JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Oct. 2020

Back number

 


■ 2015年秋 - 明日香村の彼岸花 野崎順次



今年は彼岸花を見に行く機会がなかった。お彼岸の連休は、倉敷でコロナ禍で行けなかったお墓まいり、帰りに津山の庭園を拝見したので、畦道に咲く彼岸花を車窓からちらりと見たくらいである。そこで、5年前に明日香村で撮影したものをまとめてみた。赤、黄、白と3色あり、自分としては珍しく色彩がビビッド調である。

その前に彼岸花の基礎知識を調べた。

ヒガンバナ(彼岸花、学名 : Lycoris radiata)は、ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草である。クロンキスト体系ではユリ科。リコリス、曼珠沙華(マンジュシャゲ、またはマンジュシャカ サンスクリット語 manjusaka の音写)とも呼ばれる。学名の種小名 radiata は「放射状」の意味。学名のLycoris(リコリス)とはギリシャ神話の女神、海の精:ネレイドの一人、Lycoriasの名前からとられたもの。

異名が多く、死人花(しびとばな)、地獄花(じごくばな)、幽霊花(ゆうれいばな)、剃刀花(かみそりばな)、狐花(きつねばな)、捨子花(すてごばな)、はっかけばばあと呼んで、日本では忌み嫌われることが多いが、反対に「赤い花・天上の花」の意味で、めでたい兆しとされることもある。

ヒガンバナの球根の中にはリコリン、ガランタミン、セキサニン、ホモリコリンというアルカロイド系毒素が含まれている。リコリンの場合、球根一つに15mg含まれ、ネズミだと1500匹の致死量に相当する。ヒガンバナは、動物や虫から球根を守るため有毒成分を持つようになったといわれている。畦道や堤防によく植えられているのは、ネズミやモグラ除けになるからだ。

しかし、これらの毒素の人間に対する致死量は10gである。球根1個に含まれるのは0.015g程度らしいので、人間が死ぬ可能性はほとんどない。また、毒素は水溶性なので、丹念に水にさらして食用に加工することも可能である。まあよっぽどの場合(昔の飢饉)の非常食材だろう。

稲渕棚田の歴史は古く、中世(平安~室町時代)に開墾された。現在、300枚あまりの水田と畑があり、明日香村の美しい歴史的景観の一部として農村の原風景を強く残している。日本の棚田百選にも選ばれ、秋に畔や土手に咲く彼岸花の県下有数の自生地でもあり、この季節には多くの観光客が訪れる。黄色い彼岸花はショウキズイセンと呼ばれ近縁種である。

        

多武峰に向かう細川谷の棚田は規模は小さいが、上に行くほど傾斜がきつく、眺望の変化も面白い。谷奥の上(かむら)地区から細川地区に下る。

              

蓮花寺。鎌倉後期の十三重石塔がある細川地区のお寺。ここで一輪だけ撮った写真が気に入っている。

 

橘寺の白い花の彼岸花。赤い彼岸花とは別に白花曼珠沙華(シロバナマンジュシャゲ)と呼ばれ、赤色の彼岸花と黄色のショウキズイセンの自然交雑種といわれている。

    

飛鳥寺横の田んぼにて。

 

高松塚周辺

   

 

 

 All rights reserved 無断転用禁止 登録ユーザ募集中