Japan Geographic

看板考 柚原君子


「運転免許証返納者1割引」 

撮影地 :栃木県矢板市

撮影日時:2010.10

成績優秀だった弟に一度だけ勝ったことがある。卒検を二度行った弟に対して、私は一度で通り抜けた。初めて乗った車は若草色のトヨタカローラ。運転が楽しくて夜の一人ドライブをした。でも、交差点の右折が怖くて左折ばかりで帰ろうとして帰れず、墨田区から新宿区まで行ってしまい、弟に迎えに来てもらった。右折は弟の方がうまかった。

婚約した頃、アパートの契約で夫の待つ不動産屋さんに急いだ。駐車技術未熟でゴツン!バンパーに傷!あっと思ったがアパートの契約が先で急いだ。契約を終えて出てきたら私の若草色のトヨタカローラの周囲に人だかり。工事用重機車両が追突していて窓ガラスがメチャメチャ割れていた。バンパーの傷が小さく見えた。もちろん黙って一緒に直してもらった。

結婚して車はワゴン車になった。夫とケンカした。「日曜日は羽田空港に子どもたちに飛行機を見せに連れて行くって言ったじゃない。約束守らないなら私が連れて行く(首都高に乗ったことが無いけれど……)」

ケンカの勢いで子ども2人と車に乗り込んだ私。夫も無言でついてきてワゴンの後の座席を平らにして寝そべっていた。私は初めての高速道路に冷や汗をかきながら「トラック、寄ってくるんじゃない!」と心で叫びながら飛行場まで必死で運転した。もちろん帰りは夫が運転した。

タクシーに追突一回。タクシー会社の事故係が飛んで来て、言いくるめられた。車間距離を取っていない(と相手の主張)私も悪かったかもしれないけれど、あの急ブレーキの掛け方はひどい!と大声では言えなかった。自営業だったので配達・集金に都内くまなく走ったけれど、事故はこの一回だけ。

夫が早世して事業をたたみトラックについでワゴン車を売った。子どもたちが寂しそうだった。「これからタクシー乗り回せばいいじゃない!」と景気づけに私は大声で子どもたちに言ったが、それ以後一度も乗り回したことが無いと子どもたちはぼやいていた。

成人・結婚で家を離れた子どもの車を久しぶりに運転させてもらった。交差点先にタクシーの列があったが私には動いているように見えた、そのままその列についていこうとした時、助手席の息子の大声「危ない!!!」。急ブレーキ。追突まで10センチくらいだった。即、息子に免許証を取り上げられた。「みんなの人生が駄目になる。もう運転は駄目!」オーバーな、と思ったけれども老いては子に従え、たくさんの思い出のある35年間の運転履歴を50代半ばで閉じた。以後、運転免許証は身分証明書代わりになっている。

高齢者の誤った運転が社会問題化している。自主返納すれば美術館の入園料を割引(10%〜20%)、タクシーの乗車運賃1割引(一部地域) 、銀行預金利息の割増(一部の銀行)、補聴器等の割引(一部地域)、メガネの割引などそのほかにも地方色豊かにあるらしい。免許証自主返納料金は書き換え料金の三分の一の1,000円程度で「運転履歴証明書」を発行してもらえるという。来年やってくる書き換えはこれにしようと思っている

 


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