「孫太郎虫」
看板所在地:東京都台東区蔵前
漢方薬店にはウィンドーが付いていて、大体は蛇がいます。怖いもの見たさにのぞいてみるとやっぱりいた!……ので、目を閉じてしまいます。しかし、そんな漢方薬屋さんも町の中にめっきり減ってしまいましたが、台東区を歩いていたら「まむし」の大きな看板に出合い、怖いもの見たさにわざわざ信号を渡って近づきました。ウィンドーの中には瓶が並んでいるのみで蛇はいませんでした。
創業明治17年のこの漢方店で売っている品目には「まむし」「孫太郎虫」、秘伝黒焼きとして「猿頭」「狐の舌」「土竜」「鹿角」などがありました。中国では猿の脳を食べる習慣があったそうですが、漢方とはいえ、猿の頭など売買して手に入るのかと少し不気味な気持ちになりました。
そのなかで「孫太郎虫」はなつかしい響きです。祖母が「今度薬売りが来たら孫太郎を頼んどきゃぁよ」と名古屋弁で母に言っていたのを覚えています。
子どもの神経が高ぶった時(江戸時代から疳の虫と言われて、悪い虫が腹の中に入って悪さをするから子どもが夜泣きをする、と信じられていた)に呑ませる民間薬のようなものでしょうか。
孫太郎虫は蜻蛉の一種であるヘビトンボの幼虫です。とてもグロテスクな形をしているそうですが、実際にその薬を見た記憶はありません。私の弟は脱腸の気もあってよく泣いていましたし、孫で長男で跡取りで、祖母にとっての弟はシャレでなく、大切に育てなければならなかった大事な大事な孫太郎だったのでしょうね。
赤ん坊は成長していくときに脳の成長と体の成長のアンバランスがしばし起こり、どうしてよいか分らず、泣き叫んだりテンカン発作を起こしたり目が寄ってしまったりすることがあります。そこまで行かなくても「黄昏泣き」のように交感神経と副交感神経が入れ替わる夕方など、体の状態が安定せずに泣いてしまう赤ん坊もいます。
今では製薬会社で発売されている「宇津救命丸」などが知られていますが、「令和」の時代になろうとしている今、看板の中の「孫太郎虫」を知っている人は相当少なくなっていると思われるますので貴重な看板です。
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