Monthly Web Magazine Nov. 2020
■今そこにある危機 (その2) 酒井英樹
しばらく那覇市に滞在していたので、時間を見つけて首里城(グスク)を訪れた。
1年前の令和元年(2019)10月に発生した火災で正殿他中心部分を全焼した後の状況を見るのが目的。
現在、正殿は6年後の令和8年(2026)の再建を目指して整備が始まっている。その他の焼失した建造物も正殿完成後順次復元されるという。
しかし、火災の原因は1年たった現在でも判明しておらず、原因不明と結論付けられている。
だが、首里城火災と同じような火災は予見できた・・いや、予見していました。
再建準備を始めた首里城 正殿跡地
令和2年(2020)9月撮影
首里城の火災の半年前に発生したフランスのノートルダム寺院火災を重く見た国は、5月に国宝・重要文化財建造物所有者(管理者)に対し、説明会(私もオブザーバーとして参加)を行い緊急アンケートを実施し、今後3箇年かけて重要文化財建造物(世界遺産構成建造物を含む)の活用とともに対策を行う予定でした。
そのアンケート結果が、8月に出ています。
因みに平成年間(1989-2019)の30年間に火災で焼失し指定解除された国指定重要文化財建造物は5件である。しかし、指定解除にまで至らなかったが火災にあった建造物は41件に及ぶ。
平成6年(1994)8月焼失(原因不明) 全焼のため指定解除
大恩寺念仏堂(重要文化財 愛知豊川市 平成5年撮影)
平成24年(2012)12月焼失(火の不始末) 全焼のため指定解除
金山寺本堂(重要文化財 岡山県岡山市 平成17年撮影)
火災の原因には、不審火(放火)や遊興用花火(ロケット花火)に起因する火災など不届き者による火災が15件存在する。
現在、重文建造物の43%以上が不特定多数の者が常時接近できる。
平成2年(1990)7月焼損(茅葺屋根、柱等損傷) 修復
旧太田家住宅(重要文化財 神奈川県川崎市 日本民家園 平成24年撮影)
原因:若者によるロケット花火が屋根に直撃して炎上
平成21年(2009)3月焼損(格子戸など損傷)
石上神宮摂社出雲建雄神社(国宝 奈良県天理市 平成22年撮影)
原因:放火
平成28年(2016)1月(障子損傷)
瑞聖寺大雄宝殿(重要文化財 東京都 平成26年撮影)
原因:放火
アンケートの結果、国宝(非国宝指定の世界遺産構成建造物を含む)消火施設はほとんどの建造物で設置されています。しかし、設備自体が30年以上前のもので稼働に支障のある不具合が多発しています。
首里城は消火施設はそろっていました。それでも残念ながら焼失を免れませんでした。
夜間の管理体制は脆弱なことも火災を大きくした一因です。
木造建築(重文建造物の92.8%は木造もしくはノートルダム寺院のように一部木造)は火に弱い、火災要因を近づけないことが一番。しかし重要文化財の建造物内で火の使用するものは全体の30%以上に及ぶ。
大半は現住民家(囲炉裏など)や宗教施設(蝋燭、線香など)でやむを得ないもの。
しかし、避けられるものもある。
重文建造物の側にある初期消火用のバケツの廻りの吸い殻をよく見かける・・。たまに残り火が・・そのようなものさえ存在している。
また、周囲に緩衝帯を作るのが望ましいとある、その一方で土地の有効利用からか常時車両(ガソリンタンク)を駐車しているケースも多く見られ、ここ1月数件遭遇・・これも危険性がある。
重文建造物のすぐ側に駐車場を隣接しているケース
Y神社絵馬堂(重文答申 2020年9月撮影)
O村役場旧庁舎(重文 2020年9月撮影)
一度、亡くしてしまうと二度と戻らない・・あるいは同じように再建しても元の価値を失うであろうことを忘れてはならないと思いながら・・首里城を後にした。
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