JAPAN GEOGRAPHIC
Monthly Web Magazine Dec. 2017
■ 私の読書作法? 野崎順次
元来、私は活字中毒である。風呂でもトイレでも電車の中でも本がないと落ち着かない。ただし、最近は時事問題の解説、トーク番組、小説朗読の音声データをICレコーダーに入れて、会社の行き帰りに聞くことが多いので、少し読書時間が減ってきた。
それでも本を買う。会社の近くのビルに古本屋通りがあり、文庫本も豪華本も安く売っている。一番安いのは5冊420円で、けっこう良い本が並んでいる。昼休みによく行って買う。読むペースは買うペースの三分の一くらいだから、本がどんどんたまる。でも、古本は1回こっきりの出会いとなることが多いので、買ってしまう。
そのためかどうかは分からないが、いくつかの本を並行して読むようになった。夜、寝る前にある本を読みかけて、10分くらいすると、別の本が読みたくなる。寝つきの悪いときは、4冊くらい読む本を変えてから、また、最初の本に戻ることもある。そのようにして、現在、読みかけの本が10冊を超える。どんな本を読んでいるかによって個人の内面が分かってしまうかもしれないが、たいした内面でもないので、ご披露しよう。パーセンテージは読んでしまった割合である。
① シンパサイザー(上)(下)」ヴィエト・タン・ウェン 上岡仲雄訳、ハヤカワ・ミステリ文庫
53%。北ヴェトナムのもぐらスパイの独白である。英国人スパイ小説作家ジョン・ル・カレの饒舌と精密さを思い起こすような文章が緊張感を持続する。面白い表現が続く。例えば、引用は不正確だが、「えくぼの底が痛いほど微笑を続けた。」とか、「カントリーウェスタンは白人だけの音楽だ。」とか。ピュリッツァー賞とアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀新人賞の両方を取ったのもすごいが、その他にも多くの受賞がある。
② 「完本 梅干し日本刀」樋口清之、」祥伝社黄金文庫
80%。考古学者の比較文化史である。古来からの日本の知恵と独創の歴史とある。発掘考古学的では全くない。世界に誇る日本人の独創性とは、伝統と融通性のバランスと分かる。
③ 「犯罪の大昭和史 戦前」文芸春秋、文春文庫
70%。雑誌文芸春秋で記載された昭和の犯罪記録を編集したもので、そのうちの戦前版である。ノンフィクションだから、途中で読むのをやめて前後を忘れても、どうってことはない。ミステリの合間にお口直しに読むことが多い。
④ 「風来酔夢談」山田風太郎、富士見書房
65%。山田風太郎はとんでもない奇想小説を書いてきたのに、本人はさばさばとした大酒飲みで、まじめな家庭人である。いろいろな人との対談を通じて、その人柄が浮かび上がる。
⑤ 「空海の風景(上)(下)」司馬遼太郎、中公文庫
20%。司馬遼太郎の本はかなり読んできたが、これは難しそうだから後回しにしていた。最近、密教のことを勉強する機会があり、また、うちは高野山真言宗なので、読むことにした。割と俗っぽい表現が多いし、風景という言葉にこだわり過ぎという第一印象である。
⑥ 「甲賀忍法帖」山田風太郎、角川文庫
80%。伊賀と甲賀の忍者が10人づつ出てきてそれぞれ独自の忍法で対決する。その技に一応科学的な説明がなされるが、人知を超えた荒唐無稽さにびっくりする。若いころ読んだ感激を再度味わってみようと読んでいるが、さすがにしらけるときもある。
⑦ 「がん - 4000年の歴史(上)(下)」シッダールタ・ムカジ− 田中文訳、ハヤカワ文庫NF
35%。ピュリッツァー賞を取ったベストセラー、がんの「伝記」である。古代エジプトからその存在は知られていたが、細胞の異常増殖と判明したのは19世紀になってからだ。いつか高齢の私ががんに罹るかとおびえつつ、その歴史をたどるのはスリリングである。
⑧ 「黄昏に眠る秋」ヨハン・テオリン 三角和代訳、ハヤカワ・ミステリ文
35%。何かのミステリ上位に選ばれた作品で、北欧の暗い海辺の暗い失踪(殺人)事件である。少しづつ読んでいるので、なかなか、佳境に入れない。最後にはシャープなどんでん返しがあるような、ないような。とにかく、ある程度一気に読み進めるべきミステリーだ。
⑨ 「ドロ−ンズ・クラブの英雄伝」P.G. ウッドハウス、岩永正勝他訳、文春文庫
20%。ウッドハウスは英国で最も人気のあるユーモア作家である。登場人物はほとんど貴族という上流階級の上品なユーモアを楽しめるが、かれらの恵まれた境遇に嫉妬を覚えないほどよくできている。彼の翻訳本は8割近く持っているが、読んだのは、2割くらい。読み始めると面白いが、もっとピリッとした話が読みたくなってしまう。ドローンズ・クラブは男性貴族専用のクラブで、その若い連中が繰り広げるたわいもない「冒険」の短編集。
⑩ 「山怪 − 山人が語る不思議な話」田中康弘、山と渓谷社
30%。山村に伝えられる素朴で不思議な話がいろいろ語られる。狐や狸に騙されたとか。
現代社会の合理的な領域から外れるのは楽しい。
⑪ 「小沢昭一的東海道ちんたら旅」小沢昭一・宮腰太郎、新潮文庫
25%。小沢昭一独特の語り口による東京から大阪までの鈍行列車の旅行記である。以前に大阪から東戸塚まで鈍行で行ったときの読みかけである。今のところ、ベッドの横の本の山の中ほどにあるが、楽しい本なので手放す気はなく、いつかは完読する。
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