JAPAN GEOGRAPHIC

Monthly Web Magazine Sep. 2022


■ 失われかけた建造物 =重文を訪ねて= 阿蘇神社楼門 酒井英樹

  平成28年(2020)4月16日、熊本地方を中心に襲った熊本地震(MJ7.3:阪神淡路大震災の起因となる「兵庫県南部地震」と同規模)。
 熊本城の石垣が崩落し、飯田丸五階櫓が辛うじて崩壊を免れたシーンはまだ鮮明に記憶に残っている。
 この地震で最も大きな被害を受けた重要文化財の建造物は、阿蘇市に鎮座する阿蘇神社の楼門です。
 九州最大の楼門建築で重心が高い構造の上、阿蘇山の火山灰が降り積もって固まった地面と共振(長周期振動)して倒壊してしまった。
 部材(部材数1万1千点)を残らず回収し、不幸中の幸いにも修復可能とされ重要文化財の指定解除は免れ、令和5年12月の完成予定で修理工事が行われている。

  倒壊した阿蘇神社楼門

 


  倒壊前の楼門

  


 阿蘇神社は神武帝の孫で阿蘇を開拓したと伝わる健磐龍命はじめ12柱を祀り、紀元前からの歴史を有するとされている。
 天保6年(1835)から嘉永3年(1850)にかけて、細川熊本藩の寄進により造営され現存する6棟が重要文化財に指定されている。

  阿蘇神社境内平面案内図


  神殿(一の神殿、二の神殿、三の神殿)
       許可を得て撮影

   

  還御門(かんぎょもん)と神幸門(みゆきもん)

   


 の5棟は熊本地震で被害を受けたが、平成30年度末までに部分修理が完了している。
 また、楼門と同時に倒壊した拝殿(未指定)は解体し昨年令和3年(2021)に再建されている。

  倒壊した拝殿

  


  再建された拝殿

  



 解体修理工事で今月上棟祭が執り行われた楼門の修理現場を訪ねる機会があったので以下簡単に報告します。

  覆屋



  一階部分

 


 今回の工事は単なる修復だけではなく、熊本地震と同規模の地震(震度7)に対する耐震補強も工事完成後に外から見えない部分に施している。
  コンクリート構造補強耐圧盤上に置かれた基礎石

 

  2階部分まで貫く鋼管柱

   


  柱の色が変わった部分で旧材と新材を継木(継ぎ手部分には防弾服にも使用されるアラミドロッドの芯で補強)

 

  その他下層小屋裏には耐震用のダンパー(揺れを吸収して小さくする装置)を設や、神職以外入ることができない二階部分には鋼材で補強されている。


 正面唐破風部分と新材を混ぜて修復された棟鬼飾り

   
  

 上層の扇垂木(通常の平行垂木に比べ各部材断面が徐々に変形するため手間と高度な技法を擁する)

  
 

  扇垂木(左側)と平行垂木(右側)の説明模型

 


 上から見た上層屋根
  建築当初はこけら葺きだったが、大正6年(1917)に檜皮葺、昭和52年(1977)に銅板葺に葺き替え。今回は銅板葺に葺き替え

   


  屋根葺き(銅板葺き)用の銅板と養生材

   

  一部屋根の銅板葺き状況

   

 来年末には工事は完成し、楼門の雄姿が現れる。その時には再度訪れてみたいと思う。
 
 最後にご協力いただいた阿蘇神社及び公益法人文化財建造物保存技術協会に感謝の意を表します。
   




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