「写真館」
寫眞……旧字体で書くとこんな字になります。
ウカンムリは覆うとか被せるという意味があって、ウカンムリの下の音符の潟(せき)は席に通じて<敷く>という意味があって、実物を下に、その上に紙を敷き書き写すというのが写真の語源、と語源辞典にあります。
ちなみに眞は上のヒがさじ(スプーン)を表し下はかなえ(鼎……中国古代の器物の一種)の象形文字で、意味は<いっぱいに詰まる>、つまり中身がいっぱいに詰まっていて<本物>ということになるそうです。
写真、という略字になってしまった今は見た目に味気ない文字になっています。
看板は江東区永代橋脇の店舗。看板というよりもお知らせです。
写真館が時代の流れに逆らえずに90年に渡る営業の幕を下ろすお知らせでした。
幼稚園、小学校で校庭に参列の保護者と共に並ばせられた入学、卒業の記念写真の多くは、この写真館が来ていました。
私も長女小学校入学の日に、写真機の黒い幕をかぶったり外したりしながら、木の板をずらしたりするベレー帽のおじさんの顔を覚えています。
南向きに設えられた台に、保護者としてまぶしさを我慢して立った記憶。
入学式の頃に満開になる桜が日の丸の国旗の横で咲き誇っていた情景も鮮明に蘇ります。
時は過ぎ、桜は3月の卒業式の頃に咲いてしまい、写真は素人さんでも立派な物が撮れるようになり、育ちの時期に撮る記念写真は貸衣装ともどもあつらえられるスタジオアリスに取って代わられ……年年歳歳という言葉が思い浮かびます。
廃業になった写真館のそのお隣に写っている歯医者さんは営業中でした。
今時のデンタルクリニックではなく「歯科」という看板。
しかも日本家屋で昔の小児科内科のように、ガラスのはめ込まれた木の押し戸がなんともいえない良い雰囲気です。
写真館廃業は残念ですが、歯科はがんばれ!とエールを送りながら写真を撮ってきました。
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