JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Oct. 2020

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■ スガー 酒井英樹


先日、出先での仕事の合間に「スガー」を訪ねてみた。
 ちなみに、○○第99代内閣総理大臣や◇◇第50代内閣官房長官でないので・・念のため・・。

沖縄県本島北部の本部町。
 東シナ海の海岸沿いを走る一般国道449号の道路脇にスガーはあった。
 片道2車線の信号がほとんどない直線が続く法定速度(最高速度の制限標識のない)の一般国道・・で標識がなければ見過ごしてしまう。

 スガーとは幹川流路延長(いわゆる川の長さ)がわずか0.3㎞、最大川幅数メートという・・一見すると取るに足りない小川のこと。
 しかし、昭和47年(1972)5月15日、沖縄が日本に復帰したその日に文部省(現文部科学省)で天然記念物に指定された唯一無二(少なくとも当時は・・)の河川。

 指定名称は「天然記念物塩川」。文字通り塩水の流れる川で、塩川を現地ではスガーと呼ばれている。
 


 塩分を含んだ水の流れる川は全国にあまた存在する。国が管理する一級河川の本川の場合、河口から十数キロの地点まで塩水が遡る。上流から流れてきた淡水と混ざり汽水として流れる。塩分濃度は河口から数㎞地点で30‰(1リットル中30g塩が存在、因みに外洋の海水は平均35‰)に達する。
 また、島根県の宍道湖など汽水湖も存在する。法律上ほとんどの湖は河川の一部と見なされています。(宍道湖は揖斐川水系揖斐川本川宍道湖が正式名称)
 つまり、塩分を含んだ水が流れる川は全国あまた存在する。
    


 では、塩川がなぜ特別なのかというと、源流から河口まで一貫して流水が塩水であること。
 源流の石灰岩の割れ目からの湧き水自体が塩水であり、他の川と違って海水が河川を遡って出来る塩水の川ではないこと。
 このような河川は、近年発見された米領プエルトリコにある某川だけ・・。地球上で現時点で2つしか発見されていない。

 <源流>

   


 試しに源流の湧き水を口に含んだ。海水のように咽せることはなく、ほんのわずかに塩味を感じる程度・・感覚的には多く見積もっても数‰程度に思える。
 前日の大雨が影響したのだろう・・。降水量によって3~15‰の間で塩分濃度が変化するとの調査結果があった。
 また、潮位によって湧き水量が変動することも判っており、塩水が湧く原因は浸透した海水と地下水が混じりサイフォンの原理で湧くという説が有力だが、原因は判明していない。
       

 干潮のためか水位が低いこともあり・・以前に訪れた時に比べ赤土の堆積が顕著に思える。
 日本の重要湿地500に選定されていて、塩川の固有種の藻「シオカワモッカ」が生息するのだが、ほとんど見当たらない。
 川の環境が変わってきている。
 日当たりが良くなった。
 その主な原因が横を走る一般国道449号の拡張だと地元の人に聞かされた。

 河川行政・道路行政の双方を担う者の端くれとして胃が痛むのを感じつつ、いつまでもこのまま変わらない川であってほしいと切に願うしかできなかった。


 

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