Monthly Web Magazine Mar. 2020
■ 五百井神社(いおのいじんじゃ)の倒壊~復興 と所有の文化財 中山辰夫
五百井神社(滋賀県栗東市下戸山20 主祭神:木俣神) は安養寺山の南麓にあり、夏は緑、冬は雪と豊かな自然の中に鎮座する地域の守り神です。
栗東市には45件の国重文や国登録文化財、17件の県指定・選択文化財、74件の市指定文化財があり、五百井神社にも2件の県指定文化財があります。
神像の「木造男神座像」と令和元年12月に指定された「「黒漆金銅装蔓柏文鞍」で、いずれもごく最近に指定を受けました。
その五百井神社は社殿によると、仁寿(851)年に正六位上を授けられたとされ、千年以上の歴史があるとされる古社で、延喜式にも記載がある式内社です。
古くは「蘆井(いおのい)神社」と記され、日本書記に登場する近江国の豪族藘井氏と関連付ける説もあります。中世頃から「五百井神社」と呼称され出した。
その由緒ある五百井神社が2013(平成25)年9月の台風18号の豪雨により発生した山崩れで、本殿や拝殿が呑み込まれ壊滅的な被害を受けました。
旧社殿
天井川の金勝川が度々氾濫する事情で社殿はこれまでも大破を繰り替えしてきました。平成の災害で1858(安政5)年に再建された社殿が消えました。
倒壊後、地元氏子の総意で復興を決め、2017(平成29)年から工事に着手、2019(令和元)年6月に竣工式を迎えました。
現在の新社殿 本殿と拝殿を一体化する以外は、被災前の姿が再現されました。
祭礼は5月5日 地域の子どもたちが神輿行列を行い、復興に勢いを付けました。
蘆井(いおのい)の水 安養寺寺山から湧き出る清水
四季を通じて絶えない泉。神社は金勝川が平野部へと流れ出る位置にあり、祀る神も御井神で、水との係わりが深い。
「あふみなる いほの井川の水すみて ちとせのかげの みえわたるかな」と鎌倉後期の『夫木和歌集』に見られる。金勝川の旧名「蘆井川』に由来する説がある。
被災後、土砂に埋もれた神像を探し出す作業が行われ、「木造男神座像」と「木造狛犬」が発見されました。ご神体をみるのは地元の人もはじめてでした。
木造男神座像 平安時代の作 一木造 像高:33.8cm 2015(平成27)年に滋賀県指定文化財として登録されました。
像は平安後期の表現様式を伝え、官人が朝廷に出仕する正装姿で、眉根を寄せた半眼に口を真一文字に結ぶ。
五百井神社は仁寿元年(851)に正六位上、永治元年(1141)に従五位下の神位をそれぞれ授けられており、六位の朝服として定められた深緑色や五位の朝服として定められた浅緋色と、袍に残された彩色の一致がみられる点が注目されます。災害をきっかけに表に出て価値が明らかになった珍しいケースです。
同時に、今まで存在が知られていなかった14世紀末から15世紀初めの木造獅子・狛犬 1対も発見されました。
「黒漆金銅装蔓柏文鞍 こくしつこんどうそうつるかしわもんくら」 2019(令和元)年12月、栗東市指定文化財から滋賀県指定文化財に登録されました。
在地武士の青地氏が奉納された馬具とされ、平安時代に流行した表現方法を用いて鎌倉時代に造られたもの。後世に修理された形跡がなく、造られた当時のままの姿を残す貴重なものとされます。
境内地
標高234mの安養寺山(別名 和田山」の西山麓の所在しており、中腹までが神社所有林となっている。境内地は老杉・ヒノキの大木がしげる。
安養寺山の山頂には神の降臨する聖地が残され奥宮がある。急坂な山頂がのしかかるように本殿裏の樹林間に見える。治山工事が施されました。
大杉 樹齢1000年ともいわれる
五百井神社のある下戸山は、古代豪族小槻氏の本拠地として、古代栗太郡の中心的な地域で、砥山庄と呼ばれていました。
平安時代末期には鳥羽上皇の中宮美福門院の新塔建立に仏燈供料所として寄進され、その後青蓮院も門跡に伝領されました。砥山庄と呼ばれたこの荘園は室町時代後期に上砥山と下戸山にわかれ下砥山の原形となりました。
室町時代末期より青地庄の一部となり、守護佐々木氏の分流である在地領主青地氏の勢力下で庇護されてきました。今回の再建にも、青地氏直系の子孫にあたる方が中心的な役割を果たされたようです。
直ぐ近くにある「小槻大社」も青地氏と関りが深くその保護下にありました。青地氏は小槻大社の祭祀権を独占し、各氏子村に榊本衆と呼ばれる家臣を置き祭礼の執行や村の経営に当たらせてきました。現在もその末裔が神事元として中心的な役割を果たしています。
小槻大社 栗東市下戸山200 (既報)
国重要文化財指定の本殿・木造男神坐像2躯 が重要文化財に指定されています。
大社の県指定文化財であった祭礼「小杖(小杖)祭り-(花笠踊り)」は、草津市の7地域に伝わる「サンヤレ踊り」と一体の「近江湖南のサンヤレ踊り」として、国の重要無形民俗文化財に3月にも指定されるようです。
参考文献≪栗東の歴史・広報栗東・栗東の文化・栗東歴史博物館―小地域展、神仏います近江、下戸山自治会ニユース、他より引用≫
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