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Monthly Web Magazine May 2021

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■ 重要文化財が消える???  酒井英樹

 最近、文化財保護法の一部を改訂を検討する動きがあります。
 第二次世界大戦後の昭和25年に制定された文化財保護法では有形文化財(建造物、彫刻、絵画、書籍、工芸品)は重要文化財に指定することができ、重要文化財のうち世界文化の見地から価値が高いものを「国宝」に指定されるとされている。
 同様に記念物(遺跡、名勝地、動植物および地質鉱物)は「史跡」「名勝」「天然記念物」、内重要なものは「特別史跡」「特別名勝」「特別天然記念物」の二段階指定制度を取っている。

  「国宝」の指定は明治30年(1897)に制定された『古社寺保存法』にまで遡る。
  このとき「國寶」は主に古社寺が所有する彫刻や絵画などを指定し、古社寺の建造物は主として「特別保護建造物」として指定されている。


 『古社寺保存法』の下で指定された建造物

   法隆寺金堂 【奈良県斑鳩町】
 


   住吉大社本殿(第一殿) 【大阪市住吉区】
 


   薬師寺東塔 【奈良市】
 

   唐招提寺金堂 【奈良市】
 

   東大寺転害門 【奈良市】
 

   醍醐寺五重塔 【京都市伏見区】
 

   広八幡神社本殿 【和歌山県広川町】
 


  『古社寺保存法』では文字通り古社寺所有の物件のみが対象。古社寺以外の重要な建造物や旧家所有の絵画等が対象とならないため、指定範囲を広げた『國寶保存法』が昭和4年(1929)が制定された。
  この際、「特別保護建造物」は「國寶」と統合されて指定名称は「國寶」に統一さえた。


 『國寶保存法』の下で指定された建造物

   松本城天守 【長野県松本市】
 


   八窓庵(旧舎那院忘筌)【札幌市中央区】
 

   多久聖廟 【佐賀県多久市】
 
 

  旧閑谷学校講堂【岡山県備前市】
 

   尾山神社神門 【石川県金沢市】
 

   吉村家住宅 【大阪府羽曳野市】
    


  上記の通り第二次世界大戦後、混乱期に生じた法隆寺金堂壁画焼失や鹿苑寺阿弥陀殿(通称「金閣」)放火などを鑑み、昭和25年(1950)に現在の『文化財保護法』が制定された。
  前法の『國寶保存法』で國寶に指定されたものは、全てが一旦「重要文化財」に指定され、上述の通り重要文化財のうち新たに「国宝」に指定されている。


 『文化財保存法』の下で指定された建造物


   歓喜院聖天堂 【埼玉県熊谷市】
 


   正倉院正倉 【奈良市】
 

   旧東宮御所 【東京都港区】
 

   東京駅丸ノ内本屋 【東京都千代田区】
 

   豊稔池堰堤 【香川県観音寺市】
 

   船頭平閘門 【愛知県愛西市】
 

   天城山隧道 【静岡県河津町】
 

   日本橋 【東京都中央区】
 

玉陵墓室 【沖縄県那覇市】
 

  この際、國寶所有者から「うちの本尊が國寶から格下げになった」という抗議や現在でも重要文化財指定建造物の前に『國法○○寺』という石碑が残っていたりと多くの混乱が生じた。

  今回、検討されている詳細は不明だが、有形文化財の指定名称を記念物と同じように統一することがあげられる。
  「重要文化財」をなくし「国宝」に名称変更、現在の「国宝」を「特別国宝」へと名称を変更することになる。

  指定物件をとっても昭和25年時の数倍の数に上る。
  石碑や看板、パンフレットやHPなどWEB上の変更するだけで前回の混乱を上回ることが容易に理解できる。
  『文化財保護法』指定後70年以上たった現在でも「國寶」と「国宝」を混同されている。
  このことから、文化財所有者の団体などからは反対の声が上がっている。

 今回の件に関して詳細が不明な点が多く、今後わかり次第報告していきます。
  
   注、本文は便宜上『文化財保護法』以前に指定された物件を旧字体の「國寶」と表記し、現在の「国宝」と区別しております。

 

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