滋賀県長浜市木之本 丸三ハシモト
Marusan Hashimoto,Kinomoto ,Nagahama city,Shiga
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July 2012 中山辰夫
丸三ハシモト 関連「邦楽器糸の里〜いかぐの里」
長浜市木之本町木之本
「原糸の工程」生糸(いかぐ糸)から「弦の工程」へ。
佃七平工房で出来上がった生糸は、特殊撚糸の製造所でおよそ12の工程を経て弦糸に仕上げられる。
平安時代に始まったとされる楽器糸の生産。
昔は大阪や京都など芸能が盛んな地域に生産の拠点があったというが、時代とともに数が減り現在では全国で7社
しか生産をしていない。
そのうち4社は滋賀県内にあり、全国で一番の楽器糸生産量を誇る。
訪問先は、創業100年余の有力加工企業である。
丸三ハシモト株式会社
長浜市木之本町木之本1049
丸三ハシモト株式会社は良質な生糸の生産地である大音、西山地区と同じ木之本町に創業した楽器糸製造の老舗。
全国各地のプロの演奏家からも高い評判を得ている。
明治41年(1908)創業 昭和41年(1966)水上 勉「湖の琴」で全国に紹介される。
昭和54年(1979)橋本太雄氏 国無形文化財伝統保持技術者に認定され現在に至る。
製造工程
繭のもつ個体差や座繰の過程で生じた生糸1本ごとのむらは、ここで重さ、長さを元にして厳密な選別や
調整を行う。
作業工場は細長い。乾燥用のスペースがいることにもよる。
繰り糸
仕入れた糸を「小枠」に巻き替えていく『繰糸(くり糸)の工程』
寸法取り
その巻き替えた糸を一定の長さで結びをつけていく『寸法取り』の工程
それがすむと糸を5本程度合わせて一本にする『合糸』。
その次に一本に撚り合わせる原糸の量を決定する『目方合わせ』を行う。
懐かしい秤が使われる。目視ではわからない0.01mmの調整が行われていると聞く。
蚕の繭にはバラツキがあり、太さ長さが一定でない、さらに、繭から糸を取り出す時に繭の個数まで
数えていない。したがって重さ合わせが必要となる。糸を規定の長さまで巻いて重量を計り調整する。
繭は、0.44mmの糸で600本、文楽や津軽三味線の1の糸で2400本必要。
この後、合わせた生糸は一晩水に漬けておき、撚糸工程に入る。セリシンが生糸の表面に溶け出てネチャと
なる状態にする。
撚糸 ねんし「別掲」
糸をそろえることができれば次に『撚糸』を行う。
糸を数十本〜数百本合わせて撚りをかけていくが、太さによって撚る回数は異なる。
用途に合う弦糸の太さに応じて撚糸する。
全国でも丸三ハシモトでしか行われていない技法に「独楽撚り」というものがある。
生糸は水に浸かるとのびる。やや乾燥した状態で、これを引張って撚りをつける。
独楽撚りは自然なよりがかかるとされる。浮き出たセリシンは接着の役割を果たす。
染色
三味線の糸は昔から楽器との色合いを考え黄色に染められている。
染料にはショウガ科のウコンの根茎からとられるウコン粉が用いられる。これには防虫効果もあるという。
染色が終わると餅糊で包皮などを施し糸を固める。
糊(のり)煮込み
撚り合わせた糸同士を接着するために行われる工程である。
薄く削ったかき餅を煮て溶かし濾した糊餅と一緒に糸を煮込み、餅のりが糸の接着力を強め、固くなる。
糸張り〜乾燥
糸を引っ張りながら柱にかけていき、自然乾燥させる。
糸を伸ばすだけの部屋の長さが必要となるので、工場は長い場所が必要となる。このことも都会の消費地から生産拠点が
移り変わった要因ではないかとも考えられている
節取り〜選別
竹製の筒に巻き取って形をつけ、筒を抜き取り紙で巻きとめる。
糸に残った節を削り取る。肉眼では見落とす場合があるため、指の感触を頼りに探り当てていく。
微細な節でも、弾き手の指にかかって演奏の妨げになることがあるので見逃せない。
最終仕上げの工程で、経験豊富なベテランしか行えない。
糊引き〜乾燥
糸を糊に浸して表面をコーテイングし、乾燥させる。
糊が薄いとすぐに剥がれて音に張りがなくなり、厚すぎると糸は丈夫でも音が響かなくなる。
このとき、糊が薄いとすぐにはがれて音に張りがなくなる。逆に厚すぎると糸は丈夫でも音が響かなくなる。
切断
定められた寸法に糸を切断してゆく
紙つけ〜糸巻き
竹製の筒に巻き取って形をつけ、筒を抜き取り紙で巻きとめる 。
この状態で商品として店に並ぶ。糸張り場に伸ばした状態で乾燥させてある三味線の糸
検査・完成品
独楽撚り
独楽とよばれる重りを糸の端に結び、特製の板で挟んで回す技法で、糸の撚り加減をおもりの上昇距離から判別する。
独楽まわしは、年季をつんで感覚を身につけないとできない職人技である。週一回程度行う。
三人一組。独楽を扱う人は二人。独楽1個の重さは200g前後
撚る糸の本数をセットすることから始まる。
集めた糸は回転方向を逆にすることでバランスを取り、撚りをかけてゆく。セリシンの接着もあって撚りはもどらない。
独楽の上部を滑らせて撚る。熟練の技が要求される。作業を行う二人のアウンの呼吸も大事な要素である。
できた糸の断面は無数に、複雑に撚りがかかった状態になっており、深い音色が出る源となっている。
テンションをかけながら撚りが進むと糸が短くなるため、二人はそれに合わせて前へ前へと進む。
三味線糸の場合、3の糸を撚って2の糸、1の糸をつくる。
専務さんのお話によると、三味線だけで200種類を超える糸があるという。丸三ハシモトでは350種類以上の糸を製造している。
年間で数本しか作らないものから数万本作るものまで様々だという。
演奏家のニーズにこたえるためには機械化よりも手作業で行う方が多くの声に応えることができるそうだ。
この独楽撚りでしか生み出せない音があり、生産性が低くても「良い音」の追求のため、また技術の伝承のため、あえて
この製法にこだわっているのだそうだ。
「楽器糸は伝統芸能にも深く関わるもので、滋賀県で作られたものが日本中で使われていることを地元の人に知ってほしい。」
絹糸でできた絃というのは世界的にも特殊で、希少価値は高いという。
大音と関わりのある伝承が残る伊香具神社(余呉)は別掲とする。
参考資料≪丸三ハシモトHP、長浜ガイド、糸の世紀・織りの世紀・いかぐ糸の世界、湖の笛、近江伊香郡史、他≫
参考
糸合わせと独楽より
合糸作業は、ふつう十本の糸を合わせて一本にするのだそうな。しかも、この合わさった糸の目方が、一枠ずつ
同目方でないといけない。だから、合糸がすむと、別の小枠にまいて、目方も慎重にはかる。小枠にうつされた
糸は、一段低くなったタタキの部屋の水槽につけられる。この水は、勿論、七つ井戸からきたかけ樋の水である。
水つけが終わった糸は、小舎の中央にある柱に打ちつけた横木に端をくくりつけて、ぴんと張り堅木の独楽に
くくりつけられていた。
いま二人の男が糸をよりはじめた。男衆は両手で、独楽の柄を絞るようにまわした。すると、糸の先の柄ごと
独楽はくるくるまわり、合糸がねじれて、独楽がゆるやかに上昇した。
と、男は、糸をかけた横木を約三寸ばかり移行した。すると、独楽はまた下がった。とまた、くるりと廻す。
一人の男が二つの独楽をまわすので、四つの独楽がくるくるとせわしくまわった。
糸はよりを強めるほどに独楽をひっぱった。背中をまげて無心に独楽をまわす男の額には汗が出ていた。
こうして出来た糸は、かなりの時間かげ干しする必要があった。
したがって、独楽よりの作業場は、乾燥場も兼ねているので、小舎は細長く、二十間もあるかと思われるほど
細長かった。
水は、その間に二度使われる。というのは、糸のセリシンをつよめるために、モチ米をついた糊をくぐらせる際と
染めた後の洗糸の際とである。
水のよしあしによって、出来上がった絃糸の色艶がちがうと職人たちは、口をそろえていった。
≪水上 勉 湖の琴より抜粋≫
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