「栃木屋」
東京都墨田区のスカイツリーのある三つ目通り側で見つけた看板。
腹掛、股引、足袋、日本語としてもう死語に近い単語が並んでいました。
これに加えて煙管、三度笠あります。お急ぎの方は駕籠の手配も。
おまけに駕籠かき募集!なんて書いてあったらすごくおもしろいのに、と立ち止まって眺めました。
しかも裏では悪代官と取引があっちゃって、浅草寺や深川八幡様にやってくる大店(おおだな)の旦那衆を集めて夜な夜なつぼ振りの大胴元だったりして。
栃木屋お前も悪よのぉ!と悪代官の高笑い。
悪代官の袖の下に<ぼたもち>(小判)をそっと入れた後にもみ手をする栃木屋、と一つの看板からの想像にしてはちょっと派手だったかしらん、暫くの間、眺めていた私でした。
この店の屋号は「栃木屋」。
県名である愛知屋、福島屋、越後屋などを名乗る看板も都内にはまだまだたくさんあります。
団子屋だったら「伊勢屋」など、薬屋さんやお米屋さんはなど業種によって決まっている屋号もあると聞いています。
この洋品屋さんの初代は栃木県から上京してきたのでしょうか。
たぶん……尋常小学校を卒業したばかりの少年だったのでしょうね。
集団就職で問屋街の中央区横山町に丁稚さんとして住み込まされて、番頭さんになるかいずれ店を持てるようになるかの日を夢見て働く、丁稚という子ども。
家族の一員であるようなないような寂しい存在。
おかずも決められていて、でもおかみさんが陰でそっとおにぎりを握ってくれるような……足袋は売り物だけで自分は素足。
やがて高度経済成長の波に乗って、儲かり始めたそこの家の息子が大学に進む。
自分は学歴はもらえない……でもでもいつかきっと独立の夢を抱く。
それにはお嬢さんのようなお嫁さんでは駄目で、自分を一緒に支えてくれる独立心旺盛の女性を嫁さんにもらうのだ。 顔はとも角として。
そしてのれんわけをしてもらった店を夫婦二人三脚でやっていくのだ!
私の夫が田舎から人形町の叔父の家に丁稚として住み込んだ実話である。顔はとも角の話も実話(笑)。
さてさて勝手な想像とちょっとの実話はこの辺にして、看板考である。
この看板にある<股引>。今年は例年にない寒波で売れているそうである。
股引というネーミングでなく<スパッツ>として。
物の本によると股引は本来は袴が原型になっているそうで、お祭りを体験した人ならアアアレネ、と解ると思います。
両足を突っ込んで残りの2本の紐をどう交差させてどう結べばよいのか解らない、あれれ?
と言いたくなるアレです。俗にバッチといわれています。
おじいさんが履くラクダ色のもも引きと股引は全然違います。
もも引きはズボン下(ステテコも含む。つまりスパッツも)の分類です。
股引は股(もも)の部分にかなり余裕があってゆったりとしてそして足元に下りてきてスパッと細いのです。
袴と似ている仕立てのところから、その時代にある仕立ての技術の中で、布地をあまり使わず(つまり安価に)そして、駕籠かき、馬引きなどの仕事に合わせて(つまり動きやすいように)変形してつくられたのでは?と想像しました。
……道行く人はあごが痛くなるくらい顔を上げてスカイツリーを眺めて行きますが、私は交差点脇に立って看板の写真ばかり撮っています。
本当は看板の上にそびえるスカイツリーを撮って時代の比較のおもしろさを出したかったのですが、私の技術では無理でした。
トホホホ……次回がんばる!
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