Japan Geographic

看板考 柚原君子


「National」

所在地:愛知県名古屋市西区那古野1-13-1 【円頓寺(えんとんじ)商店街 内】

撮影日:2016年1月26日

映画館は遠くの町に一つしかなく、娯楽といえば運動場に大きな幕が張られて、そこに写された映画を村人老若男女がゴザを持ち寄って座ってみるというそんな昭和の半ばのこと。

愛知県飛保の曼陀羅寺の末寺である「安楽寺」が村の中にあって、村の会合はほとんどそこで行われていた。

子ども会で紙芝居の催しがあるという日の夜、10歳の私と8歳の弟は手をしっかりと握り合って、闇夜のまさに漆黒と言える中、小石がゴロゴロする細い道を吊り下げ取っ手のついた角ばった電灯で足元を照らしながら寺に急いだ。

空には天の川、少しの怖さと暗闇を縫って吹いてくる風に畑の匂いを感じながら、足元の少し先を照らす懐中電灯の輪の中で次々と石の影をまたがせて先に急ぐ……10歳前の子ども二人だけで夜道を懐中電灯で歩かせるなど、今では考えられないが、当時の子どもは大人の都合に応じて子ども扱いされたり大人扱いされたり、どこの家もこんな感じだったので、お寺の集会所に集まった子どもたちは手に手に懐中電灯を持っていた。

父の懐中電灯は自転車から取り外すことが出来るもので、 かすかな記憶に基づいて、今回の看板の記事を書く前に松下電器(現パナソニック)の社史をのぞいて見ると、似たような絵が見つかった。

(図は社史より引用)

社史を抜粋すると、

1918:松下電機器具製作所創立

1925:ナショナル商標登録

1937:○に稲光を上下に入れたロゴ「ナショ文字」採用

1959:ロゴ「ナショ文字」の背後にナショナルのNが太文字で大きく入る

1966:英文表記ロゴ採用「NATIONAL」

1973:ロゴ改訂「National」

となっていたので、私と弟が夜道を照らしたランプは、やはりこれだったかもしれないと懐かしく見入ってしまった。

ちなみにこのランプを売るためにいろいろなネーミングを考えていた松下幸之助氏は、インターナショナルという言葉を見つけて、国際的という意味では大きすぎるので、国民的という意味でナショナルにしてランプを「ナショナルランプ」と命名したとあった。

「ナショナルランプ」は1927年に初めてナショナルの商標を使って売った商品であり、爆発的ヒットで一ヶ月に3万個も売れたとあり、父の許にもあった可能性が大だと思えた。

さて、「National」と書かれたシャッター看板ですが、以前訪ねた名古屋駅近くの円頓寺商店街を再び訪ねて見つけました。

先回訪問時よりも閉まっている店舗が多く、商店街が生き残る難しさをヒシヒシと感じて歩きましたが、閉まっているからこそ見えた看板もあるようで、看板好きとしては嬉しくなりました。

かなり派手にいろいろなロゴが書き散らされている角地の商店がありました。

Nationalとありますので社史に照らし合わせますと1973年以降に書かれたものということでしょうか。

Nationalのiの字はシャッターの柱の上にありえないような長さのIで表されていて、松下幸之助さんが御存命であれば、刷毛を持って書き換えにいらしたのではなかろうか、と妄想しました。

この商店はビクター犬のニッパーの看板も、SONYもYAMAHAも掲げられていますし、音楽教室も経営の項目だったようで、手広い商いが成り立ち、良くも悪くも人々が勢いよく生きていた時代が想像されるシャッター看板だと思います。

 


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