島根県松江市 ホーランエンヤ(松江城山稲荷神社式年神幸祭)
Horan-Enya, Matsue Jozan Inari-Jinja Shikinen Shinkousai Festival, Matsue city, Shimane
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松江城山稲荷神社式年神幸祭は、松江城内に鎮座する城山稲荷神社の神幸祭で、式年で行われます。
神幸祭が始まったのは慶安元(1648)年で、天候不順による凶作を心配した松江藩初代藩主松平直政(結城秀康の三男)が城山稲荷神社の神主を兼ねていた意宇郡(おほぐん)出雲郷(あだかえ)の芦高神社(あだかやじんじゃ、現阿太加夜神社)の神主松岡兵庫頭に命じ、城山稲荷神社の神輿を芦高神社に船で運んで五穀豊穣を祈願させたのが始まりだそうです。
弘化4(1847)年に芦高神社の神官松岡美濃が書いた『御城内稲荷御社御神供料宝記』によれば、最初に神幸祭が行われた慶安元年が直政が松江に入封してから10年目に当たるため、以降、神幸祭は10年ごとの式年祭とされていましたが、明治14(1881)年に開催された式年祭の際に書かれた「稲荷神社阿加太夜神社江行幸臨時祭典願」(島根県立図書館蔵)には「旧来ヨリ十二年目毎ニ」と12年ごとの開催である旨が明記されており、少なくとも明治又は幕末以降は、12年ごとに開催することが原則であるとされてきました。
文化5(1808)年の神幸祭の時、激しい風雨で難儀した神輿船を大橋川河口の馬潟(まかた)村の漁師が助けて阿太加夜神社まで送り届けたことから、それ以降馬潟村の櫂伝馬船が随行することとなり、それ以降も順次、矢田村、大井村、福富村、大海崎(おおみざき)村と大橋川河口の村々の櫂伝馬船が参加するようになりました。これらの5地区は五大地(ごだいじ)と呼ばれています。
やがて、幕末の弘化年間(1845-1848)に、越後から伝わった櫂伝馬踊りが取り入れられるとともに、華やかな装飾も施されるなど、多くの観客が集まるようになり、現在に至っています。
祭の別名が「ホーランエンヤ」というのは、櫂伝馬船で櫂を漕ぐ櫂掻き(かいかき)が唄う踊りの歌
ホーオランエーエ ヨヤァサーァノサ エーエーラァーノランラン
からきたものです。
祭は、原則12年に1度行われており、昭和60(1985)年、平成9(1997)年、平成21(2009)年と行われていましたが、今回は10年で行われることとなりました。(原則12年なので、昭和60年は16年ぶり、明治36年には9年ぶりの開催ということもあったようです。
「参考1」 ホーランエンヤ2019公式ホームページ
「参考2」 鈴木岩弓 松江のホーランエンヤ −都市における伝統的祭の実態− 山陰地域研究(伝統文化)第2号 1986.3
見物したのは5月18日(土)の渡御祭で、前日の夜行バスで松江駅に5時20分に到着し、コンビニで朝食を摂って観覧場所に向かいました。
観覧場所は松江大橋の南西側の護岸を選びました。
大橋川が汽水域であることを表すエイの姿
神輿が船に乗る対岸
7時30分頃に警備艇が動き始めました。
NHKの中継班
8時近くになって祭の船が集まってきました。
見物する人も増え始めてきました。
なお、松江大橋の真ん中のせり出したところは有料観客席になっていたようです。
8時12分、三番船の大井の船団が到着しました。
神社関係者の船が飾り付けをして集まってきました。
観客も櫂伝馬踊の奉納が始まる1時間前の9時頃には一杯になってきました。
五大地の船団が順次到着します。
五番船の大海崎
二番船の矢田
四番船の福富
一番船 馬潟
船体の「い一まかた」は「いの一まかた」の意味
五大地の櫂伝馬船がすべて到着したのが9時15分頃でした。
松江大橋は観客がすずなりになっています。
9時30分頃、神輿船が到着し、神輿の到着を待ちます。
御幣を清目船に乗せるところ
10時5分頃、神輿が到着し、神輿船に乗ります。
神輿船は一向(いちのむかい、阿太加夜神社の氏子地区)の船が曳航し、中央に向かいます。
のぼり旗のうち、白地のものは役割を示すもので、上の1文字が所属を表します。
(阿:阿太加夜神社、城:城山稲荷神社、本:本部など)
橋にも護岸にも多くの観客
神社関係の船が真ん中に集まり、10時20分頃、櫂伝馬踊の披露が始まりました。
五番船 大海崎
櫂伝馬船は参加が早い方が神輿船の近くを行くことになるので、五大地の中で一番参加が遅かった大海崎が先頭になります。
舳先に「先頭船」と染め抜いたのぼりを上げています。
中央に宝珠と日月の飾り、船尾に剣の飾りを施しています。
四番船 福富
一番初めに櫂伝馬踊が披露される宍道湖大橋と松江大橋の間では、櫂伝馬船は2回周回し、櫂伝馬踊を披露します。
大海崎 2周目
櫂伝馬船乗組員の紹介(参考1による。)
舳先に長棹を持って座っているのは水先(みずさき、矢田では早助(はやすけ))と呼ばれる役で、長棹で接岸、水深測量、接触回避を行います。地区ごとに凝った派手な衣装を着ています。
その後ろで剣をかたどって剣櫂を操って踊っているのが剣櫂(けんがい)と呼ばれる役です。
歌舞伎風の衣装・隈取りに相撲の横綱と化粧廻しを付けた派手ないでたちで、大見得を切りながら力強く踊ります。
動きが激しいため、地区ごとに2名(馬潟は3名)交代で務めます。
櫂伝馬船の漕ぎ手は櫂掻き(かいかき)、櫂方(かいかた)と呼ばれます。揃いの法被に鉢巻き姿で掛け声に合わせて櫂を漕ぎます。
櫂の数は馬潟、大井、大海崎が16梃、福富、矢田が14梃で、替わりも含め多くの要員が乗り組んでいます。
船の中央部付近に立っているのが伝馬長(てんまちょう、馬潟は伝馬頭取(てんまとうどり))で、船長役です。
その近くで、両手を腰に舟唄を高らかに唄い上げているのが音頭(おんど、矢田と福富では音頭取り(おんどとり))です。
櫂掻きは音頭と舟唄を掛け合いながら調子を合わせて力強く櫂を漕ぎます。
音頭の後方で、女子供衣装に烏帽子や花笠姿で太鼓をたたいているのが太鼓(たいこ)で、小学生の子供が務めているそうです。
ホーランエンヤのお囃子はこの太鼓だけとなっています。
左舷の後方に取り付けられた大きな櫂を伝馬長の指示に従い操るのが練櫂(ねりがい)です。
櫂伝馬船全体のコントロールを担っています。
船尾部の四斗樽の上で、女衣装に化粧姿で采(ざい)という飾り布が付いた竹の棒を振って踊るのが采振(ざいふり)です。
体をくねらせ、反り返って激しく踊るため、各船2人(馬潟・大海崎は3人)が交代で務めています。
大海崎 2周目続き
福富 2周目
福富の櫂伝馬船は、宝珠の飾りの他に矢車と吹き流しの飾りを掲げています。
黒を基調としたシックな船体が特徴です。
大井 2周目
大井の櫂伝馬船は宝珠の飾りを船尾にも掲げています。
櫂を漕ぐときに控えも含めて全員が後方に寝るように体を伸ばす寝櫂(ねがい)という漕ぎ方を見せてくれました。
矢田 2周目
矢田の櫂伝馬船は船の中央部に大きな宝珠の飾りを2本掲げています。
馬潟 2周目
馬潟の櫂伝馬船は5隻中最大のものです。
中央の大きなのぼりには一番船と明記されるとともに、他の船のものが赤色であるのに対し、馬潟は神社側ののぼりと同じ紫色となっています。
また、この船だけ、船の中央に花笠姿の招待(しょうたい)又は招き(まねき)と呼ばれる4名の小学生が乗っています。
招待はかつては大きなのぼりの端を持っており、旗持ちと呼ばれていたようです。
他にも、船前方に御神燈を2基掲げたり、采振の頭がかつらではなく鉢巻きになっているなど、他の船との違いがみられるようです。
この時点で11時となり、2周目が終わったのですが、もう少し撮影したくなったので、この後櫂伝馬船が3周する新松江大橋の北西の護岸付近に移動しました。
移動に10分ほどかかり、行くのが遅くなったので、人の頭越しの撮影となりました。
結果的には、撮影に慣れてきたことや、直線で遠くから櫂伝馬船を見通せることから、最初の場所よりも撮影しやすく感じました。
福富 1周目
大井 1周目
対岸を進む福富
矢田 1周目
馬潟 1周目
対岸の矢田
大海崎 2周目
福富 2周目
大井 2周目
矢田 2周目
馬潟 2周目
大海崎 3周目
福富 3周目
大井 3周目
この時点で11時45分となり、12時から予約しているレンタカーの時間に間に合わなくなるため、松江駅方面に引き返しました。
引き返す際に新松江大橋の上から撮影
ホーランエンヤは式年祭で原則12年間隔であっても、関係する2つの神社の都合や資金、地元の準備の大変さなどもあってこれまで様々な間隔(最長が第2次世界大戦をはさむ19年間隔)で行われていたようですが、阿太加夜神社の遷宮や島根国体が重なって16年間隔となった昭和60(1985)年の開催前に組織された松江城山稲荷神社式年神幸祭奉賛会と伝統・ホーランエンヤ協賛会が中心となってしっかりと運営の準備が行われるようになりました。櫂伝馬船も以前は五大地がそれぞれ網取船を調達して改装していたようですが、協賛会がFRPの専用船を用意して各地区に貸与するようになったそうです。以降2回は正確に12年間隔で行われており、今回は当初の間隔とされる10年間隔で行われたようです。
(参考2による。)
今回は、初日の渡御祭ということもあり、思っていたよりも人の動き出すのが遅く、楽な撮影となりました。
次回以降機会があれば、より近くで撮影できると聞いた出雲郷で、できれば陸船渡御がある中日祭に撮影したいと思います。
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