Monthly Web Magazine Feb. 2019
近年、趣味で文化財(建造物)のリストを編集していますが、その中で時々、「建造物として文化財指定されているものの範囲はどうなっているのか?」と思うことがあります。
この機会に、「ゆるく」確認してみようと思います。
1 有形文化財と民俗文化財
文化財(建造物)は「有形文化財」の一部です。有形文化財とは、「建造物、絵画、彫刻、工芸品、書跡、典籍、古文書その他の有形の文化的所産で我が国にとつて歴史上又は芸術上価値の高いもの(これらのものと一体をなしてその価値を形成している土地その他の物件を含む。)並びに考古資料及びその他の学術上価値の高い歴史資料」(文化財保護法第2条)とされています。
一方、建造物であっても、「我が国民の生活の推移の理解のため欠くことのできないもの」とされれば「民俗文化財」となります。
同じような民家であっても評価が異なれば指定区分が異なります。
有形文化財 坪川家住宅(重要文化財,福井県坂井市)
民俗文化財 旧尾田家住宅(石川県白山市、指定名称:白峰の出作り民家(山の小屋)と生活用具)
もっとも、旧尾田家住宅は江戸後期から末期に建築された民家なので、歴史的価値がないとも思えません。
最初に評価した専門家の考え方に左右されているような気もするので、厳密に区分されているような気はあまりしていません。
2 建造物とは?
「建造物」という言葉は、文化財保護法に使われていますが、厳密な定義がありません。
「建築物」は建築基準法で定義されていますが、「土地に定着する工作物」という前提があるので、「建造物」も「土地に定着する工作物」と考えればだいたい当てはまっています。
よくわかる例としては船舶があります。
明治丸(重要文化財(建造物)、東京都江東区):引き上げられて土地に定着している工作物(船舶)
日本丸(重要文化財(歴史資料)、横浜市):水上に浮かんでおり土地に定着していない工作物(船舶)
わかりにくい例もあります。
1 木造小塔
厨子、須弥壇や宮殿は建築物たる仏堂や本殿に固定されているため、建造物とすることに異論はありません。
しかし、木造小塔は収納庫や仏堂に安置されているので「土地に定着している」とは言えないのではないでしょうか。
建造物とした理由は、ひょっとしたら、「厳密には建造物には当たらないが、考古資料や工芸品といった種別で指定するよりも、歴史的・芸術的な価値の方が高いから、建造物とみなして指定する」というようなものなのかもしれません。
須弥壇 長蔵寺舎利塔及び須弥壇(重要文化財、岐阜県美濃市)
宮殿 観福寺本堂内宮殿(重要文化財、愛知県東海市)
木造小塔 海龍王寺五重小塔(国宝、奈良市)
2 石造物
石鳥居、石室(石龕)、石塔は建造物とされています。
石鳥居 八坂神社石鳥居(重要文化財、京都市)
石室 文永寺石室(重要文化財、長野県飯田市)
石塔 石清水八幡宮五輪塔(重要文化財、京都府)
石幢は国指定文化財でも判断が分かれています。
写真はありませんが、多宝千仏石幢(重要文化財、九州国立博物館)などは建造物指定、六面石幢(国宝、立川市普済寺)は考古資料としての指定となっています。
石幢はもともと、仏堂の装飾品である幢(多角形の傘から辺ごとに旗を垂らしたもの)を模した石造品なので、構造としては建造物なのでしょうが、「考古資料」として認識されたことで別の指定枠があてはめられたということなのでしょう。
個人的には、六面石幢(南北朝期)の考古資料としての価値がよくわからないので、建造物でいいのでは?と思ってしまいますが。
国においては石仏は彫刻、石燈籠は工芸品、碑は古文書、書跡・典籍又は考古資料として指定されていますが、北海道では碑(津波碑)が建造物として、岡山県では石仏、石燈籠や題目碑が建造物として指定されています。これも、土地に定着しているという構造上に特色を備え、評価が歴史的又は芸術的に価値が高いと評価されたら建造物として、その他の価値に着目されたらその価値で評価できる種別で指定されたということだと思います。
石仏 石造地藏菩薩坐像(重要文化財、和歌山県海南市地蔵峰寺)
石燈籠(重要文化財、奈良県葛城市當麻寺)
要は、文化財指定の目的は、「保存を図る」ということであり、対象物の価値に応じて指定が行われているということなので、所有者との調整は必要であると思いますが、どのような名目であれ、まずは指定することが必要であると考えれば、国や各都道府県等の指定の方向はおおむね間違っていない(少なくとも国民又は地域住民に説明ができるレベルである)ということなのでしょう。
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