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Monthly Web Magazine  Dec. 2022


■ 東京大学本郷キャンパスの近代建築 野崎順次

 
明治期の建物がほとんど残っていないのは、大正12年9月1日の関東大震災のためである。大半は煉瓦造建物(屋根は木造)であったが、火災と倒壊のためほぼ全滅した。その復興計画を推進した中心人物が内田祥三(当時営繕課長事務取扱嘱託、工学部教授、後に第14代東大総長)である。現在、本郷キャンパスの国指定重要文化財は旧加賀屋敷御守殿門(赤門)のみで、登録有形文化財は7件あるが、6件は大正/昭和期の内田祥三設計作品である。

内田の推進した学内の多くの建築の復興事業は、大講堂、附属図書館に並行して着々と進められた。
(中略)
個々の建築は鉄筋コンクリートまたは鉄骨鉄筋コンクリート造で、延面積3千坪を越え、地上3階、地下1階が大まかな基準とされていた。そして外壁には淡褐色のスクラッチ・タイルを貼り、ゴシック風の細部、アーチをもつ入口を用いてデザインの統一を図った。このような原則を貫徹したために、秩序ある大学キャンパスが出来上がったのである。しかしながら、各建築は細部においては極めて多様である。アーチの形、付柱の頭部、窓の形式などのヴァリエーションは驚くほど多く、整然とした体感の中に豊かな彩りと魅力を加えていることを見落とすことはできない。
(「東京大学本郷キャンパスの歴史と建物」藤井恵介 東京大学大学院工学系研究科)

今年の11月18日夕方および12日昼に本郷キャンパスの近代建築を見学した。旧加賀屋敷御守殿門(赤門)は耐震検査と改修のため当分閉門で見られない。震災復興建物の登録有形文化財は6件あるが、そのうちの5件は撮影した。季節がら、銀杏の紅葉を優先したので、一部不充分であるが。

国登文 本郷正門及び門衛所 明治/1912
鉄筋コンクリート造平屋建,銅板葺,建築面積46㎡ 1棟
東京大学の正面を飾る一連の施設で,左右対称型に正門・煉瓦塀・門衛所が建ち並ぶ。花崗岩製の正門は,冠木門を基調にデザインされたといわれ,むくり屋根の妻を見せる門衛所とも伝統的な様式形態を保ちつつ新たな時代性を追求している。設計は伊東忠太。
   


国登文 工学部列品館 大正/1925
鉄筋コンクリート造3階建,建築面積766㎡ 1棟
正門の左手奥に建つ建物で,工学部の本部が置かれる。建築途中に震災を受けたが,内田祥三の設計で,彼の震災復興計画に符合する形で完成した最初の建物としても知られる。かつては伊東忠太や関野貞等の収集した中国や朝鮮での調査資料が陳列されていた。
   


国登文 法学部3号館 昭和前/1927
鉄筋コンクリート造4階建,建築面積1727㎡ 1棟
正門のすぐ右手に建つ校舎で,工学部列品館とは東西軸を挟んで向かい合う。正面の出入り口は列品館と同様のゴシックアーチのアーケードを設けるが,東面の意匠は総合図書館と工学部1号館を結ぶ軸線を意識した垂直線を強調する構成になる。設計は内田祥三。
   

法学部3号館と法文2号館の間の図書館通り
   

国登文 法文2号館 昭和前/1938
鉄筋コンクリート造4階建,建築面積3435㎡ 1棟
法文1号館と東西軸を挟んで向かい合う位置に建つ校舎で,1号館同様1階部分にゴシック様式のアーケードを配し通路を設けるが,西端部は法学部3号館を意識したL字型の平面構成となる。法文1号館とも,近年4階の1部が増築された。設計は内田祥三。
    

国登文 法文1号館 昭和前/1935
鉄筋コンクリート造3階建一部4階建,建築面積2695㎡ 1棟
東大キャンパスの主軸をなす正門と大講堂を結ぶ東西軸に沿って建つ校舎の一つで,入口ポーチのフィニアルは,旧校舎のものを再用した。1階部分に三廊形式の教会内部を思わせるゴシック様式のアーケードを配し南北通路を跨ぐ構成とする。設計は内田祥三。
   

国登文 大講堂(安田講堂) 大正/1925
鉄筋コンクリート造4階建塔屋付、建築面積1818㎡ 1棟
ゴシック及び表現主義の影響が色濃く見られる垂直性の強いデザインが特徴。外壁は赤茶色のタイル貼りで,意匠的に極めて優秀である。設計は内田祥三,施工は清水組。昭和63年から平成6年にかけて改修が行われている。
    

登録有形文化財ではないが注目すべき近代建築として総合図書館がある。

総合図書館 昭和3年(1928)
設計 内田祥三
施工 大林組
構造 SRC造 地上3階建地下1階、中央部5階建
     


最後に、今回、撮影できなかった赤門と工学部1号館の説明を付け加える。

国重文 旧加賀屋敷御守殿門(赤門)
江戸後期/1827頃
三間薬医門、切妻造、本瓦葺、左右繋塀及び離番所付 
繋塀:左右各4.1m、本瓦葺 
番所:左右各桁三間、梁間二間、一重、前後唐破風造、本瓦葺

国登文 工学部1号館 昭和前/1935
鉄筋コンクリート造4階建,建築面積3263㎡ 1棟
旧工科大学本館が関東大震災で損壊したため,その跡地に建築されたもので,昭和10年に竣工。鉄骨鉄筋コンクリート造で煉瓦タイル貼になる。外観は正面にゴシックアーチのアプローチが付き,各柱筋にバットレス風の付柱を持つ。設計は内田祥三。

参考資料
文化遺産オンライン
大林組ウェブサイト


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