Monthly Web Magazine July 2014

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■■■■■ 気象予測の話 田中康平

この年になるとこれまで手がけた趣味が幾らもあるが生き残ってきたのは数少ないのに気づく。気象も生き残った趣味の一つでいまだに暇を見つけては気象庁による数値計算データ(GPVデータと称する)にアクセスしてはピンポイントに天気の予測をして遊んでいる。

ワールドカップの競技の当日の天気予測などもやってみているがその土地の気象を調べていくとその土地に親しくなる感触を覚えていっそう競技の推移に興味がわく。地球の裏側の気象予測も結構当たってそれはそれで楽しくなる。

つい1週間ほど前西表島あたりに旅した。出かける前にいつものように気象の予測をさんざんしてみたがどうみても旅行中は穏やかな晴れが続くとでる。もちろん南の島だから夕立のような驟雨はあるけれども基本は穏やかな晴れが見通せる。台風が怖いが今回は大丈夫そうだ、台風の予測の信頼度はいまひとつだが5日くらいの旅であれば予測計算で台風の影が出てこなければまずは大丈夫だ。それにしても西表周辺は暑そうだ。北部九州と比べても大気の熱量が断然違う。

予想通りの暑さと晴天の中、西表や石垣でネイチャーウオッチングや海遊びや観光を毎日朝から晩まで5日間やって戻ると次の週は台風ウイークとなった。1週間ずれなくて本当に良かったと思う。

気象の予測計算という未来予測は随分と信頼性が上がってきた。基本的には連立微分方程式を時間で積分して未来の状態を得るのだから、僅かな初期値の間違いが大きな予測の差を生むことになる。こんなものがそんなに信頼のある答を生むわけがない、というのが普通の考えだが、よく当たるようになってきている。技術の進歩は驚くばかりだ。一週間前の天気のどこにその予兆は埋め込まれていることになるのだろうか、そんなものは天気図をいくら眺めてもわからない。

台風が天気図に現れ始めると予測の信頼性はがっくり落ちてくる。特に今回の8号のような夏台風は気圧配置にメリハリがなく動きが定まらず進路予測が外れやすい。台風は結果的に広い範囲の天気に多大な影響を与えていて全部の天気予測が怪しげになる。

今回の台風8号では例えば宮古島の観測データと当日午前0時の予測計算値を比較すると気圧の下がり方が結構外れている。台風のない通常なら気圧の推移は最も当たりやすいのだがほんの12時間の予測でも予測がずれる。どうにも台風は当たりにくい。

昔読んだ安部公房の小説に分子レベルのあらゆる運動を解いていけば未来は完全に予測できるというような話があった。そんなことまでは出来ないにしても物理法則で殆どが支配される自然現象は予測可能な未来であることには違いない。100年もすれば1年分の天気が結構な精度で解るようになるだろう。旅行の予約で雨の日の切符や宿は安くて当然の時代がやってくるのだろう。

しかし旅をするなら天気のいいときに限るのだろうか、時々そう思う。雨の日に活動する生き物が現れたり雨が晴れ上がった後のなんともいえない光景に出くわしたりすると特にそう思う。100年後には旅の感覚がまた違ってきているのかもしれない。

こんな風にこの先の未来に延びていく時間を空想していくようになるのも気象の楽しみの一つのように思っている。梅雨明けはそろそろだろうか。

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