Monthly Web Magazine May 2022
■ コロナ3年目の動き 千本ゑんま堂大念仏狂言 大野木康夫
新型コロナウイルス感染症の影響で各地の伝統行事が中止になったり神事のみになったりすることがここ2年続いていましたが、今年の春から、感染症対策を行いながら実施する例が増えてきました。
諏訪の御柱は里引きが通常通り実施され、愛知の犬山祭、神戸のだんじり、京都の賀茂競馬、藤森祭も工夫をしながら行われたようですが、行くことができませんでした。
行くことができたのは、連休中に行われた千本ゑんま堂大念仏狂言で、ずいぶん前に夜の部を観たので、今回は昼の部を見ることにしました。昼の部の演目は6つで、3時間ほどの長丁場になりました。
昼の部の最初は、公演の場所である千本ゑんま堂(引接寺)にちなんで、「えんま庁」に決まっています。
「えんま庁」は、ゑんま堂大念仏狂言には珍しく、無言劇です。
鬼が亡者を連れてきて責めますが、亡者が持つ巻物の力で妨げられます。
巻物を取り上げて帳付(書記)に渡すと、実は亡者は善人で、間違って地獄に連れてこられたことが分かります。
帳付は亡者の縛めを解き、鬼を縛って責めます。
帳付と閻魔法王が去った後、鬼は亡者を責めようとしますが巻物の力で果たせず、亡者を背負って極楽に連れていきます。
2番目は「靭猿」です。
ここからはすべてセリフがある狂言となります。
大名が太郎冠者を連れて狩りに行きますが獲物の姿を見ることができません。
そこに猿を連れた猿引きが現れ、猿が大名をひっかいてしまいます。
猿引きは謝りますが、大名は、古くなった靭を作るのに猿を差し出すよう迫ります。
猿引きは逃げようとしますが、弓矢で狙われて仕方なく猿に因果を含めようとします。
猿は櫓漕ぎの芸を始め、猿引きは自分が代わりに殺されても猿を助けようとします。
大名も猿の健気さに打たれ、猿引きと猿を許します。
お礼に猿は踊りますが、大名も一緒に踊ります。
猿が這い廻れば、大名も這い廻ります。
まるで太郎冠者が猿引き、大名が猿のようです。
最後は猿引きと猿は逃げ、大名は我に返ります。
3番目は「悪太郎」です。
泥酔して長刀を振り回していた悪太郎が道端で寝入ったところ、伯父に頭を剃られてしまいます。
悪太郎はあわてて伯父のところに行きますが、うまくごまかされ、「南無阿弥陀仏」という名前を付けられます。
そこに通りかかった御坊が南無阿弥陀仏と唱えると、悪太郎は自分の名前を呼ばれたと思って返事をします。
御坊は相撲取り節などいろいろな歌で悪太郎をからかいます。
4番目は「舌切り雀」です。
爺が柴刈りに行き、婆は雀に糊の番を言いつけて洗濯に行きます。
雀は仲間を呼んで糊を全部食べてしまいます。
婆が帰ってくると、糊がなくなっており、雀のくちばしの跡が残っていましたので、怒って雀の舌をハサミで切ります。
雀はどこかに飛んで行ってしまいました。
雀をかわいがっていた爺は、帰ると婆を叱って雀を探しに行きます。
爺は百姓に雀のお宿の場所を教えてもらいます。
爺は雀のお宿で小さい方のつづらをもらって帰ります。
中身は婆が欲しがるような着物や帯でしたが、爺は婆にはあげません。
どうしても着物が欲しい婆は雀のお宿に行き、大きい方のつづらをもらって帰ります。
つづらを開けると、蛇や蛙など、気持ちの悪いものばかりでした。
5番目は「福釣り」です。
庄屋の家の宝の虫干し、閻魔の笏、姿が消える雪帽子、欲しいものが釣れる恵比寿の釣り竿などがそろっています。
参詣人は恵比寿の釣り竿を借りて酒や太刀を釣ります。
最後に、嫁を釣ります。
庄屋の媒酌で盃を交わします。
庄屋は仲人を探しに行き、二人きりになった参詣人は女と酒を飲もうとしますが、女が酒を全部飲んでしまいます。
参詣人は女の顔を見ようとしますが、おかめ顔だったので、逃げてしまいました。
最後は「船弁慶」です。
これまでは「やわらかもん」と呼ばれる滑稽な演目でしたが、これは「かたもん」と呼ばれる、能をベースにした演目です。
狂言ですので、一部面白くしてあるところはありますが、全般的にはシリアスな構成になっています。
大物の浦から九州に向けて出港しようとする義経と弁慶
静御前は九州には連れていけないので、ここで別れとなります。
義経は最後に舞を一指し所望し、舞い終わった静御前は都へ帰っていきます。
船守が出航の用意をして出航しますが船が進みません。
弁慶が、知盛の怨霊が船の邪魔をしているのに気付きます。
怨霊と義経、弁慶の激しい戦いになります。
途中から、弁慶が怨霊を調伏しようと祈ると、怨霊は退散していきます。
ゑんま堂大念仏狂言は現在27の演目がありますので、できれば全部見たいと思います。
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