Japan Geographic

看板考 柚原君子


「ごきぶり ほいほい」 

(江東区亀戸にて撮影)

初めの製品名は「ゴキブラー」しかし類似品を防ぐために販売に待ったがかかる。

「ごきぶりホイホイ」は会社更生法を適用されて大塚製薬の傘下になったアース製薬を3年あまりで再建させた救世製品である。

1970年、社内で除虫菊の研究をしていた西村昭がごきぶり生態の研究に着手。

1971年、ごきぶり誘引剤の開発に成功。アメリカの家庭用品雑誌の『ワンダーラットボード』という粘着式のネズミ捕りの広告を見つけ、粘着剤で捕獲することで「ゴキブリを見ないで捨てる」ことが可能になると思いつく。

1972年3月、西村をチームリーダーにした社内プロジェクトが本格的に動き出す。

当時のアース製薬は粘着剤の技術が低かったため、粘着シートではなくチューブ入りの粘着剤を採用する。

ゴキブリの習性を研究し、壁に密着させるために断面を五角形にしたり、入り口を登り坂にすることでゴキブリの触覚が粘着剤を感知するのを防ぎながら後ずさり出来なくするなどの工夫を施した。

1972年5月、試作品が完成し、社内公募によって製品名も「ゴキブラー」に決定。

ところが、大塚製薬の大塚正士社長から「非常に面白い商品だ。ただ、今市場に出すとすぐに類似品が出回る。1年待ってその間にもっと練り上げなさい」との指示が出る。

西村は約1年間を費やして、さらに細部を改良して他社の捕獲器との比較テストなどを繰り返した。

そして正士社長が「“ゴキブラー”はおどろおどろしい」との理由から、もっと親しみやすい「ごきぶりホイホイ」という商品名を考案しパッケージデザインをアースの正富社長自身が筆をとって描き、ようやく製品が完成する。

一年後、市場に出る。当初250円の予定が価値ある製品なので450円と決定!

1973年、アース製薬は満を持して、世界初の粘着式のゴキブリ駆除製品の「ごきぶりホイホイ」を市場に投入する。

テレビCMには、アース製の蚊取り線香「アース渦巻」も担当した由美かおるを起用した。

これまでのゴキブリ駆除器と比べて圧倒的な捕獲力で、大ヒット商品となる。生産が追いつかず、スーパーの担当者が問屋を通さずに坂越工場(兵庫県赤穂市)まで直接トラックで現金を持って仕入れに来るほどの事態となった。

製品価格は、当初は250円の予定だったが、正士社長の「原価が安くても消費者にとって価値のある商品だから450円にしなさい」との指示が出ていた。

収益率が高い「ごきぶりホイホイ」の大ヒットにより、アース製薬は、倒産(会社更生)から3年あまりで再建に成功するとともに、害虫駆除メーカーとして不動の地位を確立した。

その後、他社から類似製品が発売されたが、アース製薬は、殺虫・防虫業界のシェア48%のトップメーカーとなっている。

(以上、社史そのほかより抜粋)

気の毒だけど、ゴキブリは衛生害虫。

衛生害虫(えいせいがいちゅう)とは、人間の衛生環境を悪化させる害虫のことだそうです。

人の血を吸うもの、咬んだり刺したりする害虫、人や食品などに触れることで不潔にし、場合によっては感染症の病原体を運び、人々や食品加工業などに多大な影響を与える害虫のことをいい蚊、ダニなどもその中に入ります。

ゴキブリが撒き散らす菌は、大腸菌やコレラ菌や赤痢菌、チフス菌、サルモレラ菌などだそうで、研究ではピロリ菌も持っているという説もあるそうです。

食中毒の大きな原因になる細菌が歩いているって思ってもいいそうです。

同じ様な形のカブトムシが大事にされているのに……と思わないでもありませんが、やっぱり、気の毒でもごきぶりホイホイを買ってしまいます。

しかし、価値あるものは高く売れる、という企業経営者の判断はすごい!と思いました。

企業の命のかかった製品。社長自らが筆を取って製品名を書いたごきぶりホイホイの文字。

街で見るたびに、ごきぶりには悪いですが、親しみを感じます。

 


 All rights reserved 無断転用禁止 登録ユーザ募集中