Monthly Web Magazine Aug. 2020
■ 消える提灯の灯(ともしび) 酒井英樹
大阪ミナミの象徴するものといえば、浮かぶのは「通天閣」「グリコのネオン看板」「くいだおれ太郎」「かに道楽の動くかに看板」「づぼらやの河豚提灯」の5つでしょうか。
かつては知る人ぞ知る存在だったのが、今では全国的に知られています。
新世界界隈
* づぼらやの河豚提灯 と 通天閣
道頓堀界隈
*グリコのネオンサイン
*くいだおれ太郎
かつては食のデパート「くいだおれ」の看板人形。
現在は「中座くいだおれビル」の正面に飾られている
*かに道楽の動くかに看板
カニ専門店で全国にチェーン展開している店のオブジェ。
全国各地にみられるが、本店で動くカニの看板は元祖とされる。
ちなみに「かに道楽エビ専門店(通称エビ道楽)」がかつて存在し、動くカニの代わりに動くエビの巨大看板があった。
このうち「河豚提灯」が今、消滅する危機に見舞われています。
フグ(フク)と言えば下関が頭に浮かぶ。
しかし、大阪では「てっちり」といえば、必ず「づぼらや」が真っ先に浮かぶ。
「づぼらや」は大正9年(1920)の創業で今年でちょうど100年となる老舗。
新世界の本店と道頓堀の2店舗で営業をしていた。
手頃な価格でフグを提供してくれる店として、大阪人としては知らない人がいない店である。
昨年まではインバウンド観光の恩恵を受け大いににぎわったようだが、新型コロナウィルスの影響で客足が遠のき、令和2年9月に閉店することになった。
大阪生まれの私のとって幼少より亡き父に連れられ幾度となく訪れたなじみの店・・・
カメラに収めるべく久方ぶりに訪ねてみた。
新世界本店
道路を挟んで向かいにある本店新館
道頓堀店
水かけ不動で有名な法善寺近くにある別館
新型コロナによる休業要請を受け、すでに休業し店は閉まっている。
当初は6月から再び開店するはずであったが、残念ながらこのまま店を開けることなく閉店する。
ちなみに
看板にある「てっちり」「てっさ」はそれぞれ「河豚のちり鍋」「河豚の刺身」。
関西では、河豚の隠語は「当たれば致命的」ということから「鉄砲」。
河豚のちり鍋、刺身はそれぞれ「鉄砲のちり鍋」「鉄砲の刺身」を縮めて「てっちり」「てっさ」と呼ぶ。
ビルの3階に吊り下げた長さ3m重さ数トンの巨大な河豚提灯の今後は不透明。
松井大阪市長は、大阪を代表するオブジェとして大阪市所有とし保存の方向で検討しているとされる。
しかし、この看板はそもそも法令違反の看板。
大阪市はこれまで看板設置を黙認してきたが、現状のまま所有するとなると一筋縄ではいかないだろう。
保存されたとしても・・店がないままのオブジェでは夜に灯は灯ることはあるのだろうか???
幼少の記憶ではあるが今でも忘れられない、はっきり思い出される風景。
店を出て見上げた時に見た、淡く灯る巨大な河豚提灯がずらりと並ぶ姿。
時代の移り変わりとはいえ、もう見られなくなるのは残念でしかたがない。
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