Monthly Web Magazine June 2014
福岡市に転居して一年半近くになる。過ごしてみて海と調和した風土、そんな思いを強くしている。数日前も福岡市の北東のはずれにある宮地嶽神社の江戸花菖蒲を見に行った後神社からまっすぐ海に向かう参道を海岸まで出てみてそんな感じを抱いた。津屋崎の海だ。
関東の太平洋に向かう戦うような黒い浜辺とは違って、この地の入り江の穏やかな波と白砂の続く浜辺 青々とした松原にはこれが海だという懐かしさを覚える。
博多湾でヨットに乗ると二人乗りの小さなディンギーヨットでも湾内の能古島を一周したりもする。勿論北風が5−6mも吹けば湾外からうねりが押し寄せて結構スリリングなセーリングになることもある、しかし面白い。福岡には、というより九州の至る所で海と遊ぶ雰囲気に満ちている。
入り江の多い地形、長い砂浜海岸、温暖な気候、対馬海流という暖流、海を渡ってきた文物の歴史、全てがないまぜになって海とグラデーションのようにつながる風土が出来上がってきたのだろう。
津屋崎海岸の岬の丘に東郷神社を見つける。日露戦争で日本海海戦を戦った東郷平八郎を祭った神社だ。平地にあればその軍国主義の残滓のような神社には目をそらしたくなろうがこの玄界灘を臨む丘の上にあると海とともに生きた人として違和感もなく受け入れてしまう、そんな全てを飲み込んでしまうようなおおらかさがこの海辺にはあるようだ。
津屋崎の渡と呼ばれる岬の切れ目のような細長い入り江にはヨットハーバーがあって漁船とともに多くのクルーザーが停泊している。市営のヨットハーバーは停泊料も安いらしく漁港とは不釣合いなほど立派なクルーザーがひしめいている。
魏志倭人伝の時代にもこの辺りから朝鮮半島に向かう船が行き来したのだろう。海を眺めていると昔と変わらぬ空気が今も漂い続けているのを感じて心が安らぐように思える。
九州は海だ。