Monthly Web Magazine May 2016
■■■■■ 右往左往 野崎順次
元来、私は右と左の区別にとろい所がある。その遠因は、小学校で初めて右と左を教わる日に、風邪で休んだからだと思う。最近、川沿いの桜並木を見に行って、右岸と左岸の区別を間違ったことがきっかけで、右と左の区別について、初心に戻って勉強してみた。
まず、右と左の違いは相対的でいい加減なものである。お箸を持つ方が右手で、お茶碗を持つ方が左手というのが、昔の教え方だった。しかし、左利きの人(lefty)は反対である。アンソニー・ホプキンス演ずるヒッチコックは右利き(righty)だし、このテニス選手は左利き(lefty)である。
また、他人から見ると、右手は左の方に、左手は右に見える。また、その角を右に曲がりなさいといわれても、後ろ向きに歩く人は(そんな人は極めて少ないが)反対方向に曲がるだろう。ところが、方向を東西南北でいえば、間違うことはない。そこで、右と左に東西南北のように絶対的な意味を与えるためには、前提条件を人為的に明確にする必要がある。
まず、「進行方向に向かって」がある。人体の右手左手、右目左目、右耳左耳など全てが、本人から進行方向に向かっての右左である。自動車の右タイヤ左タイヤも前輪後輪共に同じ側である。よっぽどでない限り、「反対から向かって右の」とは云わない。
眼科で右目がゴロゴロするんですというと、お医者さんは黙って向かって左目を見てくれる。対面するから逆になる。ところが、肛門科に行って、うつぶせに寝て、右尻側が違和感があるのですが、というと、お医者さんから見ても右側を診てくれる。お互いが同じ方向に向かっているからである。
川の岸の場合も水の流れる方向に向かって(上流から下流を見て)右岸(right bank)と左岸(left bank)である。河口から遡る場合は逆になって、右が左岸、左が右岸となる。この写真は明らかに上流を見ているので、左が右岸、右が左岸となる
船の場合も進行方向に向かって右舷(うげん)と左舷(さげん)ときっちり決まっている。英語では右舷がstarboardで左舷がportという。帆船のオール(star)は右利きの舵取りが使いやすいように船腹(board)の右に付いていたからだという。かたや、左舷は港の桟橋に接するのでportである。いまでも船は左舷の桟橋から乗り込むのが普通である。桟橋から見ると、船首は左に、船尾は右である。
そうではなく、右舷側に桟橋がある例もある。
フェリーは船首・船尾から出入りするので、
ちなみに「うげん」と「さげん」は嵐の中で聞き間違える恐れがあるので、プロの船員や海上自衛隊は「みぎげん」と「ひだりげん」と叫ぶそうである。
右回り、左回りという表現もある。これも最初はよく分からなかった。手で円を描く時、こちらから見て、円の上で左から右に動けば右回り、右から左に動けば、左回りである。(少なくとも私自身には)すっと分かることではない。ところが英語では時計と関連付けて明快である。時計回りが右回り(clockwise)、反時計回りが左回り(anticlockwise)。なるほど。
また、時計回りは北半球における日時計の影の回り方に由来するそうだ。なるほど。
小さい頃から「台風は左巻き」と覚えていたが、遥か上空から見ると、反時計回り(左回り)に風が吹き込むを示している。地上から見ていると、台風が近づくと、風は東から西に吹き、遠ざかる時は、西から東に吹く。これは何度も経験している。
原則的にネジを締めるのは時計回り(右回り)で、緩めるのは反時計回り(左回り)だそうだ。これまで意識してなかった。
それから、右脳左脳、右翼左翼などあるが、それはまたの機会に……………。