに行った帰りに道路上で黒い革のポーチを見つけた。持ってみるとズシリと重い。ファスナーをあけるとお札が見えた。千円札の束があり、1万円札もいくらかありそうである。ビールが早く飲みたいので、いったん家に帰ってからすぐに近くの交番に届けた。若いお巡りさんが手に取って中身を確かめかけたら、少し年上のお巡りさんが手袋をはめるよう注意した。事件性のある場合には指紋が問題になるかららしい。少なくともポーチ外部にはわたくしの指紋が付いている。少し嫌な気がした。中身のリストを作成してから、遺失物拾得届書(正式の名前は知らない)にかかるらしい。こちらは昼間の犬島めぐりで疲れているし、ビールもまわってきて、正直なところ邪魔くさい。
突然、おばさんが交番所に駆け込んできた。私は思わず(ヤマ勘で)「あっ、この人や!」と叫んだ。まさに落とした本人で、机の上のポーチと中身を見て、すっかり安堵した。ガソリンスタンドの経営者らしく、おそらくは今日の売上金だろう、硬貨も多く、十数万円あったようだ。スクーターの前のかごに入れて帰る途中に落としてしまったそうで、家に着くまで気が付かなかった。
事実関係はまったく疑いもないので(と、お巡りさんは判断して)書類も作るのをやめた。私はこれ幸いと帰ろうとしたが、おばさんは謝礼として2万円を出し、封筒は交番所にもらい、私に渡そうとした。固辞したが、結局、頂戴した。
その翌々日、40枚(1万2千円分)買っていたサマージャンボ宝くじを換金に行った。何億円か当たったら、あれとこれに使い、いまさら酒池肉林のどんちゃん騒ぎはできないので、不摂生しないように注意し、他人に騙されないように生きていこうなどと、相変らず夢想してしまう。そうしたら、1万円1枚、3千円1枚と300円4枚が当たっていて、1万4千200円になった。15年ぶりに元が取れた。15年前は初めて宝くじを6千円くらい買って五万円が当たった。とにかく、今回はついているほうである。
その翌日に会社の近くの行きつけの散髪屋に行った。職人さんが三から四人いて一人が特に上手だが、いつも遠慮して指名しない。今回はほぼ1年ぶりにその上手な人に当たった。
さらにその翌日、取引先で新規事業の担当者を紹介された。若い娘さんで、打ち合わせの途中に目が合うと、ニコッとして、えくぼと鼻の縦じわが可愛い。この仕事がうまく発展すればいいのにと熱望した。
その後、特にいいことはない。
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