Japan Geographic

看板考 柚原君子


 「おけぞく」 

所在地:岐阜県大垣市

桶族……桶を愛用する銭湯好きの人々?……違いますね。

ある程度の年齢の人には解ると思います。私の小さい頃は法事は自宅で、また月命日にはご住職様が読経に参られていました。夕食の膳は取り決めだったようで庭を歩いていたニワトリが追い回されたあげくに一羽シメラレ、こってりとした脂の鳥とゴボウの炊き込みご飯がご住職様に供応されます。当然家族もその夜はごちそうにありつけるわけで、お坊さん早く帰らないかなぁ、と子供心に念じて、涎が出るほど待ち遠しかったのを覚えています(普段は麦ご飯でした)。

その「おけぞく」ですが、おけそくさま、と祖母は言っていました。おは尊敬語の「御」、けそくは「華足」という字。

御華足(宗派によっては御華束)は仏様にお供え物を盛る高台の仏具です。そこにお餅を載せることが多いので、仏事のお供えのお餅の別名になりました。

お供え物を載せる高台ですから、お供え物は何でも載せます。一番はお餅、次にご飯、それからお菓子や果物となるようです。お供えには「恵みをご先祖の方々と共に感謝する」という意味があります。特にお餅は蒸したりついたり、つく途中では合いの手のように杵の降りる前に餅米をひっくり返したり、また付き上がればみんなで冷えないうちに丸めなければなりません。

家族総出で協力し合わなければ、おけぞくさんは出来ないのです。

お餅が最高のお供え物というのは家族仲良くの意味が込められているのかも知れません。

杵も臼も持たない場合はこの看板のように「おけぞくあります」、というところであつらえなければなりません。

先日、お友達のご主人の年忌に参列させて頂いたら、御華足の上に白いおまんじゅうが載せられていました。「お餅と違ってすぐに食べられて便利よね」、とお友達に小声で話しかけたら、「あれは中身はお砂糖。それにお寺さんにそのまま行ってしまうので、待っていたっておまんじゅうにはありつけないわよ」。「えっ中身がお砂糖なの。どこであつらえたの?」「ネット!」。

時代は動いていきネットで「おけそくさま」もどきのお砂糖を買う時代。慣習だけではなく言葉も生きたり死んだりします。「マジ卍」という言葉があると先日聞きました。どのような仏教用語かと思ったらJK用語で「まじ?」から発する『信じらんな〜い!」という意味のようです。

語呂合わせに卍をつける?祖母が生きていたら明治女の心意気で「罰当たりどもめが」と小さな声でつぶやいたかもしれません。

 


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