.JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Mar. 2017

Back number


■滝の話 田中康平

少し暖かくなってきた。近頃はなんとなく滝が気になっている。日本の自然の特出した姿のような気がしている。

冬場は滝にはあまり訪れる機会もないが、冬の滝見の一つに氷瀑見物というのを時折耳にする。

福岡にも福岡市の南東の仏頂山山中にある難所ヶ滝というのが氷瀑で知られている。しかし年齢からもう行くのは無理かな、と思っている。必要装備はそれほどでもないようだが一人で行くのはやはりためらわれる。

勿論引っ越す前の栃木には雲竜渓谷という氷瀑の名所があったが、相当の装備が必要なようで行かずじまいになってしまった。歳を重ねていくとできないことが増えていくのはどうしようもない。

これまで見たなかで最も印象に残っている滝としては尾瀬の三条の滝という名前が頭にまず浮かぶ。

9年くらい前の九月に紅葉が始まっている尾瀬を見ようと御池から見晴しに向かって燧裏林道を歩いていた。

途中に三条の滝にわかれる分岐点がある。何度も行きか帰りにこのルートを通ったことがあったが下ってしまうと上り返しのきつさを思って素通りしていた。この時は余裕があったこともあり意を決して滝への道を下った。

200m位の標高差があったと記憶にある。まだ十分元気だった。戻りの登りのきついのは覚悟がついているので、ひたすら無心に下り続ける。次第に地響きのような滝の音が近づいてついに川面にせり出した滝見台に到着した。空気を揺るがす振動がすごい。想像を超える迫力で大量の水が落ち続ける。

  

尾瀬中の総ての水がここに集まって只見川に落ちていく。こんな轟きがあって当然といえば当然だがすごい。こんな風に滝の轟音と景観だけが頭を完全に占めてしまうというところがいい。

堪能したあとまた200m登るのだが川沿いに早瀬になっている平滑ノ滝なぞを眺めながらゆっくり登れるので思ったほどつらくもない。ゆっくり歩いてその日の宿、温泉小屋につく。そぞろに歩きながら色づき始めた草木を心行くまで眺めて過ごす。

  

8年半たった今思い出してもいい山歩きだったとその思いに浸る。

今年は何を見て過ごそうか。

次第に弱くなっていく体はしかたがない、それが生き物としての定めだと思い切りながらも春の訪れがうれしい。