Japan Geographic

看板考 柚原君子


 

「世界長」 

所在地:台東区浅草

看板に見え隠れするイロイロなものが楽しくって看板考を続けています。今回は『昭和を偲ぶ』を売りにしている、浅草の小さなバーの店舗の壁に並べてあったお酒の銘柄看板から。
「世界長」は日清・日露戦争で世界の長に日本がなるようにと願って命名された灘のお酒です。由来を知れば、現在では物騒な!と騒がれること必定の命名です。世界の長になるのは良いことですが武力ではいけませんね。

世界長酒造は兵庫県西宮市で1818(文化2)年創業。戦時中の企業整備で3つの蔵が合併されて興亜酒造(有)に。昭和中頃になって世界長酒造(株)に社名変更。

お酒を飲めない人でも知っている『灘の生一本』という言葉は勇壮な男らしいお酒を想像します。灘は清酒の生産高がすごい所で、特に兵庫県西宮市から神戸市東部にかけての海岸沿いを「灘五郷」と言い「世界長酒造」のある御影郷を初めとして今津郷、西宮郷、魚崎郷、西郷などに分かれています。お酒に名水は欠かせませんのでこの地方で発見された名水「宮水」により、日本酒の蔵元が多い場所となっていったそうです。
日本初の南極観測船「宗谷」にも積まれた「世界長」でしたが、1995(平成7)1月におきた阪神・淡路大震災で世界長酒造のある一帯は火の手に包まれ蔵元が焼失。同年7月に廃業届が出されて「世界長」のブランドは西郷の「沢の鶴」に引き継がれましたので現在でも嗜むことができるお酒です。
「世界長」の影に隠れていた日清、日露戦争。
昔々に明治生まれの祖母から習った数え歌を思い出します。当時は意味もなにも解らなくって、でもリズムはしっかりインプットされていて今でも歌えます。
「イチレツランパンハレツシテ、ニチロセンソウハジマッタ、サッサトニゲルハロシアノヘイ、シンデモツクスハニホンノヘイ、ゴマンノヘイヲヒキツレテ、ロクニンノコシテミナゴロシ、シチガツヨウカノタタカイニ、ハルピンマデモセイッテ、クロバタキンノクビヲトリ、トウゴウゲンスイバンバンザイ」

1から10までを頭に付けた数え歌で、日本有利な正当性のある戦と情報操作されているような歌。クロバタキンノクビヲトリなど戦争を称えるような子どもに歌わせるにはなかなか残酷な歌ですが、それでもこの歌で、楽しくまり突きしたりお手玉したりしたことを覚えています。

この中で解らない部分は「イチレツランパンハレツシテ」ですが、調べてみると、日露開戦直前の1904年1月に最後の交渉が決裂したことを指していて、1月の交渉、一列に並んだテーブルでの交渉が決裂、破裂して、戦争に突入したと表しているようです。

だんだんに時代は遠くなります。が、戦争によっていくつもの尊い命が失われて今があること、阪神・淡路大震災やその後の東日本大震災で普通に暮らしていた人々が多く亡くなって、震災被害に強い街造りが進められていることなどは、忘れてはならないと思います。
 

 


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