Japan Geographic

看板考 柚原君子


 「三菱かつらエンジン」・「三菱メイキエンジン」  

2018.07 長野県小県郡長和町和田、中山道にて

三菱エンジンシリーズの温かくやわらかみのある楕円形のホーロー看板です。ホーロー看板はマニアにとったら垂涎ものの場合もあります。現在の相場はどのくらいかとヤフーオークションで検索したら「三菱かつらエンジン」の方は3,500円(看板考のかつらは赤色ですが、三菱と同じ色の青もあるそうです)、また「三菱メイキエンジン」の方は6,500円と出ていました。看板年齢は63歳(昭和30年代頃のもの)くらいと思われます。

看板でいう「エンジン」は自動車のエンジンではなく農作業に使われる石油発動機。詳しくはわかりませんが、PRしているエンジン単体では単なる発動機で、例えば歩行型トラクターや脱殻機にベルトやポンプによって動力を伝えて、農作業の重労働が軽減するという機械だそうです。

石油発動機は明治時代に輸入されて、大正時代には国産メーカーが400社くらいあったそうですが、そのうちの多くは自動車や機械メーカーへと転身していき、クボタ、三菱、ホンダ、イセキ、共立、ヤンマーなどが農業関連として残ったそうです。「僕の名前はヤンマー?」「イセキ農機」など小さい頃に農村で暮らした記憶の中にあります。

現在はクラッシックエンジンと呼ばれることもあり、例えば、<小林式木炭ガス発動機12馬力と小林式木炭ガス発生機なるものは、戦前の製造ですが立派に動き2012年に産業考古学会(推薦産業遺産)、2015年に日本機械学会機械遺産に認定されました>などというニュースもネット上にはあります。このように産業機械遺産として認定されることも、また、マニアがいて農家を回って既に使われなくなって放置されているエンジンを集めているグループもあるそうです。

看板は昭和30年代頃のものですが、買うとなると10万円くらいはしたそうで、現在のお金に直すと100万円〜500万円くらいでしょうか。生家は農家でしたが、農閑期には道路工事に出ている父でしたので、エンジンなど買うお金は無かったようで、米の脱殻は父がゲートルを巻いた足で勢いよく踏んで回しているものでした。

ちなみに看板にある「メイキ」とは三菱系列の名古屋にある機械工場で作っているもの、という意味がブランド名になったそうです。(注:2017年10月1日、三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社と三菱重工エンジンシステム株式会社からメイキエンジン関連事業を承継した三菱重工メイキエンジン株式会社が設立し、同事業を行っている)

「かつら」の方は分かりませんでしたが、何かとカタカナの多い中、日本人にとって和名は矢張りホッとする気持ちになれるなぁ、と改めて看板に見入りました。

 


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